2012年06月23日

épisode / パール来人.part:W -final-






         :サンドリオンの店内 -----



        SE:タマゴが割られ ---
         :卵黄だけがキューブアイスを入れたシェーカーに入れられる ---
         :ルビーポート(3/4:約45ml)とシュガーシロップ(1/4:約15ml)
          それぞれ入れられ --- 強くシェークされる -----
         :ポートワイングラスが用意され、静かに注がれる -----

         :やがて女の前に、グラスが置かれる -----


マスター 「お待たせ致しました ... どうぞ」

マスミ  「どうも ...
      (ゆっくりと深いため息をつき)どうすればいいんだろう ... 私 ... 」


         :女、カクテルを一口飲み -----


マスミ  「そう ... このカクテル ...
      名前の意味とは裏腹に、すごくなめらかで優しい味なんですよね ... 」

マスター 「カクテルベースであるルビーポートの名前とは違って、本来は別の意味で
      よく飲まれるカクテルですから ... 」

マスミ  「別の意味って ...?」

マスター 「このカクテルはもともと、疲れを癒すドリンクとして親しまれています」

マスミ  「疲れを癒す ... 」

マスター 「ですのでよく、お休みになられる前に飲まれる方が多いと聞いております」

マスミ  「そうなんですか ... 」

マスター 「そういう意味の方がピッタリではないでしょうか ... 今のお客様にこの
      カクテルは ... 」

マスミ  「疲れを癒す、か ... 」


         :女、グラスを見つめている -----

         :つかの間、沈黙 -----


マスミ  「マスター ... 私一体どうすれば ... 」

マスター 「その答えはやはり ... このバカラのグラスではないでしょうか ... 」

マスミ  「このカクテルグラスが ... 」

マスター 「すべては ... このグラスに答えがあるように思います ... 」

マスミ  「 ... 」





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2012年06月21日

épisode / パール来人.part:W -scene:4-





         :サンドリオンの店内 -----



マスミ  「この間 ... そう、ジンが私を見かけたというあの夜に ... 打ち明けられたんです
      あの人の心の内のすべてを ... 」

マスター 「すべてを ...?」

マスミ  「あの日は急にあの人から、私を誘ってきた夜だったんです ...
      それまでは必ず前もって約束するのに、あの日に限ってその日に連絡があった
      んです ... 『今夜大事な話があるから、ぜひ会ってほしい』って ...
      私は、ジンと逢おうって決めてた矢先だったんで、かなり迷ったんだけど ...
      結局、断る理由もないままに、あの人と逢うことになったんです ... 」

マスター 「その結果 ... その男性からプロポーズをされたと ...
      それにしても、急な告白ですね ... 」

マスミ  「確かに私もそう思いました ...
      あの人にプロポーズされるほど、まだ時間をかけたお付き合いしてなかったし
      私自身、まだこんな調子だったから ... 」

マスター 「それを承知で、その男性は告白をされた ... 」

マスミ  「あの人にとっては、私と共有した時間の量よりも、その内容の方が大事らしく
      て... 」

マスター 「量より質、ということ ... 」

マスミ  「どんなに多くの時間を費やそうとも、その内容に価値がなければ意味もなく ...
      逆にたとえわずかな時間でも、その内容に価値が見出せれば、それはそれで
      何年もの時間を過ごしてきたことに、勝るとも劣らないものがあるんだと ... 」

マスター 「かなり理論派の方なんですね ... 」

マスミ  「でも... 確かに難しい言い回しだったけど、何となくわかるんですよ、感覚的に
       ... 」

マスター 「果たしてそれだけの理由で、プロポーズされたんでしょうか ...
      何か他にも理由があるような ... 」

マスミ  「そうなんです ... ホントの理由は他にあるんです ...
      ... 実はあの人、4月から東京へ転勤するらしいんです。それも栄転ってことで
      ... 」

マスター 「東京へ ...?」

マスミ  「社内で急に決まったことらしく、それなりの抜擢なんだそうです。
      それでこれからの事をいろいろ考えて、その結論が ...
      私へのプロポーズだったとか ... 」

マスター 「 ... 迷っていらっしゃるんですか ... 」

マスミ  「そうじゃないと言えれば ... 私は淑女なんでしょうか ... 」

マスター 「それは ... 彼氏にとってでしょうか ... それとも、その男性にとってでしょう
      か ... 」

マスミ  「それは ... 」


         :沈 黙 -----


マスミ  「(ポツリと)今の私には、それさえ答えられないんだ ... 」

マスター 「一つだけ、答えられる事実をお忘れではないでしょうか ... 」

マスミ  「答えられる事実?」


         :マスター、サイドボードから箱を取り出し ---
         :カウンターへ置く -----


マスター 「このお預かりしたバカラのグラスが ...
      彼氏へのバースディープレゼントだということです」

マスミ  「 ...!」





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2012年06月19日

épisode / パール来人.part:W -scene:3-





         :サンドリオンの店内 -----

         :静かに流れるジャズの旋律 -----


マスミ  「そうですか ... やっぱり見たんですか、彼 ...
      私があの人と会ってるところを ... 」

マスター 「そうおっしゃられてました、この間の夜に ... 」

マスミ  「随分怒ってたでしょうね、彼は ... 人一倍、やきもちな人だから ... 」

マスター 「そうですね ... 少し怒ってらっしゃいましたね、淋しそうに ... 」

マスミ  「 ... 淋しそうに、ですか ... 」


         :女、グラスのカクテルを一口飲み -----


マスミ  「いけない女ですね、私って ...
      自分でもこんないい加減な女だとは思わなかった ... 」

マスター 「罪悪感でしょうか ... それとも自己評価 ...?」

マスミ  「両方ですね、多分 ...
      私は今、自分でもよくわからない ...
      街ですれ違う人に『お前は最低の女だ ... 悪女だよ』って、そう耳元で
      囁かれたら、自分でそう思うかもしれない ... 」

マスター 「逆の場合だったらどうでしょうか ... 」

マスミ  「逆の場合って ...?」

マスター 「あなたは最高の女性だ ... 淑女ですよと ... 」

マスミ  「誰が言ってくれるでしょうね ... そんなセリフを」

マスター 「私が今、申し上げましたが ... 」

マスミ  「私のどこが最高でどこが淑女なんです? 程遠い女ですよ、今の私は」

マスター 「悪女には罪悪感も自己評価も、持ち合わせてはいないかと ...
      ただ気の向くまま思うままに、男性の心を虜にする ...
      そこにあるのは本能のままに漂う心 ...
      そんな風には見えませんが ... お客様の場合は」

マスミ  「でも私は今、二人の男性の間に漂っている女 ...
      男を惑わせるこの瞳は豹のように黒くて、この爪のラインは光る芥子の色 ...
      たとえ悪女でないにしても、さながら過激な淑女のようなものです ... 」

マスター 「過激な淑女、ですか ... 」

マスミ  「そう ...
      それも優しさをヒールの下に隠した、淑女かもしれない ... 」

マスター 「今夜は、もう酔われたんでしょうか ...?」

マスミ  「 ... ごめんなさい ... 私 ... 」


         :女、カクテルを一口飲み -----


マスミ  「マスター ... 実は私 ... 」

マスター 「はい ...?」

マスミ  「プロポーズされたんです ... あの人に」





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2012年06月17日

épisode / パール来人.part:W -scene:2-






         :サンドリオンの店内 -----

        SE:グラスが置かれる音 -----


マスター 「どうぞ」

マスミ  「どうも ... 」


         :女、カクテルをゆっくりと一口 -----


マスター 「今夜もまた、いつもとは違ったカクテルを召し上がるんですね」

マスミ  「そう言われれば、そうですね ...
      このところ来る度に違うカクテル、口にしてますね、私 ...
      情緒不安定なんですよね、きっと ... 」

マスター 「それで今夜の気分は、そのカクテル ... ですか」

マスミ  「ポートフィリップ ...
      真っ赤なルビーポートをベースにしたこのカクテルが、今の私のためにある
      ような、そんな気がして ... 」

マスター 「それは ... どういう意味でしょうか ...?」

マスミ  「男を惑わす酒場の女 ...
      そんな意味合いが込められているのが、このワインの名前だって ... 」

マスター 「男を惑わす ... 」

マスミ  「昔、このカクテルを教えてくれた友人が、そう言ってました ... 」

マスター 「それで ... 今のご自分がそうだと?」

マスミ  「だってそう思いませんか ...
      私から逢おうって彼を誘っておきながら、自分でその約束を破ってるんです
      から ... 最低ですよね、私って女は ... 」


         :女、カクテルをゆっくりと一口 -----


マスター 「 ... どうなさったんですか、あの日の夜は ...
      かなりの時間、お待ちでしたのに ... 」

マスミ  「 ... 私 ... 彼と逢うのが急に辛くなって ... 」

マスター 「どうしてまたそんな風に?」

マスミ  「それまでの私は、とにかくあのグラスを渡そうと思って、彼と逢う決心して
      たんですよ ... 」

マスター 「それまでの私 ...?」

マスミ  「そう ... あの日が来るまでは、私、彼と逢うつもりだった ...
      逢ってとにかく、あのバカラのグラスをプレゼントしようと思ってた ...
      でも ... 」

マスター 「でも ...?」

マスミ  「私 ... 彼とここで逢う約束をしてから3日後に、あの人と会ってたんです ...
      その時に見かけたんです、彼を ... 」

マスター 「それで辛くなられた ... 」

マスミ  「別の人と会ってるところを彼に見られたんじゃないかと思うと、私 ... 」

マスター 「それでも彼はここへいらっしゃいました ... 全てを知りながらも」

マスミ  「エッ ... ?!」





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2012年06月15日

épisode / パール来人.part:W -scene:1-







         :回 想 -----

         :ピアノの生演奏 --- ホテルのラウンジ
         :窓際の席に男と女がいる ---
         :テーブルの上には、水割りとカクテルが -----


男    「今夜はどうしたのかな ...? 元気がないようだけど」

マスミ  「 ... いえ、そんなことは ... 」

男    「そうかな ... いつもの君らしくないと思うけどね」

マスミ  「そんな風に見えます?」

男    「そんな風に感じるな ... 」

マスミ  「そうですか ... ならきっと、仕事のせいかと ... ここんところずっと
      忙しかったから ... 」

男    「ホントにそれだけかな ... 」

マスミ  「エ ... ?」

男    「もっと別の原因があるんじゃないかな ... 」

マスミ  「別の原因って ... ?」

男    「その後、彼とはどうなの?
      ちゃんと話せたのかい? 自分の気持ちを」

マスミ  「 ... いいえ、それはまだ ... 」

男    「そっか ... やっぱりまだ会ってないんだ ... 」


         :男、ゆっくりと水割りを一口飲み -----


男    「いいのかな? このままで」

マスミ  「それは ... 」

男    「君を攻めるわけじゃないけど ... はっきりした方がいいと思う。
      彼のためにも、そして君のためにも」

マスミ  「それはどういう意味でしょう ...? 
      アドバイスですか? それともアプローチ?」

男    「そうだな ...
      どちらかと言えば、後の方になるだろうね」

マスミ  「私へのアプローチですか ... 」

男    「まあ、今のボクは横恋慕の対場だからね」

マスミ  「そんなことは ... 」

男    「だったら素直に答えてほしい ... ボクなのか、彼なのかを ... 」

マスミ  「それは ... 」

男    「実はね、ボクは ... 」



         長針短針 ... 彼と彼女 -----
         長針が刻む時間の軌跡が
         短針の告げる時の誘い -----

         昨日から今日へ ...
         今日から明日へと繰り広げられる時物語 -----
         漂うように ... 流れるように
         過ぎ去った時間に歴史を刻んで -----

         彼と彼女の二人の時計は
         今はまだほんの少し .....



        SE:波の音 -----


マスミ(Na) 2月29日 ... ジンの誕生日 .....
      自分から誘っておきながら、サンドリオンへは行かなかった私 ...
      結局、記念すべき4年ぶりの彼の誕生日に、私からプレゼントしたものは
      ... バカラのグラスではなく ... 約束を破ったという事実だけ ...

      (小さなため息)多分もう、これで二度と逢えないだろうな、彼とは。

      そんなことを考えながら歩いていると、いつの間にかこの店のドアの前に
      立っていた ...
      
      バール・サンドリオン ...


        SE:ドアを開ける音 -----



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