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:バード・バーの店内 -----
男 「ところでバーテンさん、知ってます? 『男と女』って古い映画 ... 」
バーテン 「エエ、知っております ... 確かフランスの映画でしたよね ... 」
男 「スタントマンの夫を事故で失った女と、妻に自殺されたレーサーの男が
お互いの子供がいる寄宿舎で知り合って恋に落ちるという ... 」
バーテン 「ストーリーは、それほど良く覚えてないんですが ...
ブルーやレッド、それにセピアカラーを使ったモノトーンの画面が印象的
だったと、記憶しておりますが ... 」
男 「そう ... とても綺麗で、効果的な映像だったな、あれは ... 」
バーテン 「そういえば ... フランシス・レイの音楽が、その映像の雰囲気にマッチして
ましたね ... 確か学生の頃に見た映画です」
男 「ボクはその映画を、2年前に観たんですよ ... 」
バーテン 「2年前 ...?」
男 「何気なしにフラリと入った映画館で、たまたまその『男と女』がやってた」
バーテン 「それが何か ..」
男 「そこで出会ったんですよ ... 彼女とね」
バーテン 「そうだったんですか ...」
男 「まさに男と女の出会いだった ... 」
バーテン 「では、思い出の映画になるんですね ... お客様にとってこの映画は」
男 「それはそうなんですが ... 実際のところは、そんな余裕なんかなかったですよ」
バーテン 「どうしてですか ...?」
男 「何しろ自分は、置き引きに間違われたんですから ... 」
バーテン 「置き引き?」
男 「映画の中ほどで彼女が席を立とうとした時、バッグがなくなったんですよ ...
それでボクが疑われた ... 」
バーテン 「他にそれらしい人はいなかったんでしょうか?」
男 「それが彼女のそばにはボク以外 ... 誰もいなかったんですよ」
バーテン 「状況は、最悪だったんですね ... 」
男 「それで当然、一つ空けて隣りに座ってたボクが犯人だと思い込んだわけで ... 」
バーテン 「そういう場合、そうなってしまいますね ... 」
男 「でもしばらくして、ホントの犯人はちゃんと捕まりましたけどね ... 」
バーテン 「それが知り合われたキッカケなんですね」
男 「彼女はボクが無実だとわかると、それまでの態度とは一転 ... 只々平謝りでしたね」
バーテン 「当然でしょうね ... 」
男 「お蔭でボクはあの映画の結末を、知らないんですよ ... 」
バーテン 「そうでしたか ... 」
男 「バーテンさんは、ホント覚えてないんですか? あの映画のストーリーを」
バーテン 「申し訳ありません ... 生憎と ... 」
男 「そうですか ...(カクテルを一口) 何故か近頃、気になりだしたんですよね
... 結末はどうなったんだろうかって」
バーテン 「時々、そういうことってありますよね ... ふと気になりだしてどうしようも
なくなるってことが ... 」
男 「それほど大したことでもないのに ... ホント、不思議ですよね」
バーテン 「今度、機会があれば調べてみましょう ... そのストーリーの結末を」
男 「(少し笑って)それはどうも、ありがとうございます ... でもそれには及びませんよ
何しろ今夜、その結末がわかるかもしれないんですから ... 」
バーテン 「それは ... どういう意味なんでしょうか?」
男 「 ... 彼女が教えてくれるはずなんですよ ... 彼女がね」
バーテン 「そういえば ... まだお見えになりませんね ... 」
男 「そうですね ... 遅いですね ... それじゃその間に、お代わりでももらおうかな」
バーテン 「ペースがお早いんですね ... 」
男 「でも確か、2杯目でしたよね ...?」
バーテン 「いいえ、これでもう3杯目です ... それが証拠に、オーダーされた数の分だけ
カクテル・ピンが3本そこに ... 」
男 「 ... ホントだ ... そうか ... 3杯目か ... 」
SE:カクテルがステアされる音にまぎれて -----
男(Ne) そろそろ午前0時30分 ... 彼女はまだ来ない -----