2012年11月20日

épisode / ベンジャミンの涙 -scene:1-








         :夜の街 ---

        SE:濡れた路面を走り去る車 ---
         :微かに聞こえるパトカーのサイレン音 ---
         :そして、音もなく振る霧雨 -----


女    「悲しいほど静かだね ... 何だか嘘みたい ... こんなのって ... 」

男    「 ...(ライターでタバコに火を点け、ゆっくりと喫う)」

女    「音もなく降る雨って、このことを言うんだ ... 」

男    「それでも確かに雨は降ってる ... 紛れもない事実だよ」

女    「そうね ... そうだわ ... 嘘じゃないんだ、この雨は。それに ...
      今夜の出来事も、嘘じゃないのよね ... 」

男    「 ...(タバコを一口喫い)夢じゃないってことだけは云える ... 」

女    「(淋しく笑い)起きたまま見る夢なんて、ないものね ... でも ... 」

男    「 ... どうかした?」

女    「 ... どうかなァ ... 」

男    「何が ...?」

女    「出逢ってから今日まで ... ひょっとしたらこれは夢だったかもしれない ... 」

男    「 エッ ...?」

女    「 ... そう ... 夢よ、夢 ... 案外そうかもしれない ... 」

男    「 ... エミ ... 」

女    「 ... だってそう思う方が、いいもの ... 」

男    「 ... 」

女    「(消え入りそうな声で)そう思う方が ... 」


        SE:時を告げる鐘の音 -----


女    「 ... そろそろ時間だね」

男    「 ... そうだな ... 」

女    「じゃ、ここで ... サヨナラしょう ... 」

男    「いいさ ... 送るよ、家まで」

女    「ううん、いい」

男    「そう言わずに、送らせろよ」

女    「ホントにいいの、ここで」

男    「 ... どうして」

女    「ちょっと寄りたい所もあるし、それに ... 」

男    「それに ...?」

女    「この雨で少し目を覚ましたいの、だから」

男    「そうか ... わかった ... じゃ行くよ」

女    「 ... ウン ... 元気でね」

男    「 ... お前もな」

女    「ご心配なく ... 私はいつだって元気だから」

男    「そうだな ... そうだったな ... 」

女    「そっちこそ、元気でね」

男    「ああ ... それじゃ ... 」


        SE:歩き出す男の靴音 ---

         :しばらくして、呼び止める女の声 -----


女    「ねえ ...!」


         :立ち止まる男 ---

         :少し距離のある二人 ---


女    「(少し大きな声で)今度私をどこかで見かけても ... その時は ... 」


        SE:雨が少し強くなる -----


男    「(大声で)その時は何だ ...?」

女    「(つぶやく)その時は ... 
      (大声で)その時は ... エミって呼び捨てにしないでねーッ!」


        SE:雨音 -----


男    「(つぶやくように)そうだな ... そうだよな ... (大声で)わかった ...!」


        SE:再び歩き出す男の靴音 -----

         :強く振る雨 -----


女    「(ポツリと) ... サヨナラ ... 」





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2012年11月13日

épisode / 週末のヴィンテージ -scene:final-






         :サンドリオンの店内 -----


男    「それは『マーカム・シャルドネ』の95年 ... その方がいいんじゃないかと
      思うんですが ... 」

女    「95年 ...?」

男    「たまには違うワインもいいと思いますよ、気分も変わって。
      それにヴィンテージ...
      つまりブドウの収穫された時期からいえば、そっちの方があなたの口に
      合うんじゃないかと、そう思うんです」

女    「『マーカム・シャルドネ』の95年 ... 」

男    「どうでしょう? 一度試されてみては?」

女    「 ... でも、私 ... 」

男    「ソムリエの僕が保証しますよ。きっと気に入ってもらえると思います。
      ねえ、マスターもそう思いませんか?」

マスター 「そうですね ... そうかも知れませんね ... 」

男    「大丈夫、白ワインには変わりないんですから」

女    「でも ... 私はやっぱり .... このワインがいいんですよね ... 」

男    「エ ...?」

女    「ごめんなさい ... せっかく薦めてくださってるのに ... 」

男    「(軽く笑って)いや、気にしないでください ... 好みのものですからね
      これは。 ... でもそうなると、余程そのワインがお気に入りってこと
      なんですね」

女    「 ... というより ... この白ワインはむしろ、私のすべてなんです」

男    「あなたのすべて ...?」

女    「実はこのワイン ... 想い出のワインなんです」

男    「メモリーワイン ...?」

女    「ちょうど3年程前にある人と最後に飲んだワイン ... それがこのワイン
      なんです ... その時の味が忘れられなくて ... こうして今でも口に
      してるんです」

男    「最後に飲んだワイン、ですか ... 」

女    「ええ ... その人が日本で過ごす最後の夜に ... 」

男    「海外へいかれたんですね、その人は」

女    「 ... そうです ... このワインが産まれた国へ ... 」

男    「カリフォルニアか ... 」

女    「急に仕事であっちへ行くことになって ... それで最後に彼とここで
      飲んだのが、このワインだったんです ... ちょうど週末の夜、この席で」

男    「彼とここで ... 」

女    「 ... フィアンセなんです、彼 ... 」

男    「そうか ... フィアンセか ... 相場ですね、それって ... 」

女    「エッ?」

男    「いえ、何でもないです ... でもそれで納得出来ましたよ」

女    「納得 ...?」

男    「何故あなたが週末の夜に一人で、そのワインをここで飲んでいるのか ...
      それなりの事情があったんですよね、やっぱり」

女    「 ... 単に女が一人、想い出に酔ってるだけなんです ... 」

男    「とんでもない ... 素敵じゃないですか、そういうのって」

女    「 ... そう云って頂けると救われます ... 」

男    「ちなみに ... 待ってるんですよね ... その彼が帰ってくるのを」

女    「 ... そうですね ... 私にはそれしか出来ませんから ... 」

男    「だから絵になってたんだな、きっと ... 」

女    「そういうものでしょうか ... 絵になるって ... 」

男    「そうとは知らず、失礼しました ...
      まったくお門違いのワインを薦めたりして ... 」

女    「いいえ、とんでもない ... 私こそすみませんでした ...
      せっかく薦めてくださったのに ... 」

男    「いや、気にしないでください ... 」

女    「ごめんなさい ... 」

男    「いいえ、ホントに気にしないでください ...
      それより、一つだけ質問してもいいですか?」

女    「はい ...?」

男    「そのワイン ... いつも98年ものをオーダーされてたようですが ...
      それには何か意味でも?」

女    「それは ... 彼が日本を発った年なんです ... 」

男    「 ... なるほど ... それで3年前の98年ってことか ... そうか ... 」

女    「どうなんでしょうか? 専門的な立場からそのヴィンテージのこのワインは」

男    「そうですね ... 知りえる範囲では ... 」



マスター(Na)『グラスマウンテン・シャルドネ』の98年 ...
      シャルドネ種を100%使用し、シュールリー法で醸造され、その上でオークの
      樽で熟成された、フレッシュながらコクのある澄みきった風味の辛口のワイン
      で ...

      それは聡明で清楚な彼女に似合った、最高に素敵でお洒落な白ワインだと私は
      感じておりました ...

      そしてそれはもちろん ... ソムリエである彼も、同じように感じていたこと
      でもありました -----






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2012年11月12日

épisode / 週末のヴィンテージ -scene:3-








マスター(Na) この店はお客様にとって、ある意味での憩いの場でした ...
      お仕事柄、メニューにあったワインを人にセレクトする立場である彼が
      客としてくつろぎ、好きなワインやカクテルを好きなだけ、自分の為に
      飲める場所 ... そんな存在の店でした ---

       ... そのお気に入りのこの店に、週末何度か彼と居合わせる女性が
      いらっしゃいました ---

      いつも窓際のカウンターに席を取り、多分お気に入りであろう白ワインと
      軽い一品料理をオーダーする彼女 ...

      誰と連れ立っているわけでもなく、見かけるたび一人でいるその女性の
      存在に、最初は興味本位だったはずの意識が、いつのまにか気掛かりとなり
      今でははっきりと、愛おしさを自覚するまでに、彼の気持ちは高まって
      いらっしゃったようでした ...

      そして5回目の出会いの夜 ...
      名も知らぬ彼女から一つ席を置いた場所に彼は陣取り、さりげなく声を
      かけたのでした -----


         :サンドリオンの店内 -----


女    「いかがです? お近づきの印に乾杯を ... 」

男    「いいですね、いい感じですね ... それじゃ、お言葉に甘えて ... 」

女    「 ... 乾杯」

男    「乾杯 ...!」


         SE:二人のグラスが重なる -----


男    「ン ... うまいなァ ... 」

女    「 ... 実は私 ... 好きなんです ... 」

男    「エ ...? いや ... まいったな、こりゃ ... いきなり ... 」

女    「このワインが」

男    「あ? ああ、そのワインがね ... そうそう、そのようですね ... いつも
      その白ですもんね」

女    「エッ?」

男    「あ、いや、その ... 近頃よくここで、あなたを見かけてたものですから。
      何しろいつも、この週末のこの時間この席で、そのワインを飲まれてるんです
      からね ... それも女性が一人で ... 誰だって気に留めるでしょう ... 」

女    「(少し笑って)... 確かにそうですよね ... 何とかの一つ覚えみたいな感じ
      ですもんね」

男    「いや、そんなことはないですよ ... 絶対に。それより何かこう ... 素敵だと
      思いますね。そうして窓際でグラスを傾けられてる姿が ... 絵になってます
      よ」

女    「(軽く笑い)ソムリエさんって、お上手なんですね ... お世辞が」

男    「いや、そういうものじゃなくて ... 僕は思ったことを言ったまでで ... 」

女    「それはどうも ... ありがとうございます」

男    「いえ、とんでもない ... ついでにもっと素敵なことを教えましょうか?」

女    「素敵なこと?」

男    「僕の知り得るヴィンテージから云えば、あなたが今飲まれてるそのワインより
      あなたにもっとお似合いのワインがあることを ... 」

女    「私にお似合いのワイン ...?」






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2012年11月11日

épisode / 週末のヴィンテージ -scene:2-






         :サンドリオンの店内 -----


女    「(少し笑いながら)いつもそうなんですか?」

男    「いや、そんなことはないんですけど ... 」

女    「でも今、またやったって」

男    「いや、それはその ... 何やってんだか、俺は ... 」

女    「ユニークな方なんですね ... 」

男    「いや、そういうつもりはないんですけど ... たまたまそうなっただけで ... 」

マスター 「お待たせいたしました ...(女の前にグラスを置き)どうぞ」

女    「どうも ... (男に)それより... このワインのことで何か?」

男    「エッ? エエ ... まあ ... 」

女    「確かさっきこのワインが、あの海の向こうで産まれたものだとかおっしゃって
      ましたけど ... よくご存知なんですか? ワインのこと」

男    「エ? エエ ... 仕事柄、多少人より詳しい程度ですが ... 」

女    「仕事柄 ...?」

男    「一応、これでもソムリエでして ... 」

女    「そうなんですか」

男    「それで失礼ながら、そのワインに興味があったもんですから、つい声をかけて
      しまったわけで ... 」

女    「そうでしたか ...
      そういえば、ソムリエの方には悪い人はいないと聞いたことが ... 」

男    「ありがたいセリフですね、それって」

女    「確かマスターからそう聞いたような ... 違いましたっけ、マスター?」

マスター 「そうですね ... お話ししたような記憶がございますね、確かに」

男    「さすがマスター ... 僕、感激だな。おかげで鼻が高いですよ」

マスター 「それはどうも ... しかし実は私も、あるお客様から教わりました受け売り
      でして ... 」

男    「あ、そうなんだ ... そんなこと云ってくれる人が他にもいるんだ」

マスター 「そうですね ... 」

男    「一度会って飲んでみたいもんだな、その人と。一体どんな人なんだろうな」

マスター 「今ここに、いらっしゃいますが ...?」

男    「今ここに? ここにって ... 」

マスター 「私の目の前に」

男    「マスターの目の前にって ... あ ... ああ、そっかそっか、そういえば前に
      僕がマスターに云ったことありましたね、そんなこと、ああ、そうだそうだ、
      (馬鹿笑い)アハハハハ ... 」

女    「確かに ... 悪い人ではないようですね ...(微かに笑う)」

男    「ア、ハア ... 」

マスター 「お待たせいたしました(男の前にグラスを置き)どうぞ ... 」

男    「あ、どうも ... 」

女    「いかがです? お近づきの印に乾杯を ... 」

男    「いいですね、いい感じですね ... それじゃ、お言葉に甘えて ... 」

女    「 ... 乾杯」

男    「乾杯 ...!」


         SE:二人のグラスが重なる -----


男    「ン ... うまいなァ ... 」

女    「 ... 実は私 ... 好きなんです ... 」

男    「エ ...?」






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2012年11月10日

épisode / 週末のヴィンテージ -scene:1-








男(Na)  その店は僕にとって、ある意味での憩いの場であった。
      仕事柄、メニューに合ったワインを人にセレクトする立場である私が
      客としてくつろぎ、好きなワインやカクテルを好きなだけ、自分の為に
      飲める場所 ... ここはそんな店だった ---


        SE:ドアの開く音 ---


マスター 「いらっしゃいませ ... ようこそ」


男(Na)  店の中はゆったりとしたカウンターだけの造りで、壁際には船の錨と
      12時を指したままのアンティークな時計が飾られ、狭すぎず広すぎずと
      いった具合のスペースで ...
      中でも僕がお気に入りなのは、窓越しから街が見えるというこの店の
      ロケーションと、清楚で凛としたこの店のマスターの存在だった ---


マスター 「今夜はいかがいたしましょうか ...?」

男    「(コートを脱ぎながら)いつものやつで、お願いします」

マスター 「かしこまりました ... あ、お客様 ... 」


男(Na)  山手の高台に位置するだけあって、ここから見える夜の風景は申し分なく
      グラスを片手に、自分なりにくつろぐにはまさに持って来いの場所でも
      あった ...

      ... そんな僕のお気に入りの店に、週末何度か顔を合わせる女性がいた ...
      いつも窓際のカウンターに席を取り、多分お気に入りであろう白ワインと
      軽い一品料理をオーダーする彼女 ---


女    「すみません ... 今夜のお薦めのこれを ... それといつもの白を ... 」

マスター 「はい、かしこまりました ... 」


男(Na)  誰と連れ立ってくるわけでもなく、見かけるたび一人でいるその彼女の
      存在に、最初は興味本位だったはずの意識が、いつのまにか気掛かりな
      存在となり、今でははっきりと、愛おしさを自覚するまでに、僕の気持ちは
      高まっていた ...
      そして今夜で5回目 ...
      名も知らぬ彼女から一つ席を置いた場所に僕は陣取り、さりげなく口を
      開けた ---

     「ちょうどあの海の向こうにある国で生まれたんですよね ... そのワイン」

女    「エッ? ... (彼顔を見て少し笑う)ウフフフフ ... 」

男    「? どうかしました ...?」

女    「ごめんなさい ... でも ... 」

男    「でも ...? でもどうしたんです?」

女    「鼻の上に ... ケチャップが ... 」

男    「エッ...? ア ... さっきのハンバーガーか ... またやった ... 」





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