2012年10月08日

épisode / V.S.O.P 第三夜 「誤 算」 -scene:4-







        :サンドリオンの店内 -----



マサヤ  「それで ... 式はいつ頃?」

レイコ  「どうしてそんなこと聞くの ...?」

マサヤ  「昔の男は、聞いちゃいけないのかな?」

レイコ  「そういう訳じゃないけど ... 」

マサヤ  「まさか極秘結婚でもあるまし ... オープンにいこう、オープンにね」

レイコ  「 ... 来年の ... 春頃、かな ... 」

マサヤ  「フーン、半年先か ... まだ結構、時間があるんだ ... 」

レイコ  「そうでもないわ ... 女の場合は何かと準備が大変だから、あっという間
      なのよ、半年なんて ... 」

マサヤ  「そんなものなのかね ... 独身貴族のボクにはよくわからんな、その辺の
      ことは ... 」

マスター 「女性の場合 ... 結婚は人生にとって最大にターニングポイント ...
      いろんな意味での身支度が必要ですから ... 」

マサヤ  「それは男にとっても言えることですよ、マスター。
      自分にとってかけがえのない女性と一緒になるんですからね。
      ただならぬ責任感と義務が、結婚によって与えられるわけですよ ...
      これ以上のターニングポイントはないと思うな ... 」

レイコ  「それって、当然のことでしょう ...
      身も心も捧げてくれた一人の女性を、守ってゆくのが男性の役目だもの。
      その辺の意識ぐらいは、しっかりと持ってもらいたいわ ... 」

マサヤ  「女性にだって、それなりの責任と義務はあるはずだが ... 」

マスター 「いずれにしましても ... まったく生まれも育ちも違う男性と女性が、その日を
      境に同じ屋根の下で暮らし始めるわけですから ...
      お互いの深い信頼と理解が必要だと思いますね ... 」

レイコ  「深い信頼と理解、か ... 」

マサヤ  「その辺のところはどうなの? ちゃんとキープしてるのかな?」

レイコ  「ご心配なく ... 言われるまでもなく、深い絆で結ばれてるわ」

マサヤ  「まいったな ... よくそんなセリフを臆面もなく、サラリと言ってくれるね」

レイコ  「そうかしら ... 別に気にならないけど ... 」

マサヤ  「ところで ...
      ピアノはどうするつもりなんだい ...? 続けるのか?」

レイコ  「そうね ... そのつもり。
      私からピアノを取り上げたら、何も残らないもの ... 」

マサヤ  「これからはそんなことはないだろう ...
      少なくともキミのそばにはいつも、愛する人がいるんだから」

レイコ  「それとこれとは別問題だわ ... 違う次元の話よ」

マサヤ  「そうかな ... ボクにはそう思えないけど ... 」

レイコ  「それだって違う次元の感覚よ ... 私とあなたのね」

マサヤ  「やっぱりいつもと違うな ... と言うより、ホントに変わったのかな ... キミは」

レイコ  「だから言ったでしょう ... 私は変わったんだって。
      もうあの頃とは違うのよ、何もかも」

マサヤ  「 ... 何もかもが、違うか ... 」

レイコ  「あなた自身だってこの間、そう言ってたじゃない ...
      いくらなんでも、人間少しぐらいは変わるよ ... 5年もあればねって」

マサヤ  「人が言ったことは、よく覚えてるんだな ... キミは」

レイコ  「 ... そんなつもりはないわ」

マサヤ  「じゃ、どんなつもりなんだろうね ... 」


         :マサヤ、おもむろにタバコをくわえて ---
         :デュポンで火を点ける ---
         :そしてゆっくりと一口 ---


レイコ  「それより ... まだあなたの手元にあるのね、そのライター ... 」

マサヤ  「エッ ...?」

レイコ  「付き合って間もない頃 ... 私がプレゼントしたそのデュポン ... 」

マサヤ  「どういう意味かな ... そのセリフは」

レイコ  「あれから8年経った今でも、そのライターをそうして大事に持ってるあなたは
      ... やっぱりあの頃のまま ... 何も変わってないのよね ... 」

マサヤ  「それは違うね」

レイコ  「エ ...?」

マサヤ  「これは ... キミにもらったデュポンとは ... 
      違うものなんだから ... 」





posted by マスターの知人 at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | ストーリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年10月07日

épisode / V.S.O.P 第三夜 「誤 算」 -scene:3-







        SE:海岸通に響くヒールの音 -----


レイコ(Na) 今はもう、セピア色したあの頃の想いでの欠片、デュポンが語る ...
      あの人が仕掛けた優しい罠 ...
      時間を止めたままの心で今も私を見つめ、あの頃のようにお互いがお互いの
      色に染まりあえると思ってる ...
      
      5年も経ったのに ...

      その5年前と同じ気持ちで、同じように戻ろうとしている ...
      もう終わったはずなのに ...

      変わっていてほしかった ... この街のように ...

      あの頃の想い出に関わることなく、真新しい気持ちでいてほしかった ...
      せめて再会するのなら ...

      なのにあの人は ...


      だから私はあの人に告げた ...
      優しい罠に応えるように、私にとって甘い罪で ...
      結婚する ... と

      ... そして私は今 ...


        SE:ヒールの音がやがて止まり -----


      サンドリオンへ ...


        SE:ドアの開く音 -----


        SE:オールド・ファッション・グラスに角砂糖(1個)が
          入れられる ---
         :その上からアロマティック・ビターが垂らされ
          染み込まされる ---
         :そこへライ・ウイスキー(1/5)が注がれて
          キューブ・アイスが2〜3個入れられる -----
         :厚めにスライスされたレモンとオレンジを入れ
          カクテル・ピックに刺したレッド・チェリーが
          デコレートされる ---


マスター 「お待たせいたしました ... どうぞ」

レイコ  「ありがとう ... 」

マサヤ  「オールド・ファッションか ... 今夜はまた珍しいものを口にするんだ ...
      心境の変化かな ...? それとも ... 」

レイコ  「それとも何?」

マサヤ  「フィアンセの好みかな?」

レイコ  「そういう言い方は ... やめて」

マサヤ  「よく言うよ、そんなこと。この間ボクに、同じ質問したくせに ... 」

レイコ  「あら、そうだったかしら ... 」

マサヤ  「変わってないんだな、その辺の性格も ... あの頃のままなんだ ... 」

レイコ  「そういう言い方はやめてほしいの」

マサヤ  「(少し笑いながら)どうしたんだよ一体 ... 」

レイコ  「この際言わせてもらうけど ...
      変わってないとか、あの頃のままだとか言うセリフは、少なくともあなたの
      口からは聞きたくないの ... わかる? 嫌なのよ ...
      だから金輪際 ... 私の前でそういう類の言葉は使わないでほしいの ...
      お願いだから ... 」

マサヤ  「何か悪いものでも食べたか?
      それとも ... ケンカでもしたか? フィアンセと」

レイコ  「まだそんなこと言ってる ... 」

マサヤ  「だっておかしいよ ... 今夜のキミは、いつもと違う。
      誰だって何かあったと思うよ ... ねえ、マスター」

マスター 「そうですね ... 今夜のレイコさんは、いつもとは少し違う雰囲気ですね ... 」

レイコ  「マスター ... 」

マサヤ  「ほらみろ ... マスターだってそう感じてるんだから、やっぱり違うんだよ
      今夜のキミは」

レイコ  「 ... そうじゃないわ ...
      いつもと違うんじゃなくて ... 変わったのよ、今の私は」

マサヤ  「変わった ...?」

レイコ  「そう ... 変わったのよ ... だって私は、結婚するんだから ... 」





posted by マスターの知人 at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | ストーリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年10月06日

épisode / V.S.O.P 第三夜 「誤 算」 -scene:2-







        :サンドリオンの店内 -----



マサヤ  「先週の金曜日だったかな ... それも真夜中に ...
      彼女から、まさに安眠妨害のごとく電話があって、いきなりそう言ってた ...
      帰ってきたのは、結婚するためなんだってね ... 」

マスター 「先週の金曜日、ですか ... 」

マサヤ  「まいったよ、まったく ...
      お陰でそれから変に目が冴えちゃって、いい迷惑だったよ」

マスター 「それは何時頃のことだったでしょうか ... そのお電話は」

マサヤ  「確かあれは ... まだ1時にはなってなかったと思うけど ...
      それがどうかしたの? マスター」

マスター 「いいえ ... 別に大したことではないんですが ... 」

マサヤ  「ないんですが、なに?」

マスター 「ええ ...
      ただその時間でしたら、ちょうどここを出られた頃かと ... そう思いまして」

マサヤ  「彼女 ... ここへ来てたのか ... 」

マスター 「はい ... その夜はちょうど ... 」

マサヤ  「そうか ... 来てたのか ... 」


        :マサヤ、タバコを取り出し ---
        :デュポンで火を点ける ---
        :ゆっくりと一口喫う ---

        :短い沈黙 -----


マスター 「今夜のオーダーは ... どうなさいますか?」

マサヤ  「 ... そうだな ... 久しぶりに、あれを ... 」

マスター 「 ... それは... ウイスキー・フロート ... 」

マサヤ  「さすがマスター ... よく覚えててくれた ...
      でも ... 今夜はミネラルでお願いするかな ... 」

マスター 「 ... かしこまりました」


        SE:タンブラー・グラスが用意され、キューブ・アイス(3〜4個)が
          入れられる ---
         :そこへミネラルウォーター(適量)が注がれ ---
         :次にバー・スプーンをあて、ウイスキー(約1/6強)を静かに
          フロート(伝い注ぐ)させる ---

         :やがてグラスが置かれる -----


マスター 「 ... どうぞ」

マサヤ  「どうも ... 」


         :マサヤ、カクテルを一口 -----


マサヤ  「彼女、何か言ってました ...?」

マスター 「と、おっしゃいますと ...?」

マサヤ  「つまり ... 式の日取りとか ... 相手のことだとか ... 」

マスター 「いいえ ... そのようなことは、何も」

マサヤ  「 ... そう ... そっか ... 」

マスター 「そのご様子だと ... まだ何もご存知ないようですね ... 」

マサヤ  「電話じゃ、結婚するってことだけで、詳しい話は聞かされてないから ... 」
      もっとも ... だから今夜、彼女をここへ呼び出したんですよ ...
      その辺の詳しい話しを聞こうと思ってね ... 」

マスター 「そうでしたか ... 」

マサヤ  「 ... 一体、どんな奴なんだろうな ... 彼女の相手って ... 」

マスター 「気にされますか? やはり」

マサヤ  「 ...この際、気にならないなんて言うと、嘘になるでしょ ... 」

マスター 「嘘ですか ... 」

マサヤ  「そりゃそうでしょう ... これでも一応、昔の彼氏なんですからね ... 」

マスター 「今はそうではないと ...?」

マサヤ  「一応は、終わってるな ... 5年前、彼女が日本を離れた時に ... 」

マスター 「ご自分で、そう思ってらっしゃるのですか? それとも ... 」

マサヤ  「彼女がそう思ってるんですよ ... だから ... 」

マスター 「だから?」

マサヤ  「 ... だから彼女 ... 結婚するんでしょう ... 」






posted by マスターの知人 at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | ストーリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年10月05日

épisode / V.S.O.P 第三夜 「誤 算」 -scene:1-








ナレーション  その瞳が追憶のスクリーンを見つめ ...
        その指先が沈黙の意思を告げる瞬間(とき) ---

        静けさにまどろむ心の水面が
        戸惑いという名の波紋に揺れる ---

        さりげない男の振る舞いに、女は過去を感じ ...
        微かに漂う女の香りに、男は過去をなぞる ---

        そう ...
        それはちょうど一夜限りの
        微熱のような軽いアクシデント ---

        ちりばめられた想いでの欠片が
        心の余白に影を落とす ---

        --- すべてが予期せぬ歴史を刻む
        男と女の情景 ---

        そして今 ...
        その姿をセピア色に染めた二つのハートが
        ここに交差する ...
        真新しい恋の予感をつげるかのように -----



         :回 想 -----

        SE:電話の音 -----


        その第三夜は ...
        時の彼方に消えた泡沫の夢まで見えそうな ...
        そんな静かな夜に始まった -----


         :マサヤ、受話器を取る ---


マサヤ  「(眠っていた様子)はい ... 」

レイコ(電話の声)もしもし ... 私 ... 遅くからごめん ...

マサヤ  「一体どうしたんだ ... こんな時間に ... 」

レイコ(電話の声)実はあなたに、言っておきたいことがあって ...

マサヤ  「こんな時間に説教と人生論はごめんだよ ... 」

レイコ(電話の声)ううん ... そんなことじゃなくて ...

マサヤ  「じゃなに ...?」

レイコ(電話の声)今度こっちに帰ってきたのは ...
      実は私 ... 結婚するためだったの ...


マサヤ(Na) 予期せぬ真夜中の電話は、彼女からのこんなメッセージだった ...
      ほとんど強引ともいえる彼女の突然の侵入は、オレにとってそれまで
      静かに刻まれていた夜のリズムを、少し狂わせた ...

      受話器から聞こえた彼女の、その声のトーンが耳に残り ...
      その口ぶりが妙に気になった ...

      無防備でいた心までもが、にわかに反応し始める ...

      いつの間にか無意識に、不意に聞かされた「結婚」という言葉の意味を
      オレはしばらく反芻していた ...

      そして ...



        SE:男の歩く靴音 -----

         :やがてサンドリオンの前で止まり --- ドアの開く音


マサヤ  「今晩は ... マスター ... 」

マスター 「いらっしゃいませ ... 」

マサヤ  「(店の中を見回し)まだか ... 」

マスター 「お待ち合わせですか?」

マサヤ  「そう ... ピアニストとね」

マスター 「レイコさん ...?」

マサヤ  「この間夜中に、衝撃の告白を聞かされてね ...
      それで改めてもう一度、その真意のほどを是非とも聞かせて頂こうと思って、
      それで ... 」

マスター 「衝撃の告白?」

マサヤ  「 ... どうやら彼女 ... 結婚するらしいんだ」

マスター 「結婚 ... ?!」





タグ:回想 告白 結婚
posted by マスターの知人 at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | ストーリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年10月03日

épisode / V.S.O.P 第二夜 「追 憶」 -scene:final-








        :サンドリオンの店内 -----



レイコ  「 ... 口惜しいけど ... マスターの言う通りかもしれないわ ...
      あの瞬間から私 ... あの頃のことにこだわり出してる ... 」
      それも無意識に ...
      でも ... こだわってるのは私だけじゃなかった ... 」

マスター 「彼もだと ...?」

レイコ  「そう ... 彼もしっかりとこだわり続けてたみたい ...
      それも、つき合い始めた頃 ... 8年も前から、今日の今まで ... 」

マスター 「今までって ... 」

レイコ  「あの日、彼が何気なくタバコに火を点けてたあのデュポンのライターは ...
      私が8年前に、彼にプレゼントしたものだった ...
      今でもそれを使ってるなんて ... 」

マスター 「それは ... 素敵なことではないでしょうか ... 」

レイコ  「私にはそう思えない ... いいえ、思いたくない ... 」

マスター 「どうしてそう ...?」

レイコ  「ある意味では、あの人には変わっていてほしかったから ... 」

マスター 「変わっていてほしかった ... 」

レイコ  「あの頃の思い出にかかわることなく ... 真新しい気持ちでほしかったから ... 」

マスター 「真新しい気持ちで、ですか ... 」

レイコ  「わかってる ... 私の勝手な思い入れだってことは ...
      でも、それでいてほしかった ... せめて再会するのなら ... 」

マスター 「デュポンのライターがすべてを物語っていたと ... そうおっしゃるん
      ですね ... 」

レイコ  「それがすべてだと思うの ... 5年という空白の時間を知るには ... 」

マスター 「それではもうご連絡はなさらないと ...?」

レイコ  「また昔のように、そばにいろって言われるのはこりごりだもの ... 」

マスター 「本当にそうおっしゃるのでしょうか ... マサヤさんは」

レイコ  「そう言うために ... その名刺をマスターに預けたのよ ... きっと。
      彼の優しい罠よね、これは」

マスター 「優しい罠 ... 」

レイコ  「そう ... 優しい罠よ ... 」


         :レイコ、グラスのカクテルを空け -----


レイコ  「マスター、ごちそうさまでした ... 今夜はこれで ... 」

マスター 「 ... ありがとうございました ... 」

レイコ  「一応、この名刺 ... いただいておくわ ... 」

マスター 「レイコさん ... 」

レイコ  「それじゃ、マスター ... おやすみなさい ... 」


         :レイコ、店を出る --- ドアの閉まる音

         :ヒールの音にまぎれて -----


レイコ(Na) 私は ... セピア色した想い出に浸るために、ここへ帰って来たんじゃ
      ない ...
      足りない何かを ... 何かを見つけるために帰ってきたの ...

      それなのに ...

      それなのに時間を5年前に戻して一体どうするつもりなの ... マサヤ ...
      私たちは今 ... お互いに別々の色を持った男と女でなきゃならないのよ ...

      あの頃のようにお互いがお互いの色に染め合うことなんて ...
      今はもう出来ないのよ ...


         :レイコ、公衆電話の前で立ち止まり -----


      そう ... 出来ない相談なのよ、あの時も ... そして今も ...


         :受話器を取り ---
         :名刺を見ながら、電話をかけるレイコ -----


      彼が、優しい罠をかけるなら ...


         :受話器の向こうの、コール -----


      私は甘い罪で、応えてあげる ...


         :やがてつながり -----


レイコ  「もしもし ... 私 ... 遅くにごめん ...
      --- 実はあなたに、言っておきたいことがあって ...
      --- ううん ... そんなことじゃなくて ...
      --- 今度こっちに帰ってきたのは ...
      .....

      実は私 ... 結婚するためだったの ...



ナレーション  こうして今 ...
        セピア色に姿を変えた二つのハートが ...
        ここに色付き始めた ...

        男の優しい罠と、女の甘い罪をたずさえて -----





posted by マスターの知人 at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | ストーリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
blogramで人気ブログを分析 にほんブログ村 小説ブログ 脚本・シナリオへ
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。