2012年11月22日

épisode / ベンジャミンの涙 -scene:3-








         :サンドリオンの店内 -----

        SE:静かに流れるジャズ -----


女    「実は、今夜マスターに会いに来たのは ... この本を返そうと思って来たん
      です ... 」


        SE:カウンターに置かれる厚みのある本 -----


バーテン 「千夜一夜物語 ... 」


女    「これは以前マスターが、私たち二人にプレゼントしてくれたものなんです ... 」

バーテン 「私たち ... 」

女    「正確に言えば ... 彼と私とになりますね ... 」

バーテン 「そうですか ... でも、マスターがプレゼントされたものをどうして ... 」

女    「 ... もう二人で一緒に、この本を読めなくなったから ...
      それで ... マスターに返そうと思って ... 」

バーテン 「そうでしたか ... しかし受け取るでしょうか ... マスターがその本を」

女    「それはわかりません ... でも少なくともマスターは理解してくれると思うん
      です ... この本を返そうとした私の気持ちを ... 」

バーテン 「マスターがその本をお二人にプレゼントしたのには、きっと何か特別な意味が
      あったんだと思うのですが ... 」

女    「そうです ... 確かにそうです ... だってマスターはあの時 ...
      この本を、ずっと二人で読みなさい ... 仲がいい時も悪い時も ...
      そうすれば少なくとも、この本を読み終えるまでには、二人は一緒にいられる
      ようになるからって ... 」

バーテン 「 ... なるほど ... それで千夜一夜物語ですか ... 」

女    「でも、駄目だった ... 私たちはこの本を、最後まで一緒に読むことは
      出来なかった ... 」

バーテン 「ではこの本の結末を、今は知る由もないと ... 」

女    「私一人で読むには ... この物語は少し長すぎるような気がして ... 」

バーテン 「千夜一夜物語 ... アラビアンナイトか ... 」

女    「ごめんなさい ... つまらない話しでした ... 」

バーテン 「いいえ ... とんでもありません」


         :女、カクテルをゆっくりと一口 -----


女    「このカクテル ... 雨の夜に飲むには、少し不似合いでしょうか ... 」

バーテン 「いいえ ... グレイハウンドのTPOはオールディですから、そんなことは
      ございません ... 」

女    「(ポツリと)差し詰め ... 今夜の雨もこのカクテルも、幕切れにはお似合い
      ってところかな ... 」

バーテン 「今夜は特に ... 静かな雨のようですね ... 」

女    「そうですね ... ホント、悲しいほど静かな雨ですよね ... 」


         :女、カクテルをゆっくりと一口 -----


バーテン 「 ... ご存知でしょうか ...?」

女    「エ ...?」

バーテン 「ベンジャミンという観葉植物を」

女    「ええ ... それが何か ...?」

バーテン 「この季節にベンジャミンの葉がはらはらと落ちるのは ...
      恋する人たちの流す涙の代わりなんだそうです」

女    「涙の代わり ... 」

バーテン 「そしてその後に、ベンジャミンには新しい芽が生まれるんだそうです ... 」

女    「新しい芽 ... 」

バーテン 「きっと今夜も ... どこかでベンジャミンの新しい芽が、生まれているような
      そんな気がするんです」

女    「バーテンさん ... 」






posted by マスターの知人 at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | ストーリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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