2012年04月15日

épisode / パール来人 -scene:1-




バーテン(Na)今宵の出来事もまた ...
       この店がまだ、海岸通りにあった頃のお話しだったと
       マスターから聞かされました -----





         :サンドリオンの店内 -----

        SE:電話が鳴る -----
         :マスター、受話器を取る -----


マスター  はい、サンドリオンです。

      ----- どうも今晩は。

      ----- いいえ、生憎とお見えになっていらっしゃいませんが ...
         で、お約束は?

      ----- そうですか ....

      ----- いいえ、とんでもございません。

      ----- はい、何なりと。

      ----- かしこまりました。

      ----- いつでもどうぞ。お待ちしております。

      ----- はい。ありがとうございました ... それでは失礼致します。


         :マスター、受話器を置く -----


      長針と短針 ... 彼と彼女 -----
      長針だけでは時を知る術もなく
      短針だけでは時を刻めるはずもない -----
      互いが互いの存在に気がついて
      はじめてそこで知らされる -----
      互いがかけがえのない存在であることを -----
      けれど ...
      彼と彼女の二人の時計は
      今はまだほんの少し .....


        SE:微かな波の音 -----

         :ゆっくりと女性が歩いている ---
         :さやがてサンドリオンの前 --- 立ち止まる


マスミ  「サ・ン・ド・リ・オ・ン ... 」


        SE:ドアの開く音 ----- 一人の女が入ってくる


マスター 「いらっしゃいませ、ようこそ ... 」

マスミ  「こんばんは ... 」


         :女、スプリングコートを脱いで掛ける -----


マスミ  「今夜は少し、冷えますね ... 」

マスター 「そのようですね。皆さんそう云いながらいらっしゃいますから」

マスミ  「そっか ... マスターはずっとここにいるからわからないんだ。
      いいですね、ここはオアシスみたいで」

マスター 「オアシス、ですか...?」

マスミ  「そう、過ごしやすくて静かで ... 心落ち着く場所だもの」

マスター 「お褒めに与り、ありがとうございます ... ご注文は何になさいますか?」

マスミ  「今夜は ... そう、マルガリータを」

マスター 「マルガリータ ... かしこまりました」


         :グラスが用意され、カクテルベースがシェイクされる -----
         :やがてグラスに注がれ ----- 女性のもとへ置かれる


マスター 「どうぞ ... 」

マスミ  「どうも ... 」

マスター 「いつものジンベースではないんですね、今夜は」

マスミ  「エッ? ええ、まあ ... 今夜は少し気分を変えようかと思って ...
      そう ... 一人でここへ来ましたからね ... 」

マスター 「お一人で、ですね ... でも、つい今し方、お電話がございました」

マスミ  「私に ... ですか?」

マスター 「そう、ご伝言を伺っております ... いつもご一緒にいらっしゃる方からです」

マスミ  「それって、彼 ... まさか、ジンからの伝言 ...?! 」



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2012年04月11日

épisode / ジン来夢 -final-






         :サンドリオンの店内 -----


ジ ン  「それでこのカクテル、ですか ... 確かベースはテキーラ」

マスター 「情熱のスピリッツと呼ばれています ... 」

ジ ン  「情熱か ... 」

マスター 「少しお節介でしたね ... お許しください」

ジ ン  「いいえ、とんでもない ... それどころか逆にありがたいですよ。
      何度か見かけカクテルだけど、こうして口にするのは初めてだ ... 」


         :男、ゆっくりとカクテルを一口 -----


ジ ン  「ジンライムとは違って、少しドライだな ... テキーラか ... 」

マスター 「お気に入って頂けましたでしょうか ... 」

ジ ン  「気に入るというより ... むしろ感激ですね。
      でも何故このカクテルなんです? 他にもテキーラベースのものは色々
      あるのに ... 」

マスター 「このカクテルの由来はご存知でしょうか ...?」

ジ ン  「生憎と知りませんね ... 」

マスター 「 ... これは人の名前なんです ... それも女性の」

ジ ン  「女性の名前 ... ?」

マスター 「このカクテルを作ったバーテンダーの初恋の女性の名前なんです ... 」

ジ ン  「初恋の人の ... 」

マスター 「でもその女性は不運の事故死を遂げ、彼はその彼女を悼んでこのカクテルを
      作ったといわれております ... 」

ジ ン  「彼女に対する精一杯の心の表現だった ... 」

マスター 「そういうことでしょうね ... 」

ジ ン  「心の表現か ... 」

マスター 「そのシルバーリングは、女性の指に合うものだと思います」


         :男、ゆっくりと指輪を回す -----
         :カウンターに小さくはじけ回る指輪の音 --- やがて止まる


ジ ン  「 ... 確かにジンは心を冷やしたけど、これは違うな ... 」

マスター 「 ... 恐れ入ります ... 」

ジ ン  「しばらくジンとはおさらばして、こいつをベースにしてみますよ ...
      このテキーラを」

マスター 「そう云って頂けると、光栄です ... 」

ジ ン  「その時は ... もう一つグラスをお願いしますよ、マスター」

マスター 「 ... はい?」

ジ ン  「そう ... 彼女の分もね ... 」

マスター 「かしこまりました ... お客様にとってのマルガリータですね ... 」





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2012年04月09日

épisode / ジン来夢 -scene:4-






          :サンドリオンの店内 -----


マスター 「彼女はご存じないんでしょうか ... この指輪のことを」

ジ ン  「ええ ... 何も話してませんからね ... というより、ここへ来る前に喧嘩別れ
      しちゃいましたから、夢にも思ってないでしょうね、きっと」

マスター 「だからいらっしゃらない、と ... 」

ジ ン  「そう ... ささいなことだったにですけどね ... ついカッとなっちゃって ...
      大人げないと言われればそれまでなんですけど、彼女の日頃の振る舞いが当然
      だと思ってただけに ... 自分の気に入らない態度とられると、ついつい素っ気
      ない態度とったり、邪険にしたりで ...
      今思えばあぐらかいてたんですよね、自分の気持ちに ... 」

マスター 「それは ... 反省でしょうか ... ?」

ジ ン  「そうなりますね ...
      さっきの含蓄あるマスターの時計の話に、自分にとっての彼女の存在が改めて
      はっきりしましたから ... 」

マスター 「彼女は本当にいらっしゃらないんでしょうか ... 」

ジ ン  「来ないと思います ... 絶対にね ... 」

マスター 「自信がおありのようですね ... 」

ジ  ン 「フ ... 哀しい自信ですね ... 」

マスター 「それでも、お客様だけはこのお店へいらっしゃった ... 」

ジ ン  「それジンが飲みたかったから ... 」
      ジンベースのカクテルが飲みたかったからです ... 」

マスター 「心底、ジンがお好きなんですね ... 」

ジ ン  「そうですね ... ボクの場合、自分の名前もジンですから ... 」


          :男、ゆっくりとグラスのカクテルを飲み干す ---
         SE:グラスの氷の音 -----


ジ ン  「同じやつ、ください ... 」

マスター 「 ... この際、お勧めしたいカクテルがあるんですが ... いかがでしょうか?」

ジ ン  「興味津々だな、マスターお勧めのカクテルだなんて。
      いいですね、お願いします」

マスター 「ありがとうございます ... では、早々に ... 」


         SE:スノースタイルのグラスに氷が入れられ ---
          :そいこへカクテルベースが注がれてシェークされる -----
          :カウンターに響くシェーカーの音 -----
          :やがてグラスに注がれる -----


マスター 「お待たせいたしました ... どうぞ」

ジ ン  「マスター、これは ... 」

マスター 「あえてジンベースは使いませんでした ... 」

ジ ン  「どうしてです?」

マスター 「そもそもジンは薬品として誕生しました ... 」

ジ ン  「そう、解熱剤として ... でもそれがなにか?」

マスター 「お客様がこれ以上ジンを口にされますと ... 
      心まで冷めてしまうのではないかと ... そう思いまして ... 」

ジ ン  「マスター ... 」





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2012年04月07日

épisode / ジン来夢 -scene:3-






           :サンドリオンの店内 -----


ジ ン  「時を刻めない ... 妙に説得力のある言葉ですね。それに含蓄もあるし ... 」

マスター 「含蓄、ですか ...?」

ジ ン  「そう。
      いつも隣にいるはずの彼女がいないって事の大きさに、自分自身戸惑ってるん
      です...
      待っていて当たり前、言うことをきいて当たり前、気が利いて当たり前 ...
      彼女の在り方、存在自体が自分にとって当然のことだと思ってた ... 」

マスター 「ちょうどそれが時計の針のように ... 」

ジ ン  「そうですね。
      時計は長針と短針、二本あって当たり前か ... 」

マスター 「今度は少し、ペースが落ちましたね」

ジ ン  「(少し笑い)なかなかチェックが厳しいですね、マスターは」


          :男、グラスのカクテルをゆっくりと一口 -----


ジ ン  「今日のカクテルは、いつもより少しスィートな味わいですね」

マスター 「同じジンベースですが ... 」

ジ ン  「ということは、ライムの味がこうなのかな ... 」

マスター 「そうですね ... ジンベースのカクテルの中でも、どちらかといえば甘口の
      カクテルですから」

ジ ン  「でも光栄だな。いつもビフィーターをジンベースにしてもらって ... 」

マスター 「いいえ ... とんでもございません」

ジ ン  「もともとこのジンはロンドン生まれのブリティッシュ・ジンの代表格 ...
      このビフィーターを出されたら、それは本当に歓迎された証しだという、
      ジン党での語り草ですからね ... ジン愛飲家としては嬉しい限りですよ」

マスター 「ジンに纏わるお話、よくご存じなんですね」

ジ ン  「ジンには含蓄あるんです」

マスター 「そんなお客様ですので、ビフィーターがお似合いかと ... 」

ジ ン  「やっぱりマスターにはかなわないな」


          :男、ゆっくりと一口 -----

         SE:グラスの氷が揺れる -----


ジ ン  「(微かなため息)..... 」

マスター 「やはり今夜は不自然でしょうか ...?」

ジ ン  「どうもいけないな ... 」

マスター 「お見えにならないんですか? 今夜は」

ジ ン  「そうですね ... きっと来ないでしょう ...
      いや、ひょっとしたら、もう会えないかもかもしれない ... 」


          :男、左手の小指から指輪を外してカウンターへ落とす -----

         SE:小さな円を描いて廻る指輪 --- やがて止まる


ジ ン  「これを渡せないままに ... 」

マスター 「綺麗なシルバーリングですね」

ジ ン  「ボクの小指のサイズだけど、彼女へのプレゼントのつもりなんですよ ...
      ほんのこころばかりの ... 」
 
マスター 「それは ... どの指への贈り物なのでしょう ...?」

ジ ン  「 ... 彼女の左手の、薬指ですね ... 」





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2012年04月05日

épisode / ジン来夢 -scene:2-






           :サンドリオンの店内 -----


ジ ン   「そういえば初めてかな ... 一人でここへ来るのは ... 」

マスター 「確か、そのように思います ... 」

ジ ン   「 ... 実は、彼女が見つけたんですよね、このお店」

マスター 「そうでしたか ... 」

ジ ン  「知り合って間もない頃、二人の中間点がちょうどこの辺りになるんで
      どこかいい雰囲気の店はないものかって探してた矢先に、彼女が最初に
      目をつけて、ボクを引っ張って来たのがここだったんですよ」

マスター 「それで気に入って頂けたと?」

ジ ン   「そうですね ... いつも小粋なジャズが流れてて、物静かで綺麗な
       マスターがいる ... その上カクテルの味も逸品とくれば、誰だって
       気に入りますよ」

マスター 「恐れ入ります ... 」

ジ ン   「特に彼女の場合は、マスターが気に入ってましたね。
       女が惚れる女性だと ... マスターはハンサムウーマンだって ... 」

マスター 「女名利につきますね ... 」

ジ ン   「ボクも同感ですよ、彼女の意見には ... 素晴らしい女性だと」

マスター 「それは問題発言ですね ... 」

ジ ン   「そうなるのかな ... 」


           :男、おもむろにタバコをくわえ火を点ける -----

         SE:ジッポーの音 -----

           :男、ゆっくりと一口喫う -----


ジ ン   「 ... マスター」

マスター 「はい ... ?」

ジ ン   「ボクがこうしてここに一人でいると、やっぱり不自然ですかね ... 」

マスター 「と、おっしゃいますと?」

ジ ン   「自分でもよく分からないけど ... 何かこうぎこちないっていうか ...
       正直言うと落ち着かないんですよね ... 折角マスターともこうして
       話しが出来たのに、話題も乏しくって ... 」

マスター 「私はそうは感じませんが ... 」

ジ ン   「今の自分を例えれば、そうだな ... 短針のない時計みたいなものかな」

マスター 「短針のない時計?」

ジ ン   「(少し笑って)結局、不自然ってことなんですよね ... 」

マスター 「理解しやすいたとえですね」

ジ ン   「なんか俺、支離滅裂だな ... 」

マスター 「それは仕方のないことかも知れませんね、今のたとえでおっしゃるのなら」

ジ ン   「エッ?」

マスター 「長針だけの時計では ... 今を知る術はありませんから ... 」

ジ ン   「今を知る術 ...?」

マスター 「彼女がいなければ、時を刻めないのでは ... 」

ジ ン   「時間を刻めない ... 」





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