2012年11月13日

épisode / 週末のヴィンテージ -scene:final-






         :サンドリオンの店内 -----


男    「それは『マーカム・シャルドネ』の95年 ... その方がいいんじゃないかと
      思うんですが ... 」

女    「95年 ...?」

男    「たまには違うワインもいいと思いますよ、気分も変わって。
      それにヴィンテージ...
      つまりブドウの収穫された時期からいえば、そっちの方があなたの口に
      合うんじゃないかと、そう思うんです」

女    「『マーカム・シャルドネ』の95年 ... 」

男    「どうでしょう? 一度試されてみては?」

女    「 ... でも、私 ... 」

男    「ソムリエの僕が保証しますよ。きっと気に入ってもらえると思います。
      ねえ、マスターもそう思いませんか?」

マスター 「そうですね ... そうかも知れませんね ... 」

男    「大丈夫、白ワインには変わりないんですから」

女    「でも ... 私はやっぱり .... このワインがいいんですよね ... 」

男    「エ ...?」

女    「ごめんなさい ... せっかく薦めてくださってるのに ... 」

男    「(軽く笑って)いや、気にしないでください ... 好みのものですからね
      これは。 ... でもそうなると、余程そのワインがお気に入りってこと
      なんですね」

女    「 ... というより ... この白ワインはむしろ、私のすべてなんです」

男    「あなたのすべて ...?」

女    「実はこのワイン ... 想い出のワインなんです」

男    「メモリーワイン ...?」

女    「ちょうど3年程前にある人と最後に飲んだワイン ... それがこのワイン
      なんです ... その時の味が忘れられなくて ... こうして今でも口に
      してるんです」

男    「最後に飲んだワイン、ですか ... 」

女    「ええ ... その人が日本で過ごす最後の夜に ... 」

男    「海外へいかれたんですね、その人は」

女    「 ... そうです ... このワインが産まれた国へ ... 」

男    「カリフォルニアか ... 」

女    「急に仕事であっちへ行くことになって ... それで最後に彼とここで
      飲んだのが、このワインだったんです ... ちょうど週末の夜、この席で」

男    「彼とここで ... 」

女    「 ... フィアンセなんです、彼 ... 」

男    「そうか ... フィアンセか ... 相場ですね、それって ... 」

女    「エッ?」

男    「いえ、何でもないです ... でもそれで納得出来ましたよ」

女    「納得 ...?」

男    「何故あなたが週末の夜に一人で、そのワインをここで飲んでいるのか ...
      それなりの事情があったんですよね、やっぱり」

女    「 ... 単に女が一人、想い出に酔ってるだけなんです ... 」

男    「とんでもない ... 素敵じゃないですか、そういうのって」

女    「 ... そう云って頂けると救われます ... 」

男    「ちなみに ... 待ってるんですよね ... その彼が帰ってくるのを」

女    「 ... そうですね ... 私にはそれしか出来ませんから ... 」

男    「だから絵になってたんだな、きっと ... 」

女    「そういうものでしょうか ... 絵になるって ... 」

男    「そうとは知らず、失礼しました ...
      まったくお門違いのワインを薦めたりして ... 」

女    「いいえ、とんでもない ... 私こそすみませんでした ...
      せっかく薦めてくださったのに ... 」

男    「いや、気にしないでください ... 」

女    「ごめんなさい ... 」

男    「いいえ、ホントに気にしないでください ...
      それより、一つだけ質問してもいいですか?」

女    「はい ...?」

男    「そのワイン ... いつも98年ものをオーダーされてたようですが ...
      それには何か意味でも?」

女    「それは ... 彼が日本を発った年なんです ... 」

男    「 ... なるほど ... それで3年前の98年ってことか ... そうか ... 」

女    「どうなんでしょうか? 専門的な立場からそのヴィンテージのこのワインは」

男    「そうですね ... 知りえる範囲では ... 」



マスター(Na)『グラスマウンテン・シャルドネ』の98年 ...
      シャルドネ種を100%使用し、シュールリー法で醸造され、その上でオークの
      樽で熟成された、フレッシュながらコクのある澄みきった風味の辛口のワイン
      で ...

      それは聡明で清楚な彼女に似合った、最高に素敵でお洒落な白ワインだと私は
      感じておりました ...

      そしてそれはもちろん ... ソムリエである彼も、同じように感じていたこと
      でもありました -----






posted by マスターの知人 at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | ストーリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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