2012年07月12日

épisode / 6oz.(オンス)の告白 -scene:final-






         :サンドリオンの店内 -----       


女    「ここへ来るようになってはじめてですね ... こんな話するのは」

マスター 「そうですね ... いつもはもっと違う別の話題が多いようですから ... 」

女    「そうそう、今の彼氏がどうだとかこうだとか ...
      でも結局私って ... その人を好きになることよりも、彼がいない淋しさを
      紛らわすために、恋に恋してるみたいだな ... 」

マスター 「恋に恋するですか ...?」

女    「そう ...
      だからいつも彼との違いを感じ始めると、自然に私から離れていくような
      態度を取ってた ... 」

マスター 「そして ... その度に彼の面影を追い、そのカクテルを口にされていた ... 」

女    「アドニス ... 私にとってこのカクテルは、彼への想いそのもの ... 」

マスター 「やはりこれからも、オーダーされるのでしょうか ... そのカクテルを」

女    「どうなんでしょう ...
      口にしたいのかしたくないのか ... 自分でもよくわからない ...
      ただ ... ふと淋しくなった時に気がつくと、私の手の中にあるカクテル
      だから ... 」


         :女、グラスのカクテルを空ける -----


マスター 「そのうちにいつか ...
      ご自分でその答えが出されるようになれば、よろしいですね ... 」

女    「マスター ... 」

マスター 「おかわりはいかが致しましょうか ... ?」

女    「いえ ... 今夜はもういいです。ありがとう ... 」

マスター 「それにしましても今夜はいつになく ...
      2杯目でオーダーストップされましたね」

女    「私にすれば、めずらしいですよね ...
      普通なら軽く3杯ぐらいはお願いするのに ... 」

マスター 「今夜は特別なのかも知れませんね」

女    「そう ... きっとそうだと思う ... だって私、今夜マスターに ...
      カクテル2杯でとんでもない告白をしちゃったんですから ... 」

マスター 「カクテルグラス2杯の告白 ...
      つまりそれは ... 6oz.(オンス)の告白ということですね ... 」

女    「そうっか ... そうなるんだ ... 今夜の場合は」


         :女、帰り支度をしながら -----


女    「それじゃマスター ... 今夜はごちそうさまでした ... 」

マスター 「どうもありがとうございました ... 」

女    「あ、マスター ... 」

マスター 「はい?」

女    「このお店と、マスター自身も ... 私にとってはオアシスなんですよ ... 」

マスター 「光栄です ... 」

女    「それじゃ、おやすみなさい ... 」


        SE:ドアの閉まる音 -----



マスター(Na) 彼女が今夜オーダーされた「アドニス」と言うカクテルは ...
      シェリーの上品で香りの高い味が生きたアペリティフ・カクテル ...
      つまり食前酒の傑作と言われているカクテルで、その名前の由来は
      遠くギリシャ神話にまつわったものと伝えられております ...


      そもそも「アドニス」とは美と愛の神アフロディア ...
      つまり、ヴィーナスに愛された美少年の名前で ... 狩りが好きな彼は
      巨大な猪の牙にかけられ、その命を落としてしまったのです ...

      ところが春になると、その彼の血が流れた土の上に赤い花が咲いた ...
      それが赤いアネモネの花 ...

      つまりそれがギリシャ語でいう「アドニス」だったということです ...

      ちなみにその「アネモネ」の花言葉は ... 





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2012年07月11日

épisode / 6oz.(オンス)の告白 -scene:5-






         :サンドリオンの店内 -----       


マスター 「事故だったんですね ... 」

女    「彼、焦ってたみたいで信号無視したらしいんです ...
      それで右折車のクルマと接触しちゃって ... ほんの一瞬の出来事なのに ... 」

マスター 「時として、一分一秒が ... その人の人生を大きく変えてしまうのですね ... 」

女    「人の命って呆気ないものだって、その時に感じたな ...
      だって ... ほんの数時間前まで、あんなに元気だったのに ... 」


         :女、カクテルをゆっくりと一口 -----

         :短い沈黙の中、静かに流れるジャズ -----


女    「(ポツリと)あの時、オーナーが言ってたんですよ ...
      彼が倒れてた周りには、アネモネの花びらが沢山散ってたって ... 」

マスター 「アネモネの花ですか ... 」

女    「そうです ... 赤いアネモネの花です ... 」

マスター 「それで ... そのカクテルを ...?」

女    「そういうことになりますね ... 」

マスター 「それでも ... いつもそのカクテルを口にされるわけではなく、今夜のような
      心持ちのような時にだけオーダーされるのは ... 」

女    「やっぱり ... 砂漠の中のオアシスのような存在だったんですよね ...
      私にとって、彼が ... 」

マスター 「それはつまり ... 彼以外の男性は、オアシスに成り得ないと ... 」

女    「あれから何人かの男性と出逢って、色んな話をし、ある程度の時間を一緒に
      過ごしたけれど、何かが違うんです ... 何かが ...
      受け入れられないんですよね、その中の誰一人としての男性を ... 」

マスター 「受け入れようと、されてないのでは ...?」

女    「 ... そうですね ... きっとそうですね ...
      彼のことを忘れようとする反面、実は彼のことを忠実に想ってたりして ...
      目の前の男性が彼と違うのは当たり前なのに、それでも彼の影を求めてる ... 」

マスター 「そして ... その時々の男性との時間の所有とともに、彼ではないことの事実に
      目覚め、その結果 ... 砂漠の中に彷徨いオアシスを求める ...
      届かない夜空の星に手を差し伸べるかのように ... 」

女    「届かない夜空の星、か ... 」

マスター 「それは紛れもない事実ではないでしょうか ... 」

女    「 確かにそうですね ... 彼はもう、私の手の届かない世界にいるんですから ... 」

マスター 「でも ... 」

女    「でも ...?」

マスター 「 ... その彼を想い慕う女性が今ここにいることも、事実だということです ... 」





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2012年07月10日

épisode / 6oz.(オンス)の告白 -scene:4-






         :サンドリオンの店内 -----       


女    「その夜、結局星空を見ることは出来なかったけど ...
      私自身が何かとても大切なものとめぐり逢えたような気がして、嬉しかった」

マスター 「年に一度の星たちのめぐり逢いが、姿を変えて行われたようですね ... 」

女    「恥ずかしながら ... 私もそう思ってた ...
      以前から顔を合わせたけど、ホントの意味での、これが出逢いなんだって」

マスター 「では、それからお付き合いが ...?」

女    「そうですね ...
      バイトが一緒だから時間の融通がきくし、休みも同じだから、それまで一人
      じゃ行けなかった色んな所へ彼と出かけたし ...
      彼もまたバイクでよく私を、遠いところまで連れてってくれた ...
      楽しかったな ... あの頃は ... 」


         :女、グラスに少し残ったカクテルを飲み干し -----



女    「マスター、おかわり下さい」

マスター 「かしこまりました .... 」


        SE:ミキシンググラスにキューブアイスが入れられ ---
         :そこへドライシェリー(2/3)とスィートベルモット(1/3)が
          注がれる ---
         :静かにステアされ ---
         :カクテルグラスに注がれる ---


女    「(ポツリと)そんな楽しい日々も、そう長くは続かなかったな ... 」


         :グラスが置かれる -----


マスター 「どうぞ ... 」

女    「どうも ... 」


         :女、カクテルを一口 -----
         :やがてグラスを見つめながら -----


女    「ちょうど一年後の七夕のことだった ...
      その夜もやっぱり曇り空で、それじゃ去年同様、二人で何処か星を見に行こう
      ってことで、話は決まってた ...
      私の二十歳の誕生日ということもあって、彼は随分と張り切ってくれてた ...
      でも ... そんな日に限って、得意先からの急な注文が入って、彼がその配達
      を頼まれた ...
      『店で待つのもなんだから、花時計の前で』と ... 彼は私の耳元でそう言うと
      ニッコリ笑って出かけて行った ...
      結局それが、彼の最後の言葉になるとも知らずに、私はいそいそと花時計へと
      向かった ... 」


         :女、カクテルをゆっくりと一口 -----


女    「それから ... 30分 ... 40分と時間だけがどんどん過ぎて行き、いつまでたっても
      彼は現れなかった ...


        SE:夜の街の喧騒 -----
         :遠くで微かに聞こえる救急車のサイレン音 -----


女    「そのうちに小雨が振りだし ...
      遠くで救急車のサイレンの音が聞こえた時 ...
      私は不意に言い知れぬ不安襲われ、彼の携帯に電話をかけた ... が
      つながることはなかった ... 
      私はそのままバイト先に電話をかけた ... 」


         :受話器の向こうのコール音 --- やがてつながり


女    「受話器の向こうから聞こえたのは、お店のオーナーの奥さんの声 ...
      私が彼のことを聞く前に、震える声で奥さんに告げられた ...
      『彼が死んだ』と ... 」





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2012年07月09日

épisode / 6oz.(オンス)の告白 -scene:3-






         :サンドリオンの店内 -----       


女    「私、これでも結構、田舎者なんですよ ...
      4年ほど前に四国から、わざわざこっちの大学へ通うのに引越しして
      一人暮らし始めたんです。
      何せずっと憧れてましたからね、この街には。
      それで念願の一人暮らしも叶って、張り切ってたんですけど、何かしら
      人恋しいんですよね ...
      友達は出来るし、遊びに行くところだって色々あるのに、何故だか淋しい
      ... どうしてなんだろうってあれこれ考えてみたら ...
      私、いつも一人だったんです ... 」

マスター 「でも、お友達がいらっしゃったのでは ... 」

女    「私の場合、学生とアルバイトの両方こなしてたから、友達はいても一緒に
      遊びに行くことなんて、たまにしかなかった ...
      親に無理させてこっちの大学へ行かせてもらってたから、せめて自分の
      食費や小遣いぐらいは、自分で賄おうと思ってたんで ... 」

マスター 「なかなか感心な大学生だったんですね ... 」

女    「でもホント、淋しかった ...
      やれバレンタインだ、クリスマスだって言って、周りの友達は彼とデート
      だとかパーティーだとかで、気がついたらいつも一人取り残されてたから」

マスター 「そんな時に知り合われたんですか? ... 彼とは」

女    「知り合ったというより ... 実はそばにいたんですよね、ずっと前から」

マスター 「ずっと前から?」

女    「アルバイト先のチーフだったんですよ、彼」

マスター 「チーフ?」

女    「私のバイト先がフローリスト ... つまり花屋さんの販売だったんです。
      それで彼が配達係のアルバイトチーフだった ...
      いつも顔を合わせてたわりにはそんなに話をすることもなく、ただ事務的に
      会話する程度だったのに ... 」

マスター 「それがどうしてまた?」

女    「彼が誘ってくれたんですよ ... 七夕の夜に星を見に行こうって」

マスター 「七夕の夜 ... 」

女    「その日は生憎の曇り空で、せっかくの星も見えなくて ...
      私、内心がっかりしてたんですよね ... 」

マスター 「七夕に何か特別な思い入れでもおありだったんでしょうか?」

女    「 ... 私の誕生日なんです ...
      それで彼が『星の見える所まで連れてってやるから』って、私をバイクに
      乗せて走ってくれたんです ... 」

マスター 「思いがけないバースディーになったんですね ... 」

女    「実は彼 ... 私の誕生日を知ってたんですよね。知ってて、その日に私を
      誘ったんです ... 」

マスター 「よくご存知でしたね、お客様のお誕生日を」

女    「何てことない、前に私の履歴書を見たことがあったらくて ...
      それでその日に決めたらしいんですよね、告白を」

マスター 「告白 ...?」

女    「彼らしい告白でした ... 」


         SE:バイクの走行音 -----


女    「バイクのスピードを徐々に上げていき ...
      風とエンジンの音で、ほとんど何言っても聞き取れない状態なのに ...
      彼は運転しながら後ろの私に、こう言いました ...
      『ずっと前から、好きだったんだ』って ... 」




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2012年07月08日

épisode / 6oz.(オンス)の告白 -scene:2-






         :サンドリオンの店内 -----       


女    「私にとってのオアシスか ... 確かにそうかもしれないな ... 」

マスター 「確か初めてここへいらっしゃった夜も、そのカクテルをご注文されたように
      記憶しておりますが ... 」

女    「そうだった、かな ... 確かあの時は ... 」

マスター 「あの時も ...
      今夜のようなイメージを、漂わせていらっしゃったようですが ... 」

女    「そう ... あの時もそうだった ... 今と同じようなピリオドだったものね ... 」

マスター 「ピリオド ... ?」

女    「振られたんですよね、私。あの時も ... そして今夜も」

マスター 「そうでしたか ... 」

女    「でも ...
      ホントのところは、私から振られるように仕向けてるのかもしれない ... 」

マスター 「ご自分から、ですか ...?」

女    「そう ... 自分から ... それも無意識にね ... 」

マスター 「無意識に ... どうしてそうなんでしょうか ...?」

女    「多分、今でも追いかけてるからですよ ... 彼のことを」

マスター 「彼のこと ... 」

女    「あれからもう3年も経つのに ...
      心のどこかにまだ、彼の面影が隠れているようなんですよね ... 」

マスター 「面影、ですか ... 」

女    「二重の優しい目や薄い唇 ... 今でも耳に残るあの声やジョーク ...
      どれだけ時間が流れても、昨日会ったばかりのように、私の中で
      彼の全てが息づいてる ... 」

マスター 「今でも、その彼氏のことを ... 」

女    「そうですね ... 多分 ... きっと」

マスター 「では ... 出来ればもう一度、お会いになられてみては ... 」

女    「会いには行ってるんですよ、何度かは ...
      でも駄目なんですよね ...
      私が何を話しかけても、どんなにすがっても、彼は黙ったまま ...
      何も言ってくれないんです ...」


         :女、カクテルをゆっくりと一口 -----


マスター 「失礼ですが ... その彼というのはまさか ... 」

女    「 ... そう ... そこのカクテルの由来通りに、この世にはもういない
      人なんです ... 」




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