2012年11月21日

épisode / ベンジャミンの涙 -scene:2-








         :サンドリオンの店内 -----

        SE:ドアの開く音 -----


バーテン 「いらっしゃいませ ... 」

女    「こんばんは ...(店内を見回し)あのう、今夜マスターは ... 」

バーテン 「申し訳ございません ... 生憎と留守にしておりまして ... 」

女    「そうですか ... 」

バーテン 「明日でしたら店の方に出てまいりますが ... 何かお急ぎのご用で
      しょうか ...?」

女    「いいえ、別に大したことじゃないんで ... 」

バーテン 「もし何でしたら、ご用件をお伺いいたしますが ... 」

女    「ええ ... すみません ... でもそれには及びませんので ...
      また出直します ... 」

バーテン 「そうですか ... 申し訳ございません。せっかくお越し頂きましたのに ... 」

女    「いいえ ... それじゃ、失礼します ... 」

バーテン 「あのう ... お客様」

女    「はい ...?」

バーテン 「お引き留めする訳ではございませんが、少し身体を温めていかれてはいかがで
      しょうか ... 」

女    「エッ ...?」

バーテン 「そのご様子ですと、傘を持ち合わせていらっしゃらないのでは ... 」

女    「あ ... 私 ... 」

バーテン 「この時期の雨は身体の芯まで冷やしてしまいます ... 決して良くありません
      ので ... 」

女    「 ... 」

バーテン 「よろしければ ... どうぞ」

女    「(ポツリと)そうですね ...良くないですよね ... 」

バーテン 「そうです ... 良くはございませんね ... 」

女    「 ... それじゃ、せっかくなんで ... 少しお客さんになります」

バーテン 「それはどうも ... ありがとうございます」

女    「いいえ、こちらこそ ... よく考えてみれば、マスターがいないからって
      そのまま帰っちゃうなんて、バーテンさんに失礼ですもんね」

バーテン 「いいえ、別にそういうつもりではございませんので ... 」

女    「わかってますよ ... それは。 ... ただ私が自分で気がつかなかったのが
      少し情けなくて ... 」

バーテン 「そんな事は気になさらず... それより、何か温まるものでもお作り
      いたしましょうか ...?」

女    「 あ ... いいえ ... それより他のものが ... 」

バーテン 「他のもの ... では、何になさいますか?」

女    「 ... そう ... グレイハウンドをください」

バーテン 「グレイハウンド ... かしこまりました」


        SE:グラスに氷が入れられ、そこへウォッカ(45ml)と
          グレープフルーツジュースが適量に注がれステアされる ---

         :その音に紛れて -----


女(Na)  もっと気の利いたものを頼めばいいものを、つい口をついて出てしまったのが
      このカクテル ...

      いつも私の右隣りで彼が飲んでいた、グレイハウンド ---

      今まで彼のそばにいながら、何故か一度も口にしたことがなかったものを
      今更オーダーするなんて ...

     「私、やっぱり ... 」


バーテン 「お待たせいたしました ... どうぞ(グラスを置く)」

女    「どうもありがとう ... 」

バーテン 「よくご存知ですね」

女    「エ ...?」

バーテン 「グレイハンド ... そのカクテルをその名前でオーダーされる方は、そんなに
      多くいらっしゃいませんので ... 」

女    「そうなんですか ... 」

バーテン 「はい ... 普通は皆様、ブルドックと言ってご注文なさいます ... 」

女    「そうでしたか ... ブルドックって言うんですか、このカクテル ... 」

バーテン 「どうやら、受売りのご注文のようですね」

女    「ええ ... その通りです ... それに ... 」

バーテン 「 ... それに?」

女    「 ... それに ... 私がこれを口にするのは ... 今夜が最初で、最後ですから ... 」

バーテン 「最初で、最後 ...?」






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