2012年10月31日

spin-off /「神戸物語」 第四章 -後 編-








        SE:店のドアが開く ---

         :マキが入ってくる -----


マ キ  「こんばんは ... 」

マスター 「いらっしゃいませ ... 」

タクヤ  「ああ、ちょうど来たみたい ... せっかくだし、紹介するよ。
      (マキに)こっちこっち ... 」

アヤカ  「紹介 ...?!」

マ キ  「ゴメン ... 待った?」

タクヤ  「いいや ... それよりこの彼女、いつか話したと思うけど、地震の時に
      たまたま俺が ... 」

アヤカ  「失礼します ... 」

タクヤ  「エッ?


         :アヤカ、突然、店を飛び出す -----


ミユキ  「アヤカ ...! マスター、また来るね!」


         :ミユキ、アヤカの後を追って店を出る -----
         :ドアの音 -----


マ キ  「どうしたの? あの人たち急に ...?」

タクヤ  「いいや ... 俺にもよくわからない ... 」

マスター 「アヤカさん ... 」



        SE:波の音 -----


ミユキ  「かなり堪えた ...ってところかな ... 」

アヤカ  「 ... 」

ミユキ  「そりゃそうよね ... 偶然にも会えたと思ったら次の瞬間、『結婚する』
      だもんね ... そんなものかもね ... 現実って」

アヤカ  「フッフフフ ... 滑稽よね ... こんな女って」

ミユキ  「エッ ...?」

アヤカ  「いいよ ... 笑ってくれて。馬鹿にしてよ ... 」

ミユキ  「アヤカ ... 」

アヤカ  「ヒロイン気取って、実は惨めな女だったんだから ... 」

ミユキ  「惨めな女 ...?!」

アヤカ  「そうよ ... この世で一番惨めな女よ、私は!」

ミユキ  「 ... アヤカ ... いい加減になさいよ!」


         :ミユキ、アヤカの頬を叩く -----


アヤカ  「 ... ミユキ ... 」

ミユキ  「何も知らないくせに ... 何もわかってないくせに ... 」

アヤカ  「ミユキ ...?!」

ミユキ  「自分だけが惨めだなんて ... 勝手に思わないでよ ... 」



アヤカ(Na) 私はこの時 ... ミユキが何を言いたいのかが、わからなかった ---
      ただわかったのは ...
      彼女の目が少し、滲んでいたということだけだった -----


        SE:波の音 -----


ミユキ  「今だから言うけど ... あんたが小樽へ帰ってから、ホントいろんなこと
      あったんだよ、みんな。
      ジュンちゃんなんか、何で突然あんたが小樽へ帰ったのか訳わかんなくて
      ヤケ起こしたりしてさ ... 私なんかしょっちゅう呼び出されて、その度
      に愚痴聞かされたりしてた ... 」

アヤカ  「ミユキ ... 」

ミユキ  「ウウン ... 別にそれはそれでよかったんだけど、ジュンちゃんの方は
      もっと最悪な状態になっちゃってさ ... 」

アヤカ  「最悪 ...?」

ミユキ  「そう、最悪 ... 地震でケガしてたお父さんが亡くなったのよ ... 」

アヤカ  「エッ ...?! あのお父さんが ... 」

ミユキ  「ジュンちゃん、日頃は何かとお父さんとケンカして悪口言ってたけど ...
      ホントのところは一番尊敬してたし、好きだったようだから ...
      かなりショックだったみたい ... そう言えば ... 特にあんたの事では
      オヤジとよくやりあったって言ってたっけ ... 」

アヤカ  「ジュンジ ... 」

ミユキ  「それからジュンちゃん、大変だったみたいよ ... いろんな事でね。でもね
      それでもね、ジュンちゃんあんたのことだけは、ずっと想ってたよ ...
      忘れなかった ... 片時もね ... 」

アヤカ  「 ... 」  

ミユキ  「私、そんなジュンちゃんがいじらしかったよ ... 」

アヤカ  「 ... ジュンジ ... 」

ミユキ  「だからね ... それだけ慕われてるあんたが、自分のことをこの世で一番
      惨めな女だなんて言っちゃうと、ジュンちゃんもっと惨めになっちゃうじゃ
      ない ... かわいそうじゃない ... 」

アヤカ  「 ... ミユキ」

ミユキ  「あんたの気持ちもわかるよ ... 同じ女だもんね。ふと魔が差して、他の人
      を好きになることだってあるよ ... 私だって、そうだったんだから ... 」

アヤカ  「エ ...?」

ミユキ  「とにかくアヤカ ... あんた自分のことばかり考えないで、少しは周りの人
      のことも考えてよ ... もう少しよく見て」

アヤカ  「 ... 」

ミユキ  「でないと ... 自分にとってホントに大切なもの、無くしちゃうよ ...
      見落しちゃう ... 」

アヤカ  「自分にとって大切なもの ... 」

ミユキ  「あんたがしっかりしないと ... 私だって惨めになっちゃうじゃない ... 」

アヤカ  「ミユキ ... 」



ミユキ(Na) 私はこの時 ... 喉まで出かかってたセリフを、胸の中で叫んでた ...
      私はジュンちゃんのことが、好きだったんだと -----


        SE:波の音 -----





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2012年10月30日

spin-off /「神戸物語」 第四章 -前 編-








ミユキ(Na) それはホントに、奇遇としか言いようがなかった ...
      あの時、瓦礫の中から自分を助け出してくれた人にもう一度会いたいと
      思っていた矢先、その本人と偶然にも同じ場所に居合わせてたのだから
      ... アヤカにすれば、夢のような出来事だったに違いない ...
      まったく、いい気なもんだわ ... 人の気も知らないで -----


アヤカ  「あの時は、本当にありがとうございました」

タクヤ  「いいや、とんでもない。当然のことをしたまでだから ...
      それより、よく僕のことを覚えてたもんだね」

アヤカ  「忘れるわけありません、絶対に。 ... いいえ、忘れられなかった ... 」

タクヤ  「エッ ...?」

アヤカ  「それより ... あの時私、あなたに助けてもらってなければ、今頃ここに
      こうしていられなかった ... 」

タクヤ  「それは君が運が良かったからだよ」

アヤカ  「いいえ。そんな単純なものじゃないと思います ... 」

タクヤ  「いいや ... 意外に単純なものなんだよ。運の良し悪しなんて ...
      ねえ、マスター」

マスター 「どうなんでしょうか ... 私には何とも ... 」

アヤカ  「それにあの時私、気が動転しててあなたの名前も聞かないで、おまけにお礼も
      まともに言えなかったままだったから、すごく気になってたんです ... 」

タクヤ  「そんなこと気にしなくてもいいよ ... 」

ミユキ  「でも良かったじゃない、アヤカ。会いたいと思ってた人とこうして会えたんだ
      からさ。ねえ、マスター」

マスター 「 ... そうですね。でもまさか、サワダさんがアヤカさんを助けられた方だった
      とは ... 」

アヤカ  「サワダ、さん ...?」

タクヤ  「ああ ... 僕の名前、サワダタクヤって言うんだ ... 」

アヤカ  「サワダ、タクヤ ... 」

ミユキ  「フーン ... じゃ、サワタクってとこね ... 」

タクヤ  「(少し笑って)この人、おもしろい人だね ... お友達?」

アヤカ  「はい、一応 ... 少し変わってますけど ... 」

ミユキ  「あのね ... 」

アヤカ  「それじゃ改めて ... 私はスギモトアヤカと言います。
      サワダさん、その節は本当にありがとうございました」

タクヤ  「いえいえ、どういたしまして ... それより元気でいてくれて良かったよ」

アヤカ  「これもサワダさんのおかげです」

タクヤ  「そう言ってもらえると、市の職員としてもありがたいな ... 」

ミユキ  「サワタクさんって、市役所の人なんだ ... 」

アヤカ  「もうっ、ミユキったら ...!」

タクヤ  「この人はミユキさんって言うんだ ... 」

ミユキ  「そうです ... 私はササキミユキと申します、はい」

アヤカ  「だったら震災以降、大変だったんじゃないんですか? お仕事の方」

タクヤ  「ウーン ... 楽じゃなかったことだけは、確かかな ... 今でも」

ミユキ  「今でも?」

タクヤ  「そう ... あの震災によって引き起こされたいろんな問題は、まだ解決されて
      ない数の方が圧倒的に多い ... 」

ミユキ  「確かにそうかも ... 」

マスター 「そうですね ... 帰る場所のない人や、心の病に苦しんでおられる人が
      未だに沢山いらっしゃると、そう耳にします ... 」

タクヤ  「そういう人たちがいる限り ... 震災の問題は解決したとは言えない ...
      だから頑張るしかない ... すべての問題が解決するまで ... 」

アヤカ  「でも、そういうサワダさん自身も被災者 ... いくら仕事とはいえハード
      ですね ... 」

タクヤ  「それは僕だけじゃなく、役所に勤める人、みんなそうだから ... 」

ミユキ  「市長になれそうな感じね、サワタクさんって」

タクヤ  「(笑いながら)まさか ... 」

アヤカ  「でも ... 強い人なんですね、サワダさんて ... 私、尊敬します」

タクヤ  「それは違うかも ... 」

アヤカ  「エ ...?」

タクヤ  「自分では、僕ほど弱い人間はいないと思ってる ... 」

ミユキ  「そうかな ... そんな風には見えないけど ... 」

タクヤ  「人って ... それほど強くない。 ... 誰かがそばにいてくれて、初めて強く
      なれるもんだと、僕はそう思ってる ... 違うかな、マスター」

マスター 「そうですね ... そういうものかも知れませんね ... 」

アヤカ  「サワダさん ... 」

タクヤ  「ウン?」

アヤカ  「今頃あの時のお礼っていうのも何なんですが ... 今夜一緒に、お食事でも
      どうでしょうか?」

ミユキ  「アヤカ ... 」

タクヤ  「そこまでしてもらわなくてもいいよ ... 当然のことしたまでだから。
      それに ... 」

アヤカ  「それに?」

タクヤ  「ここで人と会う約束もしてるし ... 」

アヤカ  「待ち合わせ、ですか ...?」

タクヤ  「そう」

アヤカ  「お友達と?」

ミユキ  「(小声で)アヤカ ... 」

タクヤ  「友達といえばそうなるけど ... 少し違う」

アヤカ  「それじゃ ... 彼女?」

タクヤ  「正確に言えば ... フィアンセなんだ」

アヤカ  「 ... フィアンセ ... 」

ミユキ  「じゃ、結婚するんですか? サワタクさん ... 」

タクヤ  「そう ... 実は今度の日曜日にね」

アヤカ  「 ... 日曜日に、結婚 ... 」


        SE:店のドアが開く ---

         :マキが入ってくる -----


マ キ  「こんばんは ... 」

アヤカ  「 ...!」





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2012年10月29日

spin-off /「神戸物語」 第三章 -後 編-








タクヤ  「ちなみに、マスターのそのお店の名前、なんて言うの?」

マスター 「名前、でしょうか ... それは .... バール ... 」


        SE:ドアの開く音 -----

         :アヤカとミユキが入って来る -----


アヤカ  「マスター、こんばんは」

マスター 「いらっしゃいませ ... 」

ミユキ  「ご無沙汰です、マスター」

マスター 「まあ ... ミユキさん ...!」

ミユキ  「この間アヤカから聞いてびっくり。
      まさかマスターがこんなところにいるなんて知らなかったんだもの ... 
      でも良かった ... マスターが元気でやってて」

マスター 「ありがとうございます ... お気にかけていただいて ... 」

アヤカ  「それより ... この間はごめんなさいね、マスター。あんな話一色で ... 」

マスター 「いいえ ... お気になさらないでください ... 」

ミユキ  「あんな話って、ジュンちゃんのこと?」

アヤカ  「あんたはいいの、黙ってなさい」

ミユキ  「何よその言い草は ... 人の家に泊まり込んでまで相談しにきたくせに ... 」

アヤカ  「さあさあ、今日は何飲もうかな ... 」

ミユキ  「はーい、私久しぶりに、マスターのマティーニ飲みたーい!」

アヤカ  「あ、それっていいかも ... マスター、私も右に同じで!」

マスター 「はい、かしこまりました ... 」


        SE:ミキシンググラスにキューブアイスが8分目程入れられ
          そこへドライ・ジン(4/5)、ドライ・ベルモット(1/5)が
          入れてステアされる ---
         :やがてミキシンググラスからカクテルが注がれ
          カクテルピックに刺されたオリーブがグラスへ -----


ミユキ  「けど、一体どうするつもりなの? これから」

アヤカ  「どうするって ... 」

ミユキ  「またこっちに住むつもりなんでしょう?」

アヤカ  「出来ればそうしたいんけど ... 」

ミユキ  「出来ればって、あんた家飛び出してきたんでしょ?」

アヤカ  「うん ... 」

ミユキ  「だったら早く気持ちの整理して、さっさと仕事見つけなさいよ」

アヤカ  「わかってるわよ、そんなことぐらい ... でもね ... 」


         :それぞれにグラスが置かれる -----


マスター 「どうぞ ... 」

ミユキ  「ありがとう、マスター」

アヤカ  「どうも」


         :二人、軽く一口飲む -----


ミユキ  「ウーン ... 久しぶりのマスターのマティーニ、やっぱり最高だわ」

マスター 「恐れ入ります ... 」

ミユキ  「ねえ、アヤカ ... 」

アヤカ  「でもさ ... ちゃんとあの人に会ってからでないと私、わかんないのよ ...
      ジュンジに対する自分の気持ちが ... 」

ミユキ  「あんたね、何度も言うようだけど、どうやってその人捜し出すつもりなのよ?
      そりゃわかるわよ、あんたの気持も。私だってこれでも女24年、やってるん
      だからね。理屈はどうであれ、ふっと魔が差して人を好きになることだって
      あるよ ... たとえフィアンセがいたとしてもね」


         :アヤカ、ミユキの向こうに見え隠れするタクヤを診て -----


アヤカ  「! ... エッ ...?」

ミユキ  「でもだからって、名前も聞いてないのにその人捜し出すっていのは、ちょっと
      無理があるように思うな ... 不可能よ」

アヤカ  「 ...ウソ ... 」

ミユキ  「何がウソよ ... ホントのことじゃない。大体考えてもみなさいよ。
      その人見つけ出すなんてのは、太平洋とは言わないまでも、琵琶湖に落した
      コンタクト探し出すみたいなものなのよ ... 」

アヤカ  「ま、まさか ... 」

ミユキ  「まさかって ... どうしたのよ、一体。人の顔じっと見たりして ...
      あんた今、ハトが豆鉄砲くらったような顔してるよ ...?」

アヤカ  「あの人よ ... 」

ミユキ  「あの人って?」

アヤカ  「あそこに座ってるあの人が、その人 ... 」

ミユキ  「あの人がその人って ...(タクヤを見て)... エッ?! まさかあの人が今話題の
      その人?」

アヤカ  「まちがいない ... きっとそう ... 」

ミユキ  「ウソーッ ... ?!」


         :アヤカ、思わずタクヤのそばへ行き -----


アヤカ  「あのう、すみません ... 」

タクヤ  「 ...?」

アヤカ  「私のこと ... 覚えてませんか?」

タクヤ  「エ ...?!」

アヤカ  「あの時 ... あの地震の時に ... 煙の中、下敷きになって大声で叫んでたのが
      私です ... 」

タクヤ  「君は ... 」

アヤカ  「(泣きだし)あなたに ... あなたにあの時、助けてもらったのが、この私 ...
      私です ... 」

タクヤ  「君は ... あの時の!」



ミユキ(Na) 佐々木美幸、24歳 ... 神戸市須磨区生まれ、フツーOL。
       ... こんなドラマみたいな再会って ... あるんだね、実際 -----





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2012年10月28日

spin-off /「神戸物語」 第三章 -前 編-








        SE:男性の歩く靴音 -----

         :やがて店の前で止まり、ドアを開ける ---
 
         :ドアの開く音 -----


マスター 「いらっしゃいませ ... 」

タクヤ  「こんばんは、マスター」

マスター 「今夜はお一人ですか?」

タクヤ  「いや、今日は彼女とここで待ち合わせなんだ」

マスター 「そうですか ... お珍しいですね、マキさんが遅くにお見えになられるのは」

タクヤ  「ウン ... 何でも、コンサートで急な調律が入ったらしくて、それで彼女も
      予定が狂ったみたいで ... 」

マスター 「そうなんですか ... 」

タクヤ  「でないと、こうして一人でのこのこ、やって来ないですよ」

マスター 「そうですね ... 」

タクヤ  「でも ... 彼女が来るまでまだ時間が少しあるから、マスターはしばらく
      僕の相手をしてくださいよ」

マスター 「ハイ、かしこまりました」

タクヤ  「という訳で、先に出来上がってもダメだから ... マスターに任せようかな。
      何か軽いカクテルなんかを」

マスター 「 ... それでは ... ジン・トニックなどはいかがでしょうか ...?」

タクヤ  「ウン。それでいいですよ」


        SE:タンブラーグラスにキューブ・アイスを3、4個入れ
          そこへドライジン(45ml)が注がれる ---
         :次に、グラス8分目ぐらいまでトニックウォーターを注ぎ
          ライムをグラスの縁にデコレートし、マドラーが添えられる -----


タクヤ  「いつも思ってたんだけど、マスターの手つき、鮮やかだね」

マスター 「ありがとうございます ...(グラスを置き)どうぞ」

タクヤ  「どうも」


         :タクヤ、一口飲む -----


タクヤ  「ン ... 味の方も抜群だし。ここのオーナーより上かな、マスターの方が」

マスター 「光栄です ... 」

タクヤ  「ここに来る前も、どこかでやってたんでしょ? お店」

マスター 「そうですね ... 小さな所でしたが、それなりに ... 」

タクヤ  「そのお店も、やっぱり震災で ...?」

マスター 「 ...はい」

タクヤ  「もう無理なの? そこは」

マスター 「いいえ ... そうでもないのですが ... 」

タクヤ  「あ、ゴメン、マスター ... 滅多にこうしてマスターとゆっくり話さない
      もんだから、ついつい余計なこと言っちゃったりして ... 」

マスター 「いいえ、そんなことは ... 」

タクヤ  「でも ...(グラスを揺らせながら)
      そのマスターのお店って、どんな感じのとこだったんだろうなぁ... 」

マスター 「そうですね ... 午前零時を指したままの動かない柱時計と、アンチークな
      電話がある ... 海岸通りにあるお店でした ... 」

タクヤ  「ヘェーッ ... 動かない柱時計と古い電話か ... いやいや中々どうして
      雰囲気のあるお店だったと思うな ... 」

マスター 「いいえ、とんでもございません ... 」

タクヤ  「ちなみに、マスターのそのお店の名前、なんて言うの?」

マスター 「名前、でしょうか ... それは ... バール ... 」


        SE:ドアの開く音 -----





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2012年10月27日

spin-off /「神戸物語」 第二章 -後 編-








         :港公園の一角 -----

        SE:波の音 -----



タクヤ  「いよいよだな」

マ キ  「エッ?」

タクヤ  「結婚式だよ」

マ キ  「ああ ... そうね」

タクヤ  「ああって、嬉しくないのか?」

マ キ  「そんなことないわ ... どうして?」

タクヤ  「なんか他人事みたいな返事するから ... 」

マ キ  「違うの ... 何だか私、ピンとこないの」

タクヤ  「ピンとこない? 何で?」

マ キ  「私とあなたが一緒になれるなんて、今でも信じられないの ...
      何だか夢見たいで ... 」

タクヤ  「そんなことないさ、現実さ」

マ キ  「それはそうなんだけど ... 」

タクヤ  「俺たちは誰が何を言おうと、今度の日曜日に結婚するんだから」

マ キ  「タクヤ ... 」

タクヤ  「もうそろそろ、楽しいことがあってもいい頃だろ、俺たち」

マ キ  「 ... そうね ... そうよね」

タクヤ  「あれ以来、俺たち頑張ったもんなぁ ... 」

マ キ  「辛かったよね ... 」

タクヤ  「苦しかったな、毎日が ... 」

マ キ  「でも、よーく考えてみたら、あの震災のおかげで、私たちこうしていられるの
      かも知れない ... 」

タクヤ  「 ... 言われてみれば、そうかもしれないな ... 」

マ キ  「だって私たち自身、あの震災がキッカケで知り合ったんだもの ... 」

タクヤ  「そうだよな ... 」

マ キ  「あれから1年と半年 ... あなたはどうだった? 今日まで。長かった ...?
      それとも短かった?」

タクヤ  「長かったな ... そう思う。それに比べてまだ今この街は、過去を振り返って
      ため息つく余裕もなく、必死になって走り続けてる ... 
      俺たちみたいに一つの節目も向かえないで ... 」

マ キ  「 ... そうだね ... 」

タクヤ  「見た目じゃ確かにある程度は復興したけど、まだまだその影に隠れた傷跡で
      困ってる人が沢山いるんだ ... 」

マ キ  「目に見えない人の心もそうよね ... 」

タクヤ  「そう ... 人の傷は何よりも深く根付いてる ... 」

マ キ  「(少し笑って)ウフフフフ ... 」

タクヤ  「どうしたんだよ、いきなり ... 」

マ キ  「ごめんなさい ... そんなつもりはなかったんだけど、つい ... 」

タクヤ  「ついどうした?」

マ キ  「つい想像しちゃって ... 」

タクヤ  「何を?」

マ キ  「あなたが市長になったらおかしいだろうなって」

タクヤ  「俺が市長?(笑って)アハハハハ .... 馬鹿言うなよ。俺はただの市役所
      勤めのサラリーマンだよ。俺が市長なんかになれるはずがない」

マ キ  「でもさっきから言ってること、まるでそのものなんだもの」

タクヤ  「あれは受け売りだよ」

マ キ  「誰の?」

タクヤ  「うちのボスの」

マ キ  「ボスって?」

タクヤ  「市長に決まってるだろ」

マ キ  「(軽く笑いながら)何よそれ ... 」



タクヤ(Na)澤田拓也、27歳 ... 神戸市長田区生まれ、市役所勤務。
      ... 俺は彼女を、愛している ---


マキ(Na)湯浅麻紀、25歳 ... 神戸市中央区生まれ、ピアノ調律師。
      ... 私は彼に、愛されている -----





タグ:結婚式 傷跡
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