2012年12月21日

Mémoires / Père Noël '98 - scene:1 -








バーテン(Na) 今宵の物語は ...

      ここ神戸、北野で ...
      この季節に起こった出来事の回顧録 -----

      そう ...
      あの藤堂様(千夜一夜 / アラカルト)が帰国された時のお話です ...

      そしてそれはマスターにとって ...
      三度の再会の時間でもありました -----



マスター(Na) こちら神戸では ...
      街並みが幾度かの衣替えをすませ、行き交う人々の吐息も白くなり始め
      街路樹たちがいっせいに、冬の支度をし始めました ...

      この季節の街路樹には灯りが点り、街はイルミネーションに包まれ
      さながら真冬のカーニバルのような賑わいをみせております .....

      そんないつもと変わりないこの地を発たれてから、はや一年と半年余り ...
      その後、お変わりございませんでしょうか ...?

      この店のオブジェとしていただいた船の錨が、私の目に留まるたび、あの時の
      ことが思い起こされ、今でも昨日のことのように想われてなりません .....

      ここ日本を離れられた今では、久しくお声を聞かないだけでなく
      お便りまでも遠のいてしまわれたので、心なしか淋しく思っております ...
      こんな気持になりますのも、この白い季節のせいなのでしょうか ...?
      それとも .....

      この街にも、まもなくクリスマスが訪れようとしております ...
      誰もが待ちわびるサイレント・ナイト ...
      静寂な夜に鳴り響くジングル・ベル ... そして ...
      人々の心に宿るサンタクロース .....

      果たして異国の地でお迎えになるイヴは、どのような趣なのでしょうか?
      私には ... 白い小雪舞い散る夜に、モミの木のツリーのそばで
      この手紙を読まれているような、そんな光景が目に浮かぶのですが ...
      いかかがなものでしょうか ... ?

      それでは ...
      いつの日かまた、お会い出来る日を愉しみにしております ...
      それまで、どうぞお体をご自愛の上、日々お過ごしください ...

      最後に ...
      遠くこの神戸より、このメッセージをお贈りけいたします ...
      Merry Christmas Mr.藤堂 -----



        SE:飛行機の着陸音 -----


藤堂(Na) こんなマスターからの手紙に反して、私がこの手紙を目にしたのは
      道行きの飛行機の中だった ...

      つまり私は、遥か白い雲の上で、味気ないイブを過ごしたわけだ。
      いやはや何とも ... 私らしい顛末だ .....


        SE:空港ロビーの雑踏 -----


藤堂(Na) そんな私が今日、日本へ帰ってきた ...
      そう ... 導かれるかのように、ここ神戸へ ...

      そしてその行き先は ... 神戸、北野の ... 場末の止まり木 -----





タグ:回顧録
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2012年11月24日

épisode / ベンジャミンの涙 -scene:final-








バーテン  今宵は『 BAR CENDRION 』へお越し頂き、誠にありがとうございました。

      ではここで ... 今回登場いたしましたカクテルを、改めてご紹介させて
      頂きます。

      カクテルの名は『グレイハウンド/GREYHOUNDO』-----
      グラスの縁にデコレートされた塩が、味を調えるサポート的な存在である
      『ソルティ・ドッグ』を、あえてスノー・スタイルに仕上げないカクテルが
      この『グレイハウンド』...

      実はこのカクテル ...
      その他にもサブ・ネームがあり、『テールレス・ドッグ』や『ブルドック』
      とも呼ばれ、それぞれの名前で親しまれている一品なのです。

      レシピは ...氷を入れたタンブラータイプのグラスにウォッカ(30〜45ml)と
      冷やしたグレープフルーツ・ジュース(適量)を入れ、あとは軽くステア
      すれば出来上がりです ---

      ちなみに、先程ご紹介いたしましたそれぞれのネーミングにはれっきとした
      意味がございまして、『テールス・ドッグ』は尻尾のない犬、『ブルドック』
      は尻尾が極めて短い犬というもので、今回登場した『グレイハウンド』は
      非常に足の速い猟犬は尻尾が見えないというとことから、ネーミングされた
      ようです ...

      つまり、塩そのものを犬の尻尾にたとえ、表現しているようですね ---
      しかしこの『グレイハウンド』は ...
      時としてオーダーされた方が流す『涙』というエッセンスで、たちまちその
      テイストを『ソルティ・ドッグ』に変えてしまうカクテルでもありますので
      くれぐれもご用心くださいませ ---

      それでは ...
      またのお越しを、心よりお待ちしております ...

      ありがとうございました -----






タグ:レシピ
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2012年11月23日

épisode / ベンジャミンの涙 -scene:4-








         :サンドリオンの店内 -----

        SE:静かに流れるジャズ -----


女    「ありがとうございました ... 私、そろそろ帰ります。雨も止んだようなので」

バーテン 「そうですか ... お引留めして申し訳ありませんでした ... 」

女    「いいえ ... それどころか私、ここにいて良かったと思ってますから、気に
      しないでください」

バーテン 「そう言って頂けると ... 幸いです」

女    「それじゃ、失礼します ... マスターによろしくお伝えください」

バーテン 「かしこまりました」

女    「おやすみなさい」

バーテン 「ありがとうございました ... お気をつけて」


         :女、行きかけて立ち止まり -----


女    「そうだ ... 」

バーテン 「どうかなさいましたか ...?」

女    「マスターに伝言をお願いしたいんですが ... 構いませんか?」

バーテン 「何なりとどうぞ ... 」

女    「お返ししたその本 ... 栞のあるところまでは、ちゃんと二人でよみました
      からと、そう伝えておいてください ... 」

バーテン 「かしこまりました ... 」

女    「それじゃ ... 」

バーテン 「ありがとうございました ... 」


        SE:女、店を出て行く/ ドアの音 -----


女(Na)  外は雨だった ---
      音もなく、静かに街を濡らしていた ---

      どうやらこの雨は、私のハートのバロメーターのように、一晩降り続ける
      ようだ ...
      でも、今夜の私のシチュエーションには、ちょうどいいかも知れない ---
      何故なら ... すがるものをなくした女には、持って来いの雨だから ...

      「だって今、私の頬を軽く伝うのは ... 雨の雫なんかじゃないから ... 」

      私には ... 今夜の雨が愛おしく思えた -----


バーテン(Na)彼女が残していった千夜一夜物語には、確かに本の中程のページに栞が
      ありました ...

      しかし、それはただの栞ではなく ...

      ベンジャミンの葉を小さくしたような、涙の跡という栞でした -----






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2012年11月22日

épisode / ベンジャミンの涙 -scene:3-








         :サンドリオンの店内 -----

        SE:静かに流れるジャズ -----


女    「実は、今夜マスターに会いに来たのは ... この本を返そうと思って来たん
      です ... 」


        SE:カウンターに置かれる厚みのある本 -----


バーテン 「千夜一夜物語 ... 」


女    「これは以前マスターが、私たち二人にプレゼントしてくれたものなんです ... 」

バーテン 「私たち ... 」

女    「正確に言えば ... 彼と私とになりますね ... 」

バーテン 「そうですか ... でも、マスターがプレゼントされたものをどうして ... 」

女    「 ... もう二人で一緒に、この本を読めなくなったから ...
      それで ... マスターに返そうと思って ... 」

バーテン 「そうでしたか ... しかし受け取るでしょうか ... マスターがその本を」

女    「それはわかりません ... でも少なくともマスターは理解してくれると思うん
      です ... この本を返そうとした私の気持ちを ... 」

バーテン 「マスターがその本をお二人にプレゼントしたのには、きっと何か特別な意味が
      あったんだと思うのですが ... 」

女    「そうです ... 確かにそうです ... だってマスターはあの時 ...
      この本を、ずっと二人で読みなさい ... 仲がいい時も悪い時も ...
      そうすれば少なくとも、この本を読み終えるまでには、二人は一緒にいられる
      ようになるからって ... 」

バーテン 「 ... なるほど ... それで千夜一夜物語ですか ... 」

女    「でも、駄目だった ... 私たちはこの本を、最後まで一緒に読むことは
      出来なかった ... 」

バーテン 「ではこの本の結末を、今は知る由もないと ... 」

女    「私一人で読むには ... この物語は少し長すぎるような気がして ... 」

バーテン 「千夜一夜物語 ... アラビアンナイトか ... 」

女    「ごめんなさい ... つまらない話しでした ... 」

バーテン 「いいえ ... とんでもありません」


         :女、カクテルをゆっくりと一口 -----


女    「このカクテル ... 雨の夜に飲むには、少し不似合いでしょうか ... 」

バーテン 「いいえ ... グレイハウンドのTPOはオールディですから、そんなことは
      ございません ... 」

女    「(ポツリと)差し詰め ... 今夜の雨もこのカクテルも、幕切れにはお似合い
      ってところかな ... 」

バーテン 「今夜は特に ... 静かな雨のようですね ... 」

女    「そうですね ... ホント、悲しいほど静かな雨ですよね ... 」


         :女、カクテルをゆっくりと一口 -----


バーテン 「 ... ご存知でしょうか ...?」

女    「エ ...?」

バーテン 「ベンジャミンという観葉植物を」

女    「ええ ... それが何か ...?」

バーテン 「この季節にベンジャミンの葉がはらはらと落ちるのは ...
      恋する人たちの流す涙の代わりなんだそうです」

女    「涙の代わり ... 」

バーテン 「そしてその後に、ベンジャミンには新しい芽が生まれるんだそうです ... 」

女    「新しい芽 ... 」

バーテン 「きっと今夜も ... どこかでベンジャミンの新しい芽が、生まれているような
      そんな気がするんです」

女    「バーテンさん ... 」






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2012年11月21日

épisode / ベンジャミンの涙 -scene:2-








         :サンドリオンの店内 -----

        SE:ドアの開く音 -----


バーテン 「いらっしゃいませ ... 」

女    「こんばんは ...(店内を見回し)あのう、今夜マスターは ... 」

バーテン 「申し訳ございません ... 生憎と留守にしておりまして ... 」

女    「そうですか ... 」

バーテン 「明日でしたら店の方に出てまいりますが ... 何かお急ぎのご用で
      しょうか ...?」

女    「いいえ、別に大したことじゃないんで ... 」

バーテン 「もし何でしたら、ご用件をお伺いいたしますが ... 」

女    「ええ ... すみません ... でもそれには及びませんので ...
      また出直します ... 」

バーテン 「そうですか ... 申し訳ございません。せっかくお越し頂きましたのに ... 」

女    「いいえ ... それじゃ、失礼します ... 」

バーテン 「あのう ... お客様」

女    「はい ...?」

バーテン 「お引き留めする訳ではございませんが、少し身体を温めていかれてはいかがで
      しょうか ... 」

女    「エッ ...?」

バーテン 「そのご様子ですと、傘を持ち合わせていらっしゃらないのでは ... 」

女    「あ ... 私 ... 」

バーテン 「この時期の雨は身体の芯まで冷やしてしまいます ... 決して良くありません
      ので ... 」

女    「 ... 」

バーテン 「よろしければ ... どうぞ」

女    「(ポツリと)そうですね ...良くないですよね ... 」

バーテン 「そうです ... 良くはございませんね ... 」

女    「 ... それじゃ、せっかくなんで ... 少しお客さんになります」

バーテン 「それはどうも ... ありがとうございます」

女    「いいえ、こちらこそ ... よく考えてみれば、マスターがいないからって
      そのまま帰っちゃうなんて、バーテンさんに失礼ですもんね」

バーテン 「いいえ、別にそういうつもりではございませんので ... 」

女    「わかってますよ ... それは。 ... ただ私が自分で気がつかなかったのが
      少し情けなくて ... 」

バーテン 「そんな事は気になさらず... それより、何か温まるものでもお作り
      いたしましょうか ...?」

女    「 あ ... いいえ ... それより他のものが ... 」

バーテン 「他のもの ... では、何になさいますか?」

女    「 ... そう ... グレイハウンドをください」

バーテン 「グレイハウンド ... かしこまりました」


        SE:グラスに氷が入れられ、そこへウォッカ(45ml)と
          グレープフルーツジュースが適量に注がれステアされる ---

         :その音に紛れて -----


女(Na)  もっと気の利いたものを頼めばいいものを、つい口をついて出てしまったのが
      このカクテル ...

      いつも私の右隣りで彼が飲んでいた、グレイハウンド ---

      今まで彼のそばにいながら、何故か一度も口にしたことがなかったものを
      今更オーダーするなんて ...

     「私、やっぱり ... 」


バーテン 「お待たせいたしました ... どうぞ(グラスを置く)」

女    「どうもありがとう ... 」

バーテン 「よくご存知ですね」

女    「エ ...?」

バーテン 「グレイハンド ... そのカクテルをその名前でオーダーされる方は、そんなに
      多くいらっしゃいませんので ... 」

女    「そうなんですか ... 」

バーテン 「はい ... 普通は皆様、ブルドックと言ってご注文なさいます ... 」

女    「そうでしたか ... ブルドックって言うんですか、このカクテル ... 」

バーテン 「どうやら、受売りのご注文のようですね」

女    「ええ ... その通りです ... それに ... 」

バーテン 「 ... それに?」

女    「 ... それに ... 私がこれを口にするのは ... 今夜が最初で、最後ですから ... 」

バーテン 「最初で、最後 ...?」






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