2011年08月14日

クリスタル ナイト -scene:4-






マスター(Na) 彼女のその表情に、曇りはありませんでした ... そして迷いも ...
      むしろ彼の方が、戸惑っておられたようで ...
      それは ... 彼女から聞かされたたった一言のセリフのせいで -----



        SE:雨の音 -----


         :男、おもむろにタバコを加え、火を点け -----
         :ゆっくりと、一口喫う -----


男(Na)  私がオーダーしたグラスのワインが空になる前に ...
      彼女はこの店から去って行った ...
      想い出のグラスと、少しばかりの笑顔を残して ...

      テーブルに置かれたグラスケース ...
      私は何気なしに中からグラスを取り出し ... 静かに見つめていた -----


マスター 「ウォーターフォードクリスタル ... アイルランドで開花した、芸術品とも謳われる
      ワイングラスですね ... 」

男    「 ... 確かに綺麗なグラスだ ... 」

マスター 「透明度の極めて高いクリスタルの質感と素材感 ...
      その卓越されたカッティング技術は、すべてハンドメイドで行なわれ、1つのグラスを
      完成するまでに、20人ものクラフトマンと呼ばれる人達が関わるものだと聞いております」

男    「そうか ... ガラス特有の冷たさや、無機質な表情がないのはそのせいかもしれないな ... 」

マスター 「そうですね ... 無数の光が満ちていて、その光の束は多彩な表情を持っています ...
      このグラスはそうした光のすべてを手にするために、デザインされたグラスだと云われて
      おります ... 」

男    「 ... 光を手にするか ... 」


         :男、手元のグラスを一気に飲み干す -----


マスター 「いかがいたしましょう ...?」

男    「エ ...?」

マスター 「グラスが少し淋しいと、私に囁いておりますが ... 」

男    「マスターも ... 相変わらずだね」

マスター 「恐れ入ります ... 」

男    「それじゃこの際、お言葉に甘えて ... 」

マスター 「かしこまりました ... 」


男(Na)  彼女が残していった「ウォーターフォードクリスタル」.....

      それは ... 緻密なダイヤカットに直線的なカットを組み合わせた、優美な中にもしなやかな
      強さを感じさせるデザインだった ...
      そしてそのクリスタルは云うまでもなくガラス製品でありながらも、その感触は不思議な
      までになめらかで、しっくりと馴染む肌触りだった .....

      だが ... よく見ればそれには、微かながらヒビが入っていた .....


女(Na) ----- 一度ヒビ割れたグラスは、元には戻らないのよね -----


男(Na)  一瞬、そんな彼女のセリフが胸をよぎった ..... 
      果たして彼女は、この事に気付いてたんだろうか -----

マスター 「お待たせいたしました ... どうぞ」

男    「どうも ... ン...? マスター、このワインは ... 」

マスター 「お帰りになられてから、お出しするようにと ... 」

男    「律子 ... 」



マスター(Na) 今宵 ... 彼女が口にされていた「ダム・ロゼ・ダンジュ」.....
      それは貴婦人という意味を持つロゼ・ワインでした -----

      そして ... そのワインを煽るお客様のグラスには ...
      うっすらとワインの涙が広がっておりました -----





- Recommended menus 1 -
- Recommended menus 2 -
posted by マスターの知人 at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | ストーリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
blogramで人気ブログを分析 にほんブログ村 小説ブログ 脚本・シナリオへ
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。