2011年11月22日

spin-off / 酒場小夜曲 -final-





         :バード・バーの店内 -----


男    「実は彼女 ... 音大の出身でね。ピアノが好きなんですよ .....
      例の映画も、テーマ曲のスキャットのバックに流れてたメロディが気に入ってて
      それで見に来てたらしいんです」

バーテン 「あれは確かに、素敵なメロディでしたね」

男    「彼女もよくそう言ってましたよ ... 大学で習うジャンルではないけど、いいものは
      いいんだって ... 彼女、ホントに音楽が好きみたいで ... 」

バーテン 「純粋で直向な方なんですね ... きっと」

男    「そうですね ... ボクが言うのも何だけど ... ホントに純粋な女性ですよ、彼女は」

バーテン 「今時、少なくないでしょうか ... そういう女性は」

男    「どうなんでしょうか ... その辺はよくわからないですが ... でもこれだけは
      はっきりと言えますね ... その純粋さゆえに、このボクも、そして彼女自身も
      悩み苦しむことがあるのだと ... 」

バーテン 「悩み苦しむ ...?」

男    「それはちょうど無邪気な子供が、時として残酷に見えるように ...
      彼女の純粋な気持ち自体が、そうさせてるんです ... 」

バーテン 「純粋な気持ちが、ですか ...? 」

男    「今彼女は、ある決心をしようとしてるんですよ ... 夢であった海外への留学を
      すべきかどうかを ... 」

バーテン 「海外留学 ... 」

男    「愛する音楽であるピアノを取るべきか ... それともこのボクを選ぶべきか ...
      彼女の誕生日である今夜は、その答えが出る夜でもあるんです ... 」

バーテン 「 ... そういうご事情でしたか ... 」

男    「 ... すみません ... ついついつまらない話をしてしまって ... 少し酔いが
      まわってきたみたいですね ... 」

バーテン 「そうかも知れませんね ... カクテル・ピンがもう6本も並んでますから ... 」

男    「6本のカクテル・ピンか ... 」


         :男、ふと腕時計を見て -----


男    「あと10分程で、1時 ... もうこんな時間か ... バーテンさん ... 」

バーテン 「はい」

男    「最後の1杯、いただけますか ... 」

バーテン 「大丈夫ですか ...?」

男    「エエ ... これで最後ですから ... これでね ... 」

バーテン 「かしこまりました ... 」


        SE:カクテルがステアされる音にまぎれて -----


男(Na)  もうすぐ午前1時 ... 彼女はもうこないだろう ... きっと -----


バーテン 「お待たせいたしました、どうぞ」


        SE:男の前に、カクテル・グラスが置かれる -----


男    「これで ... 7本目のカクテル・ピンか ... 」



バーテン(Na) 彼はそう言いながら ... 最後の7杯目のウォッカ・マティーニを静かに
      飲み干しました -----

      結局、その夜 ... 彼は24本の真っ赤なバラと、7本のカクテル・ピンを残して
      この店を後にされました ----

      そして残された7本のカクテル・ピンは、カウンターにこう並べられていました ...
      「F」「I」「N」と...


      それは古いフランス映画のラストシーンが「FIN」の綴りで終わるように ...
      ある「男と女」の結末を、物語っているようでした -----





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2011年11月20日

spin-off / 酒場小夜曲 -scene:3-






          :バード・バーの店内 -----


        SE:ジッポーでタバコに火を点ける男 -----
          :ゆっくりと一口喫い -----


男    「そういえばあの頃 ... こんなこともありました .....
      そう ... あれは確か、ボクの誕生日の1週間ほど前のことだったっけ ... 」


         :回想 -----

         :走る車の中で -----


彼女   「どうしたの? 今日は浮かない顔して」

男    「いや ... 大したことじゃないんだけどさ ... 」

彼女   「大したことじゃないわりには、さっきから溜め息ばっかりついててよ?」

男    「ン?  ウン ... 」

彼女   「そんな気のない返事してないで、さっさと話してごらんなさいよ ... どうしたのよ
      一体」

男    「 ... 覚えてるか? おととい三宮で買い物した時 ... ほら、オレがすごく気に入った
      ライターがあったろ?」

彼女   「ああ ... あのプレミアがついてたジッポーね」

男    「あの時は迷ってて、おまけに時間もなかったから、結局買わずに帰ったけど
      実は昨夜、手に入れるつもりであの店に行ったんだ ... そうしたら ... 」

彼女   「どうしたの?」

男    「もうなかったんだよ、あのジッポーが」

彼女   「それってもしかして、売れちゃったってこと?」

男    「そうなんだ ... どうやら一足違いだったらしくて ... 」

彼女   「そう ... それは残念ね ... それで?」

男    「それでって ... それがすべてさ ... ショックだったんだよな、オレにとってはその事が」

彼女   「何だ ... そんな事か ... それで元気なかったわけ?」


         SE:車の急ブレーキの音 -----


男    「(ムッとして)そんな事って ... そういう言い草はないだろう ... 第一、オレにすれば
      前から探してた代物で、やっと見つけたものだったんだから ... 」

彼女   「それならあの時迷ってないで、さっさと買えば良かったんじゃなくて? ... 」

男    「だからあの時は、思ってたよりも結構、値がはってたから ... それで」

彼女   「それで躊躇したんでしょ ...? なら自業自得じゃない ... 諦めなきゃ」

男    「(ムッとして)案外冷たいんだな ... もういい」

彼女   「やめてよ ... そういうので怒るのって ... 」

男    「そうさせたのは、誰のせいだよ」

彼女   「何だか私が、全部悪いみたいね ... 」

男    「自分の胸に聞いてみたら ...?」

彼女   「(怒って)もういい ... 私、帰る ...!」


         SE:車から降りる彼女 ----- ドアの閉まる音 -----


バーテン 「それで、どうされたんですか? その後 ... 」

男    「結局、その日のデートはそれで終り... 気になったボクが連絡したけど、彼女は電話に
      出てくれなかった ... でも」

バーテン 「でも?」

男    「それから3日後 ... 彼女から連絡があり、近くのカフェ・バーで会ったんです ...
      その時に彼女からもらったのが、これなんです」


         SE:カウンターに置かれるライター -----


バーテン 「ジッポーのライター ... 」

男    「少し早い誕生日プレゼントだけど ... これ以上、渡さないでいるのは辛いって言ってね」

彼女   「では彼女が ... ?」

男    「そう ... 彼女だったんですよ ... ボクより一足先に、ボクのためにこのジッポーを
      買ったのは ... 」

バーテン 「最高のパートナーですね ... お客様にとって、その方は」

男    「そうですね ... そう思ってますよ ... 今でもね」

バーテン 「いかがいたしましょう?... 5杯目ですが ... 」

男    「 ... お願いします」

バーテン 「かしこまりました ... 」


         SE:カクテルがステアされる音にまぎれて -----


男(Na)  午前0時40分 ... 彼女はまだ来ない -----





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spin-off / 酒場小夜曲 -scene:2-






         :バード・バーの店内 -----


男    「ところでバーテンさん、知ってます? 『男と女』って古い映画 ... 」

バーテン 「エエ、知っております ... 確かフランスの映画でしたよね ... 」

男    「スタントマンの夫を事故で失った女と、妻に自殺されたレーサーの男が
      お互いの子供がいる寄宿舎で知り合って恋に落ちるという ... 」

バーテン 「ストーリーは、それほど良く覚えてないんですが ... 
      ブルーやレッド、それにセピアカラーを使ったモノトーンの画面が印象的
      だったと、記憶しておりますが ... 」

男    「そう ... とても綺麗で、効果的な映像だったな、あれは ... 」

バーテン 「そういえば ... フランシス・レイの音楽が、その映像の雰囲気にマッチして
      ましたね ... 確か学生の頃に見た映画です」

男    「ボクはその映画を、2年前に観たんですよ ... 」

バーテン 「2年前 ...?」

男    「何気なしにフラリと入った映画館で、たまたまその『男と女』がやってた」

バーテン 「それが何か ..」

男    「そこで出会ったんですよ ... 彼女とね」

バーテン 「そうだったんですか ...」

男    「まさに男と女の出会いだった ... 」

バーテン 「では、思い出の映画になるんですね ... お客様にとってこの映画は」

男    「それはそうなんですが ... 実際のところは、そんな余裕なんかなかったですよ」

バーテン 「どうしてですか ...?」

男    「何しろ自分は、置き引きに間違われたんですから ... 」

バーテン 「置き引き?」

男    「映画の中ほどで彼女が席を立とうとした時、バッグがなくなったんですよ ... 
      それでボクが疑われた ... 」

バーテン 「他にそれらしい人はいなかったんでしょうか?」

男    「それが彼女のそばにはボク以外 ... 誰もいなかったんですよ」

バーテン 「状況は、最悪だったんですね ... 」

男    「それで当然、一つ空けて隣りに座ってたボクが犯人だと思い込んだわけで ... 」

バーテン 「そういう場合、そうなってしまいますね ... 」

男    「でもしばらくして、ホントの犯人はちゃんと捕まりましたけどね ... 」

バーテン 「それが知り合われたキッカケなんですね」

男    「彼女はボクが無実だとわかると、それまでの態度とは一転 ... 只々平謝りでしたね」

バーテン 「当然でしょうね ... 」

男    「お蔭でボクはあの映画の結末を、知らないんですよ ... 」

バーテン 「そうでしたか ... 」

男    「バーテンさんは、ホント覚えてないんですか? あの映画のストーリーを」

バーテン 「申し訳ありません ... 生憎と ... 」

男    「そうですか ...(カクテルを一口) 何故か近頃、気になりだしたんですよね
      ... 結末はどうなったんだろうかって」

バーテン 「時々、そういうことってありますよね ... ふと気になりだしてどうしようも
      なくなるってことが ... 」

男    「それほど大したことでもないのに ... ホント、不思議ですよね」

バーテン 「今度、機会があれば調べてみましょう ... そのストーリーの結末を」

男    「(少し笑って)それはどうも、ありがとうございます ... でもそれには及びませんよ
      何しろ今夜、その結末がわかるかもしれないんですから ... 」

バーテン 「それは ... どういう意味なんでしょうか?」

男    「 ... 彼女が教えてくれるはずなんですよ ... 彼女がね」

バーテン 「そういえば ... まだお見えになりませんね ... 」 

男    「そうですね ... 遅いですね ... それじゃその間に、お代わりでももらおうかな」

バーテン 「ペースがお早いんですね ... 」

男    「でも確か、2杯目でしたよね ...?」

バーテン 「いいえ、これでもう3杯目です ... それが証拠に、オーダーされた数の分だけ
      カクテル・ピンが3本そこに ... 」

男    「 ... ホントだ ... そうか ... 3杯目か ... 」


          SE:カクテルがステアされる音にまぎれて -----


男(Ne)  そろそろ午前0時30分 ... 彼女はまだ来ない -----





posted by マスターの知人 at 20:20 | Comment(0) | TrackBack(0) | ストーリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

spin-off / 酒場小夜曲 -scene:1-




バーテン(Na)それは ... とある夜の出来事でした -----


        SE:辺りに響く男の靴音 -----

          :時を告げる鐘の音が、微かに聞こえる -----

          :ふと立ち止まる男 -----


男    「もうこんな時間か ..... 少し遅刻だな ... 」


          :再び歩き出す男 -----


男    「バード・バー ... ここだ ... 」


        SE:ドアの開く音 -----


バーテン 「いらっしゃいませ ... 」

男    「(辺りを見て)まだか ... 」

バーテン 「お待ち合わせでしょうか ...?」

男    「エエ ... まあそんなところなんですが ... どうやら肝心の待ち人はまだのようです」

バーテン 「つい先程、カップルの方がお帰りになられたばかりでして、今はご覧のとおりです」

男    「これでも少し遅刻なんだけど ... そっか ... まだか ... 」

バーテン 「よろしければ、どうぞ ... 」

男    「どうも ... 」


         :男はカウンターに座り
          持っていたバラの花束を隣の席に置く -----


バーテン 「綺麗なバラの花束ですね ... 」

男    「エッ? ああ、これですか ... 彼女が好きな花なんですよ、これ」

バーテン 「 ... プレゼントされるんですか? 今夜」

男    「ええ、まあ ... 実は今日、彼女の誕生日なんです ... 」

バーテン 「そうでしたか ... それはおめでとうございます」

男    「もっとも ... 自分と知り合ってからは、2度目のバースディですけどね ... 」

バーテン 「お二人で過ごされる2度目のバースディですか ... いかがでしょう、シャンパンでも
      ご用意いたしましょうか?」

男    「いいえ ... それには及びません ... シャンパンが似合う夜になるかどうかは
      まだ判りませんから ... 」

バーテン 「 ... エッ ...?」

男    「それより ... ウォッカ・マティーニをいただけますか ... 」

バーテン 「ウォッカ・マティーニ ... 」

男    「その方が ... 今のボクにはピッタリだと思うんですよ ... 」

バーテン 「そうですか ... かしこまりました」


        SE:ミキシング・グラスにウォッカ(4/5)と
           ドライ・ベルモット(1/5)がステアされる -----


男    「このお店 ... 確か最近ですよね、オープンしたのは」

バーテン 「はい ... こちらでは半年足らずですが ... 」

男    「こちらではって ... じゃどこか他でやってたんですか? このお店」

バーテン 「はい ... 実は以前、海外の方で ...(グラスを置き)どうぞ」

男    「どうも ... (一口飲み)... そうなんですか ... そりゃ知らなかった ...
      こんな洒落たバーがあの辺りにあったなんて ... 」

バーテン 「もっとも私は ... この北野でオープンしてから、こちらにお世話になっている
      バーテンダーですが ... 」

男    「そうでしたか ... それにしても、雰囲気のあるいいお店ですよね、ここ
      小粋な4ビートが流れてて(一口飲み)... おまけにカクテルの味も最高だし」

バーテン 「お褒めに与り ... 光栄です」

男    「今夜の自分には ... ちょうどいいロケーションですね、このお店は」

バーテン 「ロケーション ...?」

男    「月の夜 ... 恋人の家の窓の下で、歌い奏でる楽曲のように ...
      すべての想いを彼女に告げるには、もってこいのシチュエーションですね ... 」

バーテン 「つまり ... 酒場でのセレナーデというところでしょうか ... 」

男    「ですね ... そういうことになりますね ... 」

バーテン 「そういえば今夜は ... 綺麗な月夜です ... 」


男(Ne)  午前0時15分 ... 彼女はまだ、来なかった -----





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