再生できない場合、ダウンロードは🎵こちら
:サンドリオンの店内 -----
レイコ 「 ... 口惜しいけど ... マスターの言う通りかもしれないわ ...
あの瞬間から私 ... あの頃のことにこだわり出してる ... 」
それも無意識に ...
でも ... こだわってるのは私だけじゃなかった ... 」
マスター 「彼もだと ...?」
レイコ 「そう ... 彼もしっかりとこだわり続けてたみたい ...
それも、つき合い始めた頃 ... 8年も前から、今日の今まで ... 」
マスター 「今までって ... 」
レイコ 「あの日、彼が何気なくタバコに火を点けてたあのデュポンのライターは ...
私が8年前に、彼にプレゼントしたものだった ...
今でもそれを使ってるなんて ... 」
マスター 「それは ... 素敵なことではないでしょうか ... 」
レイコ 「私にはそう思えない ... いいえ、思いたくない ... 」
マスター 「どうしてそう ...?」
レイコ 「ある意味では、あの人には変わっていてほしかったから ... 」
マスター 「変わっていてほしかった ... 」
レイコ 「あの頃の思い出にかかわることなく ... 真新しい気持ちでほしかったから ... 」
マスター 「真新しい気持ちで、ですか ... 」
レイコ 「わかってる ... 私の勝手な思い入れだってことは ...
でも、それでいてほしかった ... せめて再会するのなら ... 」
マスター 「デュポンのライターがすべてを物語っていたと ... そうおっしゃるん
ですね ... 」
レイコ 「それがすべてだと思うの ... 5年という空白の時間を知るには ... 」
マスター 「それではもうご連絡はなさらないと ...?」
レイコ 「また昔のように、そばにいろって言われるのはこりごりだもの ... 」
マスター 「本当にそうおっしゃるのでしょうか ... マサヤさんは」
レイコ 「そう言うために ... その名刺をマスターに預けたのよ ... きっと。
彼の優しい罠よね、これは」
マスター 「優しい罠 ... 」
レイコ 「そう ... 優しい罠よ ... 」
:レイコ、グラスのカクテルを空け -----
レイコ 「マスター、ごちそうさまでした ... 今夜はこれで ... 」
マスター 「 ... ありがとうございました ... 」
レイコ 「一応、この名刺 ... いただいておくわ ... 」
マスター 「レイコさん ... 」
レイコ 「それじゃ、マスター ... おやすみなさい ... 」
:レイコ、店を出る --- ドアの閉まる音
:ヒールの音にまぎれて -----
レイコ(Na) 私は ... セピア色した想い出に浸るために、ここへ帰って来たんじゃ
ない ...
足りない何かを ... 何かを見つけるために帰ってきたの ...
それなのに ...
それなのに時間を5年前に戻して一体どうするつもりなの ... マサヤ ...
私たちは今 ... お互いに別々の色を持った男と女でなきゃならないのよ ...
あの頃のようにお互いがお互いの色に染め合うことなんて ...
今はもう出来ないのよ ...
:レイコ、公衆電話の前で立ち止まり -----
そう ... 出来ない相談なのよ、あの時も ... そして今も ...
:受話器を取り ---
:名刺を見ながら、電話をかけるレイコ -----
彼が、優しい罠をかけるなら ...
:受話器の向こうの、コール -----
私は甘い罪で、応えてあげる ...
:やがてつながり -----
レイコ 「もしもし ... 私 ... 遅くにごめん ...
--- 実はあなたに、言っておきたいことがあって ...
--- ううん ... そんなことじゃなくて ...
--- 今度こっちに帰ってきたのは ...
.....
実は私 ... 結婚するためだったの ...
ナレーション こうして今 ...
セピア色に姿を変えた二つのハートが ...
ここに色付き始めた ...
男の優しい罠と、女の甘い罪をたずさえて -----