2012年11月24日

épisode / ベンジャミンの涙 -scene:final-








バーテン  今宵は『 BAR CENDRION 』へお越し頂き、誠にありがとうございました。

      ではここで ... 今回登場いたしましたカクテルを、改めてご紹介させて
      頂きます。

      カクテルの名は『グレイハウンド/GREYHOUNDO』-----
      グラスの縁にデコレートされた塩が、味を調えるサポート的な存在である
      『ソルティ・ドッグ』を、あえてスノー・スタイルに仕上げないカクテルが
      この『グレイハウンド』...

      実はこのカクテル ...
      その他にもサブ・ネームがあり、『テールレス・ドッグ』や『ブルドック』
      とも呼ばれ、それぞれの名前で親しまれている一品なのです。

      レシピは ...氷を入れたタンブラータイプのグラスにウォッカ(30〜45ml)と
      冷やしたグレープフルーツ・ジュース(適量)を入れ、あとは軽くステア
      すれば出来上がりです ---

      ちなみに、先程ご紹介いたしましたそれぞれのネーミングにはれっきとした
      意味がございまして、『テールス・ドッグ』は尻尾のない犬、『ブルドック』
      は尻尾が極めて短い犬というもので、今回登場した『グレイハウンド』は
      非常に足の速い猟犬は尻尾が見えないというとことから、ネーミングされた
      ようです ...

      つまり、塩そのものを犬の尻尾にたとえ、表現しているようですね ---
      しかしこの『グレイハウンド』は ...
      時としてオーダーされた方が流す『涙』というエッセンスで、たちまちその
      テイストを『ソルティ・ドッグ』に変えてしまうカクテルでもありますので
      くれぐれもご用心くださいませ ---

      それでは ...
      またのお越しを、心よりお待ちしております ...

      ありがとうございました -----






タグ:レシピ
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2012年11月23日

épisode / ベンジャミンの涙 -scene:4-








         :サンドリオンの店内 -----

        SE:静かに流れるジャズ -----


女    「ありがとうございました ... 私、そろそろ帰ります。雨も止んだようなので」

バーテン 「そうですか ... お引留めして申し訳ありませんでした ... 」

女    「いいえ ... それどころか私、ここにいて良かったと思ってますから、気に
      しないでください」

バーテン 「そう言って頂けると ... 幸いです」

女    「それじゃ、失礼します ... マスターによろしくお伝えください」

バーテン 「かしこまりました」

女    「おやすみなさい」

バーテン 「ありがとうございました ... お気をつけて」


         :女、行きかけて立ち止まり -----


女    「そうだ ... 」

バーテン 「どうかなさいましたか ...?」

女    「マスターに伝言をお願いしたいんですが ... 構いませんか?」

バーテン 「何なりとどうぞ ... 」

女    「お返ししたその本 ... 栞のあるところまでは、ちゃんと二人でよみました
      からと、そう伝えておいてください ... 」

バーテン 「かしこまりました ... 」

女    「それじゃ ... 」

バーテン 「ありがとうございました ... 」


        SE:女、店を出て行く/ ドアの音 -----


女(Na)  外は雨だった ---
      音もなく、静かに街を濡らしていた ---

      どうやらこの雨は、私のハートのバロメーターのように、一晩降り続ける
      ようだ ...
      でも、今夜の私のシチュエーションには、ちょうどいいかも知れない ---
      何故なら ... すがるものをなくした女には、持って来いの雨だから ...

      「だって今、私の頬を軽く伝うのは ... 雨の雫なんかじゃないから ... 」

      私には ... 今夜の雨が愛おしく思えた -----


バーテン(Na)彼女が残していった千夜一夜物語には、確かに本の中程のページに栞が
      ありました ...

      しかし、それはただの栞ではなく ...

      ベンジャミンの葉を小さくしたような、涙の跡という栞でした -----






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2012年11月22日

épisode / ベンジャミンの涙 -scene:3-








         :サンドリオンの店内 -----

        SE:静かに流れるジャズ -----


女    「実は、今夜マスターに会いに来たのは ... この本を返そうと思って来たん
      です ... 」


        SE:カウンターに置かれる厚みのある本 -----


バーテン 「千夜一夜物語 ... 」


女    「これは以前マスターが、私たち二人にプレゼントしてくれたものなんです ... 」

バーテン 「私たち ... 」

女    「正確に言えば ... 彼と私とになりますね ... 」

バーテン 「そうですか ... でも、マスターがプレゼントされたものをどうして ... 」

女    「 ... もう二人で一緒に、この本を読めなくなったから ...
      それで ... マスターに返そうと思って ... 」

バーテン 「そうでしたか ... しかし受け取るでしょうか ... マスターがその本を」

女    「それはわかりません ... でも少なくともマスターは理解してくれると思うん
      です ... この本を返そうとした私の気持ちを ... 」

バーテン 「マスターがその本をお二人にプレゼントしたのには、きっと何か特別な意味が
      あったんだと思うのですが ... 」

女    「そうです ... 確かにそうです ... だってマスターはあの時 ...
      この本を、ずっと二人で読みなさい ... 仲がいい時も悪い時も ...
      そうすれば少なくとも、この本を読み終えるまでには、二人は一緒にいられる
      ようになるからって ... 」

バーテン 「 ... なるほど ... それで千夜一夜物語ですか ... 」

女    「でも、駄目だった ... 私たちはこの本を、最後まで一緒に読むことは
      出来なかった ... 」

バーテン 「ではこの本の結末を、今は知る由もないと ... 」

女    「私一人で読むには ... この物語は少し長すぎるような気がして ... 」

バーテン 「千夜一夜物語 ... アラビアンナイトか ... 」

女    「ごめんなさい ... つまらない話しでした ... 」

バーテン 「いいえ ... とんでもありません」


         :女、カクテルをゆっくりと一口 -----


女    「このカクテル ... 雨の夜に飲むには、少し不似合いでしょうか ... 」

バーテン 「いいえ ... グレイハウンドのTPOはオールディですから、そんなことは
      ございません ... 」

女    「(ポツリと)差し詰め ... 今夜の雨もこのカクテルも、幕切れにはお似合い
      ってところかな ... 」

バーテン 「今夜は特に ... 静かな雨のようですね ... 」

女    「そうですね ... ホント、悲しいほど静かな雨ですよね ... 」


         :女、カクテルをゆっくりと一口 -----


バーテン 「 ... ご存知でしょうか ...?」

女    「エ ...?」

バーテン 「ベンジャミンという観葉植物を」

女    「ええ ... それが何か ...?」

バーテン 「この季節にベンジャミンの葉がはらはらと落ちるのは ...
      恋する人たちの流す涙の代わりなんだそうです」

女    「涙の代わり ... 」

バーテン 「そしてその後に、ベンジャミンには新しい芽が生まれるんだそうです ... 」

女    「新しい芽 ... 」

バーテン 「きっと今夜も ... どこかでベンジャミンの新しい芽が、生まれているような
      そんな気がするんです」

女    「バーテンさん ... 」






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2012年11月21日

épisode / ベンジャミンの涙 -scene:2-








         :サンドリオンの店内 -----

        SE:ドアの開く音 -----


バーテン 「いらっしゃいませ ... 」

女    「こんばんは ...(店内を見回し)あのう、今夜マスターは ... 」

バーテン 「申し訳ございません ... 生憎と留守にしておりまして ... 」

女    「そうですか ... 」

バーテン 「明日でしたら店の方に出てまいりますが ... 何かお急ぎのご用で
      しょうか ...?」

女    「いいえ、別に大したことじゃないんで ... 」

バーテン 「もし何でしたら、ご用件をお伺いいたしますが ... 」

女    「ええ ... すみません ... でもそれには及びませんので ...
      また出直します ... 」

バーテン 「そうですか ... 申し訳ございません。せっかくお越し頂きましたのに ... 」

女    「いいえ ... それじゃ、失礼します ... 」

バーテン 「あのう ... お客様」

女    「はい ...?」

バーテン 「お引き留めする訳ではございませんが、少し身体を温めていかれてはいかがで
      しょうか ... 」

女    「エッ ...?」

バーテン 「そのご様子ですと、傘を持ち合わせていらっしゃらないのでは ... 」

女    「あ ... 私 ... 」

バーテン 「この時期の雨は身体の芯まで冷やしてしまいます ... 決して良くありません
      ので ... 」

女    「 ... 」

バーテン 「よろしければ ... どうぞ」

女    「(ポツリと)そうですね ...良くないですよね ... 」

バーテン 「そうです ... 良くはございませんね ... 」

女    「 ... それじゃ、せっかくなんで ... 少しお客さんになります」

バーテン 「それはどうも ... ありがとうございます」

女    「いいえ、こちらこそ ... よく考えてみれば、マスターがいないからって
      そのまま帰っちゃうなんて、バーテンさんに失礼ですもんね」

バーテン 「いいえ、別にそういうつもりではございませんので ... 」

女    「わかってますよ ... それは。 ... ただ私が自分で気がつかなかったのが
      少し情けなくて ... 」

バーテン 「そんな事は気になさらず... それより、何か温まるものでもお作り
      いたしましょうか ...?」

女    「 あ ... いいえ ... それより他のものが ... 」

バーテン 「他のもの ... では、何になさいますか?」

女    「 ... そう ... グレイハウンドをください」

バーテン 「グレイハウンド ... かしこまりました」


        SE:グラスに氷が入れられ、そこへウォッカ(45ml)と
          グレープフルーツジュースが適量に注がれステアされる ---

         :その音に紛れて -----


女(Na)  もっと気の利いたものを頼めばいいものを、つい口をついて出てしまったのが
      このカクテル ...

      いつも私の右隣りで彼が飲んでいた、グレイハウンド ---

      今まで彼のそばにいながら、何故か一度も口にしたことがなかったものを
      今更オーダーするなんて ...

     「私、やっぱり ... 」


バーテン 「お待たせいたしました ... どうぞ(グラスを置く)」

女    「どうもありがとう ... 」

バーテン 「よくご存知ですね」

女    「エ ...?」

バーテン 「グレイハンド ... そのカクテルをその名前でオーダーされる方は、そんなに
      多くいらっしゃいませんので ... 」

女    「そうなんですか ... 」

バーテン 「はい ... 普通は皆様、ブルドックと言ってご注文なさいます ... 」

女    「そうでしたか ... ブルドックって言うんですか、このカクテル ... 」

バーテン 「どうやら、受売りのご注文のようですね」

女    「ええ ... その通りです ... それに ... 」

バーテン 「 ... それに?」

女    「 ... それに ... 私がこれを口にするのは ... 今夜が最初で、最後ですから ... 」

バーテン 「最初で、最後 ...?」






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2012年11月20日

épisode / ベンジャミンの涙 -scene:1-








         :夜の街 ---

        SE:濡れた路面を走り去る車 ---
         :微かに聞こえるパトカーのサイレン音 ---
         :そして、音もなく振る霧雨 -----


女    「悲しいほど静かだね ... 何だか嘘みたい ... こんなのって ... 」

男    「 ...(ライターでタバコに火を点け、ゆっくりと喫う)」

女    「音もなく降る雨って、このことを言うんだ ... 」

男    「それでも確かに雨は降ってる ... 紛れもない事実だよ」

女    「そうね ... そうだわ ... 嘘じゃないんだ、この雨は。それに ...
      今夜の出来事も、嘘じゃないのよね ... 」

男    「 ...(タバコを一口喫い)夢じゃないってことだけは云える ... 」

女    「(淋しく笑い)起きたまま見る夢なんて、ないものね ... でも ... 」

男    「 ... どうかした?」

女    「 ... どうかなァ ... 」

男    「何が ...?」

女    「出逢ってから今日まで ... ひょっとしたらこれは夢だったかもしれない ... 」

男    「 エッ ...?」

女    「 ... そう ... 夢よ、夢 ... 案外そうかもしれない ... 」

男    「 ... エミ ... 」

女    「 ... だってそう思う方が、いいもの ... 」

男    「 ... 」

女    「(消え入りそうな声で)そう思う方が ... 」


        SE:時を告げる鐘の音 -----


女    「 ... そろそろ時間だね」

男    「 ... そうだな ... 」

女    「じゃ、ここで ... サヨナラしょう ... 」

男    「いいさ ... 送るよ、家まで」

女    「ううん、いい」

男    「そう言わずに、送らせろよ」

女    「ホントにいいの、ここで」

男    「 ... どうして」

女    「ちょっと寄りたい所もあるし、それに ... 」

男    「それに ...?」

女    「この雨で少し目を覚ましたいの、だから」

男    「そうか ... わかった ... じゃ行くよ」

女    「 ... ウン ... 元気でね」

男    「 ... お前もな」

女    「ご心配なく ... 私はいつだって元気だから」

男    「そうだな ... そうだったな ... 」

女    「そっちこそ、元気でね」

男    「ああ ... それじゃ ... 」


        SE:歩き出す男の靴音 ---

         :しばらくして、呼び止める女の声 -----


女    「ねえ ...!」


         :立ち止まる男 ---

         :少し距離のある二人 ---


女    「(少し大きな声で)今度私をどこかで見かけても ... その時は ... 」


        SE:雨が少し強くなる -----


男    「(大声で)その時は何だ ...?」

女    「(つぶやく)その時は ... 
      (大声で)その時は ... エミって呼び捨てにしないでねーッ!」


        SE:雨音 -----


男    「(つぶやくように)そうだな ... そうだよな ... (大声で)わかった ...!」


        SE:再び歩き出す男の靴音 -----

         :強く振る雨 -----


女    「(ポツリと) ... サヨナラ ... 」





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