2012年10月14日

épisode / V.S.O.P 第四夜 「哀 愁」 -scene:4-








         :サンドリオンの店内 -----

         :レイコ、カクテルをゆっくりと一口 -----


レイコ  「 ... 確かに、このカクテル ...
      グラスを琥珀色に染めるわりには、意外と甘口だわ ...
      でも ... 何故これを私に ...?」

マスター 「それは ... レイコさんご自身が一番、おわかりではないでしょうか ... 」

レイコ  「私自身が ...?
      どういう意味なんですか? マスター ... 」

マスター 「それはつまり ...
      このカクテルそのものが ... 今夜のレイコさんのハートカクテルではないかと
      ... 」

レイコ  「私のハートカクテル ...?」

マスター 「そもそも ... このラスティ・ネールというカクテルの名前は『錆びたクギ』
      という意味の他に『古めかしい』という意味がございまして ...
      このカクテルの場合は ... そのグラスを彩る琥珀色の輝きが、古の色 ...
      つまり過去を伝えるイメージの色合いとされているのです」

レイコ  「過去の色って ...
      マスター ... それじゃ今夜の私の心の色は、このカクテルのように琥珀色だと
      ...?」

マスター 「少なくとも ... 5年振りにここで再会されたあの日からは ...
      その瞳は琥珀色に染まり出していたのではないかと ... 」

レイコ  「瞳が ... 琥珀色に ...?」

マスター 「しかも ... ご自分では気付かれないままに ... 」

レイコ  「知らず知らずのうちに ... ですか ... 」

マスター 「そして ...
      それが今夜 ... 心までもが染められた ... 」

レイコ  「心まで ... 染めた ...?
      マスター ... 今夜の私が、どうしてそんな風に見えるの ...?
      元気がなかったから? それとも淋しそうだったから?
      どうして ...? どうしてなの、マスター ... 」

マスター 「それは ...
      お元気がない訳でもなく ... かと言って、淋しそうにされているからでも
      ない... つまり ...
      その瞳や声や仕草など ... すべてにもの悲しさを漂わせていらっしゃるから
      です ... 」

レイコ  「もの悲しさ ... 」

マスター 「そう ... 哀愁と呼ばれるものでしょうか ... 」

レイコ  「琥珀色の哀愁 ... 」


         :レイコ、カクテルをゆっくりと一口 -----


レイコ  「そうなると ... この琥珀色の哀愁は ... 甘い味がするのね ... 」

マスター 「それは少し、違うかも知れませんね ... 」

レイコ  「エッ ...?」

マスター 「甘い味がするからこそ ... 琥珀色の哀愁なんだと思います ... 」

レイコ  「マスター ... それって ... 」

マスター 「同じように聞こえるかも知れませんが ... かなり意味合いが変わります ...
      要するに ...
      辛口の想い出に、哀愁というものは漂わないのではないかと ...
      そう思うのですが ... 」

レイコ  「マスター ... 」

マスター 「言い忘れておりましたが ...
      そのラスティ・ネールのベースはスコッチ・ウイスキーですが、スィートな
      口当たりを醸し出しているのは『ドランブイ』というイギリスのリキュール
      なんです ... 」

レイコ  「ドランブイ ...?」

マスター 「そしてそのドランブイは ... ゴール語で『心を満たす飲み物』という意味を
      表すのです ... 」

レイコ  「心を満たす飲み物 ... 」

マスター 「つまり ...
      過去にその心を満たした想いを愛おしむ女性だけが、琥珀色した哀愁を漂わ
      せるものではないかと ... 私はそう思うのですが ... 」

レイコ  「マスター ... 私 ... 」





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2012年10月13日

épisode / V.S.O.P 第四夜 「哀 愁」 -scene:3-








        SE:微かな波の音 -----


レイコ(Na) そうよね ... 出来ない相談だったのよね ... あの時は。
      私の目の前には楽譜があり、指先には鍵盤の感触しかなかった ...
      彼の眼差しや温もりは、もっと別のところに存在してたもの ...
      そう ...
      彼と別れる辛さより ... 海外へ行ける喜びの方が大きかったから ...
      私にとって、出来ない相談だった ...
      あの時のあの人の ... あの一言は -----

      そして ...


        SE:微かな波の音 -----


      あれから5年経った今 ... 私は一人ここに佇んでいる ...
      あの人に別れを告げたこの場所に ... 想い出を携えながら ---

      ... 結局 ... あの頃と変わってなかったものは ...
      この静かな夜に寄せては返す波の音と ... 私の心だけたったのかも ...


         :レイコ、微かなため息をつき ---
         :ゆっくりと歩き出す ---
         :やがてサンドリオンの前で止まり -----


レイコ   いいえ ... 変わってないものがもう一つ ... ここもそうだった ...


        SE:ドアの開く音 -----


マスター 「いらっしゃいませ ... 」

レイコ  「(独り言のように)そうよね ... この店とマスターもそうだったのよね ... 」

マスター 「どうかなさいましたか ...?」

レイコ  「いえ ... 何でもないです ...
      ... それよりマスター ... あれ以来、あの人ここへは ...?」

マスター 「はい ... あれからは一度も ... 」

レイコ  「そう ... 」

マスター 「今夜はいつもより少し ... お元気がないようですね ... 」

レイコ  「 ... そう見えるのかな ... 」

マスター 「いいえ ... そう感じるんです ... 」

レイコ  「(少し笑って)マスターったら ... 」

マスター 「 ... そんな今宵のご注文は ... いかがいたしましょう ...?」

レイコ  「 ... そうね ...(しばらく考えて)
      今夜はマスターに ... 任せてみたい気分なんだけど ...
      それでもいいかな ... マスター」

マスター 「かしこまりました ... 」


        SE:オールドファッショングラスが用意され ---
         :そこへキューブアイスが2〜3個入れられる ---
         :スコッチウイスキー(2/3)とドランブイ(1/3)が注がれ
          バースプーンで軽くステアされ ---
         :やがてグラスが置かれる -----


マスター 「お待たせいたしました ... どうぞ」

レイコ  「マスター、これは ...?」

マスター 「はい ...
      ラスティ・ネールという ... ウイスキーベースのカクテルです」

レイコ  「ラスティ・ネール ...?」

マスター 「もともとアルコール度の強いカクテルで ...
      ウイスキーを好まれる方向きのお酒でありながら、少々甘口ですが ...
      今夜のレイコさんにはお似合いではないかと、そう思いまして ...

レイコ  「お似合いのカクテル ...
      どうしてこれが ... 今夜の私にピッタリだと ...?」

マスター 「グラスが私にそっと囁いたんです ...
      このカクテルが目の前にいる女性の、本心よと ... 」





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2012年10月12日

épisode / V.S.O.P 第四夜 「哀 愁」 -scene:2-








         :回想 -----


        SE:波の音 -----


マサヤ  「どうしても行く気なのか ... 」

レイコ  「どうしても、行きたいの ...
      私、自分の可能性に賭けてみたいのよ ... 」

マサヤ  「オレと別れてまで、日本を離れたいのか ...?! 」

レイコ  「そうじゃない ... そうじゃなくて ... 」

マサヤ  「じゃ、どうなんだ?
      何がどうなんだよ、レイコ ... 」

レイコ  「憧れだったの ... 夢だったのよ ... 私にとって海外でのピアノの
      鍵盤を叩くことが ... 」

マサヤ  「憧れ ...? 夢 ...?」

レイコ  「他に何の取り柄もない、人に自慢できるものなんて何もない私が ...
      たった一つだけ自分に自身を持てるものが ... それがピアノだった ...
      自分を素直に表現出来る唯一の手段 ... それがピアノ ...
      そんなピアノに対する自分の思いを、どこまで表現出来るのか ...
      私は今、試してみたいの ... 」

マサヤ  「じゃ ... オレのこの気持ちは、どう表現すればわかってもらえるんだろうか
      ...?」

レイコ  「 ... 」

マサヤ  「明けても暮れても鍵盤叩いて、楽譜とにらめっこしてた女に振り回された男の
      気持ちは ... 一体どう表現すれわかってもらえるんだ ...?」

レイコ  「 ... それは ... 」

マサヤ  「ここで一晩中、この海が怒るまでその女の名前を呼べばいいのかな ...
      それとも ...
      あの月が愛想尽かすまで好きだと言えばいいのか ... お前のことを」

レイコ  「マサヤ ... 」

マサヤ  「何なら手っ取り早いところで、時間を止めてしまおうか ...?
      今この瞬間、この時から ... 」

レイコ  「やめて ... お願いだから ... 辛いわ ... 」

マサヤ  「それはオレの方だよ ... 」


         :短い沈黙 -----

        SE:微かな波の音だけが聞こえる -----


マサヤ  「なぁ ... 今までのオレは、お前にとって一体何だったんだろうな ...
      ただの暇つぶし相手だったのか、それとも ... 」

レイコ  「 ... それとも何なの ...?」

マサヤ  「それとも ... 手頃な男だったのかな ... オレは」

レイコ  「そんな言い方、しないでほしい ...
      私は私なりに真面目に付き合ってたつもりなんだから ... あなたとは」

マサヤ  「じゃ、どうしてこんな風になるんだろうな ... こんな風に ... 」

レイコ  「 ... お互いがお互いの色に染まりきれなかったのよ ...
       合わなかったんだわ ... 色合いがきっと ... 」

マサヤ  「色合いが ... 合わなかった ...?」

レイコ  「そう ... お互いの色合いが反発し合って、合わなかった ...
      うまく染まり合えなかったのよ ... 私たちは」

マサヤ  「それは違うな ... 」

レイコ  「エッ ...?」

マサヤ  「私たちじゃなく ... お前が染まらなかったんだよ、お前がね。
      少なくても、オレはお前に染まりかけてたんだから ... 」

レイコ  「そんな ... 」

マサヤ  「オレは ... お前のためなら ... カメラ止めたっていいと思ってた ... 」

レイコ  「 ... マサヤ ... 」


        SE:マサヤ、おもむろにタバコをくわえる ---
         :デュポンで火をつけ、ゆっくりと一口 ---


マサヤ  「 ... 絶対に行くなよ ... レイコ」

レイコ  「 ... ごめんなさい ... それは出来ない相談なの ... 」





タグ: ピアノ
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2012年10月11日

épisode / V.S.O.P 第四夜 「哀 愁」 -scene:1-








ナレーション  想い出の欠片が優しい罠に姿を変え ...
        心の余白が甘い嘘に染められた時 ---
        過去というベールに覆われていた真実が
        予期せぬ心の誤算を誘う ---

        男は過去に別れを告げようとし ...
        女は言い知れぬ淋しさに浸る ---

        そう ...

        それはちょうど一晩限りの
        微熱のような軽いメランコリー ---

        その胸にちりばめられた可憐な想い出の欠片は
        今、セピアの色から淡いぶるーへ ---
        すべてが曖昧な心模様の
        男と女の情景 ---

        そして今 ...
        それぞれの色に染まりはじめた二つのハートが
        ここに交差した ---
        真新しい恋の予感を告げるかのように ---


         SE:微かな波の音 -----


        その第四話は ...
        泡沫に抱かれた仄かな想いまでもが見えそうな ...
        そんな長い夜に始まった -----


レイコ(Na) 優しい罠だと思ってた ---
      たった一枚のあの名刺は ... 
      出会った頃から今日までの8年前と何も変わらない
      あの人が想いを込めた優しい罠だと思っていたのに ---

      ホントのところは ...
      私が過去というドレスを身に纏い、追憶という仮面を被っていたなんて ---

      自分一人で、勝手に心で駆け引きしてた ---
      あの人があの頃のまま、時間を止めて待ってたなんてこと、あり得るはずない
      のに...

      馬鹿みたい、私 ... まるで三文ピエロね ---


        SE:レイコ、ゆっくりと歩き出す --- ヒールの音


      やはり5年という時の流れは ...
      ときめきをわずかなアクシデントに変え、切なさを仄かなアバンチュールに
      変えた... そして ...
      あの頃の二人の想いでさえ ... 今では過ぎ去った日々のほんのひと時を彩る、
      短いエピソードに ---


         :レイコ、ふと立ち止まり -----


     「(ポツリと)やっぱり終わってたのよね ... あの時にここで ... 」


         :微かな波の音 -----


     「確かあの夜も ...
      波の音だけが聞こえてくる ... こんな静かな夜だったっけ ... 」


         :波の音 -----





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2012年10月09日

épisode / V.S.O.P 第三夜 「誤 算」 -scene:final-







        :サンドリオンの店内 -----



レイコ  「違うって ... 」

マサヤ  「そう ...
      確かに色やデザインはキミからもらったデュポンとまったく同じだけど
      これは全然、別のものなんだ ... つまり、贈り主が違うんだよ」

レイコ  「贈り主が、違う ...?」

マサヤ  「キミとは違う、別の女性からプレゼントされたものなんだ」

レイコ  「別の女性 ... 」

マサヤ  「キミからもらったデュポンも、確かにしばらくの間、ボクの手元にあった ...
      けれどここ2年ほど前に無くしてたんだ ... 
      申し訳ない ... 」

レイコ  「いいえ ... そんなこと... 」

マサヤ  「でも ... そのなくすキッカケを作った張本人が、申し訳ないって同じものを
      ボクにプレゼントしてくれた ... それがこのライターなんだ」

レイコ  「 ... そうだったの ... 」

マサヤ  「その彼女とはそれ以来、親しくなってね ... 今でもちょくちょく会ってる
      んだけど ... 」

レイコ  「恋人ってわけね ... 」

マサヤ  「別にそんなつもりじゃないんだけどね ...
      ただ ... 今、一番身近な女性と言えるかもしれないな ... 」

レイコ  「一番身近な女性 ... 」

マサヤ  「そんなことより ... 今夜キミを呼び出したのは他でもない ...
      是非一言、言っておきたいことがあったんだ ... 」

レイコ  「言っておきたいこと ... ?」

マサヤ  「 ... おめでとう ... 幸せになれよってな ... 」

レイコ  「(微かな声で)マサヤ ... 」

マサヤ  「 ... 正直に言うと ... レイコが結婚するんなら ...
      オレもそうしょうかって ... 」

レイコ  「エッ ...?!」

マサヤ  「実はずっと前から彼女に ... プロポーズされてたんだ ...
      普通なら逆なのにな ... 」

レイコ  「プロポーズ ... 」

マサヤ  「 ... 今日まで、何となくうやむやにしてきたんだけど ...
      決めたよ、オレ ... 彼女と結婚するよ ... 」


レイコ(Na) 私の誤算だった ...
      彼と出会った頃から今日までの8年間 ...
      そのセピア色した想い出に目を背けながらも、過去というドレスを
      身に纏い、追憶という仮面をかぶっていたのは ... 
      私の方だった ...

      何てことなの ...
      私は私の中で ... ちりばめられた想い出の欠片たちが、心に突き刺さる
      ような痛みを感じていた ...




ナレーション  男が口にしたウイスキー・フロート ---
        琥珀色したウイスキーは ...
        無色透明の水よりも軽く ...
        それはグラスに映る ... 虚構と真実 -----

        女が口にしたオールド・ファッション ---
        グラスを彩るフルーツたちは ...
        可憐なちりばめられた想い出の欠片 ...
        琥珀色のドレスは時に ... セピア色したドレスに ----

        こうして今 ---
        その姿をセピア色に染めていた二つのハートが
        ここに色付き始めた ...
        それぞれの心の欠片を胸に抱いて -----





タグ:恋人 祝福 誤算
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