2012年05月31日

épisode / パール来人.part:V -final-






         :サンドリオンの店内 -----


マスミ  「私、今 ... このグラスをどうすればいいのかわからないんです ... 」

マスター 「プレゼントされるために頼まれたものですから、やはり ... 」

マスミ  「でも今の私は ... 彼に対して何も出来ない ...
      このバカラのカクテルグラスに注いであげられるものがなにもない ... 」

マスター 「そうでしょうか ... 」


マスミ  「エ ... ?」

マスター 「そのバカラのグラスには、あふれるほど注がれているように見えます ...
      お客様のその想いが ... 」

マスミ  「マスター ... 」

マスター 「それも、ちょうどそのクリスタルのように透き通って ... 」

マスミ  「でも私は今 ... 」

マスター 「もう一人の自分がいたら、どうなさるんでしょうか ... 」

マスミ  「それは ... 」


         :沈 黙 -----


マスター 「パナシェというカクテルはその名前の意味より ... もっと大切なことが
      あります ... 」

マスミ  「大切なこと ... ?」

マスター 「そのカクテルは、あくまでも透明でなければならないとされています ... 」

マスミ  「透明 ... 」

マスター 「ですので、このパナシェの場合 ... 中にはフレッシュのレモンジュースを
      流用されるレシピもありますが、そうすると色が濁り、本来あるべき姿では
      なくなります ...
      パナシェにとっての透明感は、そのバカラのクリスタルと同様に、どこまでも
      クリアでなければならないものなのです」

マスミ  「どこまでもクリア ... 」

マスター 「パナシェという名前の意味よりも ...
      その姿に拘られてみてはいかがでしょうか ... 」


        SE:ゆっくりとシャワーの音が聞こえ出す -----


マスミ(Na) そんなマスターの言葉を最後に、私は店を後にした ...
      マスターにあのバカラのグラスを預けて ...


        SE:シャワーの音が止む -----


      彼にあのグラスを送ることが罪なのか ...
      それとも手元に置いておくことが罪なんだろうか ...
      もう一人の自分に問いかけている私 .....


        SE:グラスに氷が入れられ -----
         :そこへミネラルウォーターが注がれる -----


      そう考えること自体が、罪 ...?!


         :女、携帯電話を取り ---
         :電話をかける ---

         :少しこぼれて聞こえる呼び出し音 -----

         :コールが繰り返される -----
         :やがて -----


マスミ  「 あ ... もしもし、ジン ...?」





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2012年05月29日

épisode / パール来人.part:V -scene:4-






         :サンドリオンの店内 -----      

        SE:二杯目のカクテルがジョイントされ -----


マスター 「お待たせいたしました ... どうぞ」


         :グラスが置かれる -----


マスミ  「どうも(軽く一口)...
      このグラスは、以前に私がフランスにいる友達に頼んでたもので、それが
      ついこの間、やっと私の所へ届いたんです。
      日本でもなかなか高価なものなんで ... それで直接、フランスから取り寄せ
      たいと思って ... 」

マスター 「そうでしたか ...
      確かにその『バカラ』のグラスは、世界でも超一流といわれるクリスタル ...
      その昔、ルイ十八世やヨーロッパ各国の国王、そしてフランスの歴代大統領は
      もとより、世界中の王侯貴族に愛されてきた、二百年以上の歴史と伝統を誇る
      ものですからね ... 」

マスミ  「さすがによく知ってますね、マスターは。
      でも、本当に綺麗なグラスだと思う ...
      クリアな透明感と美しい輝き ... それにこの規則正しい精密なカッティング。
      どれをとってみても隙のない超一流品だわ ... 」

マスター 「でも何故 ... このバカラのグラスが、もう一つの原因なんでしょうか ... 」

マスミ  「実はこれを ... ジンにプレゼントしようと思ってたんです ... 」

マスター 「プレゼント ... 」

マスミ  「来週の土曜日は ... 彼の誕生日なんです ... 」

マスター 「2月 ... 29日」

マスミ  「そう ... 彼は閏年の生まれで、4年に一度しか本当の誕生日がこないんです ...
      ... だから私にとっては、初めて彼の誕生日に祝ってあげられると思って ...
      それで ... 」

マスター 「お友達に頼まれた ... 」

マスミ  「それがよりによって今頃届くなんて ... 」


         :女、カクテルグラスを見つめながら -----


マスミ  「ちょうどこのカクテルのように ...
      私の心の中で今、彼とあの人が混ざり合ってるんです ... 」

マスター 「それで今夜はそのカクテル、なんでしょうか ...?」

マスミ  「エ ...?」

マスター 「『パナシェ』とういそのカクテルの名前は ...
      フランス語でちょうど ... 「混ぜ合わせた」という意味なんです ... 」





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2012年05月27日

épisode / パール来人.part:V -scene:3-






         :サンドリオンの店内 -----      


マスミ  「軽率な女ですね ... 私は」

マスター 「それは単なる結果論だと思いますが ... 」

マスミ  「そうでしょうか ... 」


         :女、カクテルを一口飲み -----


マスミ  「 ... この間友達と飲みに言った時、こんな質問されたんです ...
      もう一人の自分がこの世に存在したら、どうするって」

マスミ  「もう一人の自分? ... なかなかおかしな質問ですね」

マスミ  「ありえないことなんだけど ...
      ただ、もう一人の自分がいたらこうしたいという答えは、いつも自分が
      抑えつけている部分のことらしいんです ...
      だから、自分のどの部分を拡大したいのかという願望が反映されることも
      あるらしんです」

マスター 「一種の心理学ですね、それは ...
      それでどうお答えになられたんですか ...?」

マスミ  「... 彼に会いに行くと ... 」

マスター 「それは ... 」

マスミ  「ジンのことです ... 」

マスター 「願望なんでしょうか、それは」

マスミ  「友達は言ってました ...
      それは、常に心の底に眠ってる、違う自分に自分に気付いてる場合の
      顕著な深層心理の表れだって ... 」

マスター 「深層心理、ですか ... 」

マスミ  「自分に都合のいいことばかり考えてるんですね、私は」

マスター 「多かれ少なから、誰でもそう思ってるものではないでしょうか ...
      人の心とは、そういうものだと思いますが ... 」

マスミ  「マスターは繊細な心の持ち主ですね ... 」

マスター 「恐れ入ります ... でも今、私の目の前にいらっしゃる女性も、同じ
      心の持ち主だとお見受けいたしますが ... 」

マスミ  「 ... 私なんか ... 」


         :女、残ったカクテルを飲み干し -----


マスミ  「マスター、おかわりいただけますか」

マスター 「同じものでよろしいんでしょうか?」

マスミ  「 ... ええ、お願いします。今の私にはこのカクテルが、お似合いの
      ようなんで ... 」

マスター 「今夜はいつもよりまた少し、不自然なご様子ですね ... 」

マスミ  「エ ...?」

マスター 「やはりこの間のバレンタインのせいなんでしょうか ... 」

マスミ  「 ... ええ、そうですね ... でも、それだけが原因じゃないんです ... 」


         :女、紙袋から箱を取り出し -----
         :箱の中を開けると --- グラスが入っている -----


マスミ  「これも一つの原因なんです ... 」


         :グラスをカウンターへ置く -----


マスミ  「このカクテルグラスが ... 」





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2012年05月25日

épisode / パール来人.part:V -scene:2-






         :サンドリオンの店内 -----      


        SE:グラス1/2にビールが泡立たないよう静かに注ぎ
         :次に透明なレモンソーダが -----
         :やはりグラスに1/2ゆっくりと注がれ -----

         :やがて、女の前へグラスが置かれる -----



マスター 「お待たせいたしました ... どうぞ」

マスミ  「どうもありがとう」


         :女、カクテルを軽く一口 -----


マスミ  「このカクテル、ビールの苦味が和らいでて、すごく飲みやすい ... 」

マスター 「そうですね。
      基本的にはビールの炭酸割りというシンプルなカップリングですが、
      ジンジャエールを使うと『シャンディーガブ』というカクテルになりますし
      炭酸飲料ではなくトマトジュースで割ると、濁った赤い色のカクテル
      『レッド・アイ』にその名を変えます ... 」

マスミ  「レッドアイ? ... 少し変わった名前ですね」

マスター 「よく二日酔いに効くといって飲まれる方が多いカクテルですから、そう
      呼ばれるとも聞いておりますが ... 」

マスミ  「なるほど ... それでレッドアイか ... 」

マスター 「他にも『カンパリ・ビア』や『ビア・スピリッツ』と、単純にビールと
      他の物を組み合わせるだけで、色んなカクテルに生まれ変わるんです」

マスミ  「生まれ変わり、か ... 」


         :女、カクテルをゆっくりと一口 -----

         :沈黙 -----


マスター 「 ... 少し、お元気がないご様子ですね ... 」

マスミ  「 ... そうですね ... その部類ですね ... 精神的に」

マスター 「精神的に ... ?」

マスミ  「私 ... どうやらホントに自分を見失ったようなんです」

マスター 「見失う ... ?」

マスミ  「そう ... 正確には、この間の金曜日の夜から ... 」

マスター 「彼とお会いになられたんですか? それとも ... 」

マスミ  「ジンとは ... 会ってないんです ...あの人と、会ってたんです ...
      それで」

マスター 「その男性の存在が、待た少し近くなった ... 」

マスミ  「 ... そうですね ...
      それまでのお互いのテリトリーが、壊れてしまったようで ... 」

マスター 「壊れてしまった ...?」

マスミ  「そんなつもりじゃなかったのに ... 」

マスター 「でもその男性には、そうは伝わらなかった ... 」

マスミ  「子供のように、ただ無邪気な気持ちで渡したつもりだったのに ... 」

マスター 「子供のように、ですか ... 」

マスミ  「私は自分が子供のようなつもりだった ...
      でも ... 自分が大人であることを知らされました、私 ... あの瞬間」

マスター 「知らされた ... ?」

マスミ  「そう ... あの人に、抱きしめられたあの瞬間に ... 」

マスター 「子供のようにはなれても ... 子供にはなれなかったんですね ... 」





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2012年05月23日

épisode / パール来人.part:V -scene:1-






      長針短針 ... 彼と彼女 -----
      長針が過ごす時の成り行きは
      短針が刻む時間のすべて -----
      たとえそれぞれに違う周期でも
      同じ文字盤上での微妙な関係 -----
      背中合わせや隣同士
      時には一つに重なることも -----
      彼と彼女の二人の時計は
      今はまだほんの少し -----


        SE:マンションの廊下に響くヒールの音 --- やがて止まる
         :ノブにキーが差し込まれ、回す ---
         :ドアの開く音 ---
         :ヒールを脱ぎ --- 部屋の灯りのスイッチが入れられる


マスミ  「(深いため息)フゥーッ ... 今日は少し酔ったかな ... 」


        SE:マスミ、上着を脱ぐ ---
         :スイッチが入り、部屋にジャズが流れる -----


マスミ(Na) あれは先週の金曜日 ... つまり2月14日 ...
      俗に言われる聖バレンタインデーのその夜 ...
      私は彼以外の男性と、同じ時間を過ごした ...
      これで三度目 ...
      確かに何かに怯えている自分がいるはずなのに ...
      気がつくともう一人、別の自分が何かにときめいている ...
      そしてそんな時 ... 私の目の前には、彼以外の男性がいる。

      彼の口元から現れるタバコの煙がまだ真新しい距離に私が存在し
      私のオーデコロンの匂いが漂う範囲にその人が存在している .....

      今はまだ求めることもなく、求められることもない微妙な距離 ...
      そんな彼との関係が ... 壊れてしまった ...
      ... あのバレンタインデーの夜に -----


         :ジャズが消え -----


      初恋の彼に手渡した、ある種の厳粛な儀式めいた意識の告白とはまったく
      別の意思表示のチョコレートが、二人のそれまでのテリトリーを意図も簡単に
      壊してしまった ...

      私はそれから、自分の居場所を本当に見失ったようだった ...

      そんな矢先に ... もう一人の自分を目覚めさせてしまうような品物が
      私の手元に届いた ...


         :女、シャワーを浴びる -----


      その瞬間から、何をどうすればいいのかわからなくなり ...
      気がつくと私は、あの店のドアの前にいた ...
      ある品物をもって -----



         :回想 -----

         :ドアの開く音 -----


マスター 「いらっしゃいませ、ようこそ ... 」





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