2012年09月14日

anecdote / 雨色のレシピ Last File -Page:final-









         :サンドリオンの店内 ---
         :ジンとアサミがいる ---

        SE:グラスにクラッド・アイスが入れられる音 -----

         :そこへバーボンが注がれ ---
         :やがてジンの手元へグラスが置かれる ---


マスター 「お疲れさまでした ... どうぞ」

ジ ン  「ありがとう、マスター ... 」

アサミ  「それにしても、強かな女性でしたね ... あのマリコって人は ... 」

ジ ン  「そうだな ... 
      ここでよく口にしてた、あのカクテルそのものの女だったな ... 」

マスター 「確か ... ブラディーマリーでしたね ... 」

アサミ  「その名の由来通り、冷ややかな血の流れる女性だった訳だ ... 」

マスター 「でも ... 綺麗な女性でしたね ... 彼女は」

ジ ン  「そうかな ... 本当の意味で綺麗な女ってのは、もっと違うような気がするな」

アサミ  「どう違うんです?」

ジ ン  「(一口飲み)... 例えば、金があるとか贅沢出来るとか、そんなことで自分を
      着飾ってる奴らの綺麗さってのは、メッキのように上辺だけ光ってて、中身は
      お粗末なものさ ... だが本当に心から綺麗な女ってのは、キラリと瞬くように
      光ってるものなのさ ... 」

アサミ  「瞬くように光るねぇ ... 」

ジ ン  「ちょうどこのグラスの中の氷のように、透き通って輝くものなんだよ ... 」

マスター 「透き通って輝く、ですか ... 」

アサミ  「今夜は妙にロマンチックなんですね、先生」

ジ ン  「俺は昔っから、ロマンチックさ ... 」

アサミ  「そうですかねぇ ... 」

ジ ン  「それよりマスター ... この期に及んで俺にはまだ、解けない謎がたった一つ
      だけ残ってるんだが ... 」

アサミ  「解けない、謎 ...?」

ジ ン  「その答えをマスターに教えてもらいたいんだ ... 」

マスター 「この私にですか ...?」

ジ ン  「そう」

アサミ  「先生、それってあの事件に関係あることなんですか?」

ジ ン  「まったくないとも言い切れんな ... 」

アサミ  「まだそんな謎が ...?」

マスター 「それでその謎とは、一体 ...?」

ジ ン  「この仕事もいよいよクライマックスだとか何とか言ってここへ来たあの夜 ...
      いつものオーダーをした俺に、いつもとは違うバーボンを、マスターは出して
      くれた ...

マスター 「はい ... 確かに」

ジ ン  「あの時、俺の問いかけにマスターは別に意味はないと答えたが ...
      俺にはどうも納得できなかった ... マスターがいつもとは違うあのバーボンを
      俺に出してくれたことが ... 」

アサミ  「先生、それはマスターの気分の問題でしょ ...?」

ジ ン  「それは違うな ... 」

アサミ  「どうしてです?」

ジ ン  「マスターの場合 ... 気分やノリで、お客が頼みもしない酒を勝手に出したりは
      しない ... そうだよな、マスター」

マスター 「 ... そうですね ... そのようなことは、決して ... 」

ジ ン  「ならどうして、あの夜あのバーボンを俺に?」

マスター 「 ... 勝手なことをいたしまして ... 申し訳ございませんでした ... 」

アサミ  「マ、マスター ... 」

ジ ン  「何か意味があったんだろ? マスター ... 」

マスター 「はい ... お察しの通り、あのバーボンをお出ししたのにはそれなりの意味が
      ございました ... 」

ジ ン  「やっぱりな ... それでその意味っていうのは ...?」

マスター 「ご承知のように、あのバーボンは『オールド・フォレスター』と呼ばれる
      アメリカでも歴史のある代表的なウイスキーです ...
      その歴史は古く、1874年に生まれたものと聞いております ... 」

アサミ  「100年以上も前なんだ ... 」

マスター 「当時のアメリカはバーボンの草創期でありながらも、密封されない状態の樽で
      市場に出回っていたために、容易に混ぜものを作ることが出来て、粗悪な密造
      ウイスキーが多かったようです ...
      そこで高品質のウイスキーを作ろうということで、他に比類なき高品質のこの
      バーボンが誕生し、品質を守るためにあえて『瓶詰めをして密封する』事を
      ラベルに記し、約束をしたとか ... 」

アサミ  「じゃつまり ... 100年以上も前に約束されたことを、今でも守ってるバーボン
      だってことなんだ ... 」

マスター 「そういうことですね ... 」

ジ ン  「そんな謂れのある酒を、どうしてあの時、俺に ...?」

マスター 「いつも仕事のクライマックスを向かえた夜にはここへお見えになり、帰りがけ
      に『また来る』と必ずおっしゃる約束を ... あの夜は特に守って頂きたいと
      そう思いまして ... 」


         :ジン、バーボンをゆっくりと一口 -----


ジ ン  「 ... 相変わらず、シルクのような女だな ... マスターは」

マスター 「失礼いたしました ... 」

アサミ  「さすが ... マスターのレシピは、完璧ね」

マスター 「そう言えば ... 時折、彼女が口にされてましたね ... 私のレシピは完璧だと」

ジ ン  「残念ながら ... マスターのレシピのようにはいかなかったようだな ... 」

マスター 「ちょうどこの季節の雨のように、儚く消え去る運命だったんでしょうか ... 
      彼女のレシピは ... 」

ジ ン  「 ... 雨色のレシピだな ... 」

マスター 「また、振り出したようですね ... 雨が ... 」


         SE:微かに聞こえる雨音 -----


マスター(Na) それは静かに終わりを告げた ---
      一雨ごとに季節の移ろいを忍ばせる時の流れが ...
      微かに耳元で囁くかのように ---

      それは静かに終わりを告げた ---
      琥珀色したグラスの中で、透き通った輝きを見せる氷が
      そっと寝息をたてるように ---

      そしてそれは、静かに終わりを告げた ---
      人知らずしてエピローグを告げるかのような
      微かな雨音に紛れて -----




posted by マスターの知人 at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | ストーリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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