2011年08月18日

canari 〜 カナリア 〜 -scene:3-






         :サンドリオンの店内 -----



女    「どうしてここに ...?」

男    「店に行ったら、ここにいるって教えてくれたんだ」

女    「そうでしたか ... 」

マスター 「ようこそ、いらっしゃいませ ... ご注文の方は、いかがいたしましょうか?」

男    「そうだな ... じゃ、ダイキリを」

マスター 「かしこまりました ... 」


        SE:ホワイト・ラム(3/4)とライム・ジュース(1/4)
           砂糖(1tsp)が入れられ、シェークされる -----


男    「相変わらず、歌ってないんだ ... 」

女    「 ... エエ ... 」

男    「かれこれ1年だろう? ステージに立たなくなって」

女    「そうですね ... 」

男    「オーナーが嘆いてたよ ... 店の格が落ちたってね」

女    「そんなことは ... 」

男    「中々見つからないみたいだよ、君ほどの歌い手が... 」

女    「私ぐらいのシンガーなら、ざらにいますよ ... 」

男    「そうかな ... 僕にはそう思えないけどな ... 」

マスター 「お待たせいたしました ... どうぞ(グラスを置く)」

男    「ありがとう ...(一口飲む)」

女    「今日はまたどうしてここへ?」

男    「来ちゃいけなかったかな ...? それとも約束してなかったから?」

女    「別にそういう意味じゃなくて ... 」

男    「それならいちいち理由を言わなくてもいいだろう ...?」

女    「それはそうですけど ... でも、どうしてかなと思って ... 」

男    「気になるなら言おうか ... ズバリ、君を誘惑に来たんだ ... 」

女    「誘惑 ...? 私を?」

男    「そう、誘惑 ... 」

女    「それって、どういう意味ですか ...?」

男    「男が女を目の前にして、誘惑というセリフを口にしたら ... 答えはひとつだろう?」

女    「ミタさん ... 」

男    「(笑って)冗談だよ ... ホントのところは、君にステージで歌ってもらおうと思って
      交渉に来たんだ ... 」

女    「私に歌を ... ?」

男    「実はこの秋に、神戸で大掛かりなジャム・セッションがあるんだ ...
      もちろん海外からもそうそうたる顔ぶれのミュージシャンが参加してね。
      それで僕の方にも声がかかってきた訳なんだけど ... 
      僕としてはそのステージで、どうしても君に歌ってもらいたいんだ ... 僕のピアノを
      バックにして ... 」

女    「ミタさんのピアノをバックに ... 」

マスター 「素敵なお話じゃないでしょうか ... マリさん ... 」

女    「マスター ... 」

男    「どうだろう ...? 歌ってくれないか?」

マスター 「マリさん ... 」

女    「でも私は ... 」

男    「これはある意味、君にとってもチャンスだと思うんだ ... 
      そう思いませんか? マスター」

マスター 「そうですね ... 二度とないチャンスかもしれませんね ... 」

男    「どうだい? この機会に、君の実力を試してみたら ... 」

女    「でも ... 私は ... 」

男    「この際、つまらない感傷は捨てた方がいいと思うよ、マリさん」

女    「 ... つまらない、感傷 ...?」

男    「彼のことなら、以前にオーナーから聞いたよ... それが原因で君が歌わなくなったって
      ことも ... でもそれとこれとは話が別だよ。
      これは君自身が一人のシンガーとして考えるべきことなんだよ」

女    「(ポツリと)つまらない感傷 ... 」

マスター 「マリさん ... 」

女    「ミタさん ... 私 ... 」





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2011年08月17日

canari 〜 カナリア 〜 -scene:2-






        SE:サンドリオン店内 -----

         :バーテンと女性客がいる -----


女    「(酔っている)お代わり、くださる?」

バーテン 「今夜はもう、その辺にされては ... 」

女    「どうして? 私はまだ飲み足りないんだけど ...?」

バーテン 「でも、次でテン・カウントですよ ... バカルディのお代わりが」

女    「じゃ、今夜はどこまでカウント出来るか、挑戦してみるわ」

バーテン 「マリさん ... 」

マスター 「そのままだと ... 大切な喉、壊しますよ、マリさん」

女    「何だ ... マスター、居たんだ ... 」

マスター 「今日は少し寄り道をしてたものですから ... こんな時簡になってしまって」

女    「このパーテンさんがいて、マスターも少しは助かるね」

バーテン 「私はパーテンではなく、バーテンです」

女    「あら、そうだった? ごめんなさい」

マスター 「(少し笑って)マリさんったら ... 」

女    「とにかくお代わり頂戴よ、パーテンさん、早いとこね」

バーテン 「(小声で)まったく ... 困った人だな ... 」

女    「そういうセリフってさ、お客に言うようなことじゃないよね、普通」

バーテン 「あ ... 聞こえましたか?」

女    「あなたは本当に、パーテンね ... 」

バーテン 「お客さんがそういうこと言いますか、普通」

女    「フーン、口だけは、一人前なんだ ... 」

バーテン 「どういう意味なんでしょうか? それは」

マスター 「そろそろそれぐらいにして ... 」

バーテン 「でもマスター ... 」

マスター 「マリさんのカクテルは私が作りますから、あなたはあちらでグラスを磨いてくださる
      かしら ... 」

バーテン 「 ... はい、承知しました ... 」   

女    「がんばってね ... パーテンさん」

バーテン 「ごゆっくりどうぞ、オキャクサマ」

女    「それはどうも、アリガトウ ... 」

マスター 「バカルディでよろしかったでしょうか? マリさん」

女    「エエ、お願いします ... 」

マスター 「かしこまりました ... 」


        SE:シェーカーにバカルディ・ホワイト・ラム(3/4)と
          ライム・ジュース(1/4)、グレナディン・シロップ(1tsp)が
          入れられ、シェークされる -----


女    「やっぱりマスターのシェーキングは、いい音がするわ ... 」

マスター 「お褒め頂いても、これが最後のオーダーですよ、マリさん」

女    「え ...? どうしてなの? マスター」

マスター 「この店では ... お客様にお出しするカクテル・カウントは、お一人様ナイン・
      ハーフまでと、決まっておりますので ... 」

女    「? ... どうしてそうなるわけ?」

マスター 「ナイン・ハーフ以上、口にされるカクテルは ... それはもうカクテルでは
      ありませんから ... 」

女    「それじゃ一体何なの ... ?」

マスター 「ただのアルコールです ... 」

女    「ただの、アルコール ... 」

マスター 「カクテルはその名前どおり、様々なスピリッツのハーモニーが奏でる、微妙な味わいを
      楽しんで頂く飲み物です ...
      ただ単に、酔うためだけに作られるものではありませんから ... 」

女    「マスター ... 」

マスター 「どうぞ ... 」


         :マスター、女の前にグラスを置く -----


女    「そうね ... そうなんだ ... 」

マスター 「今夜のカナリアは ... 少しお行儀が悪いようですね ... 」

女    「マスター ... 」

マスター 「あまり無理はいけませんよ ... マリさん ... 」

女    「マスター ... 実は私 ... 」


        SE:店のドアが開く -----


バーテン 「いらっしゃいませ」

マスター 「いらっしゃいませ、ようこそ ... 」

男    「 ... 捜したよ、マリさん ... 」

女    「ミタさん ...?!」





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2011年08月16日

canari 〜 カナリア 〜 -scene:1-







女(Na)  それはちょうど、1年前の事だった -----


        SE:ライブハウスの雑踏 -----

         :ステージが終わり、客が拍手をしている -----


男    「お疲れ ... 最後のブルーギター、ずいぶんノッてたな。最高だったよ」

女    「それはどうも ... あなたにそう云われれば、本望よ ... 」

男    「どういう意味かな? それは」

女    「ジャズピアニストの天才に褒められれば、歌い手冥利に尽きるってこと」

男    「何だ ... 歌だけかと思ったら、お世辞も上手いんだな、お前は」

女    「 ... わかってないな ... 私はお世辞とお節介は嫌いなのよ、覚えておいてね」

男    「フーン、そうか ... なるほど ... 」

女    「それはそうと ... オーナーに聞いたけど、あなたしばらくステージに立たないそうだけど
      ホントなの?」

男    「 ... ああ」

女    「どうしてまた?」

男    「ウン ... ちょっとあってね ... 」

女    「え ...?」

男    「大したことじゃないんだ ... ただ ... 」

女    「ただ、どうしたの?」

男    「 ... しばらく神戸を離れようかと思ってるんだ ... 」

女    「神戸を離れるって ... どこ行くつもり?」

男    「 ... ニューヨークへ ... 」

女    「ニューヨーク ... ?!」

男    「 ... あっちで弾いてみたいんだ ... ピアノを」

女    「そう ... そうなんだ ... 」

男    「今しかないと思って ... それで決めたんだ ... 」

女    「 ... でも急なんだ ... 前以てひと言云ってくれればよかったのに ... 」

男    「確かにそうだな ... 」

女    「冷たいな ... 案外冷たい人なんだ、あなたは」

男    「そんなつもりはないんだけど ... 時々そう云われるな ... 」

女    「にしても、いいな ... ニューヨークか ... 」

男    「(独り言)今しか行けないんだ ... 今しか ... 」

女    「ねえ ... 」

男    「ン?」

女    「一緒についてっていいかな ... そのニューヨークに」

男    「エッ ...?」

女    「私も歌ってみたいの ... 本場の場所で本場の歌を」

男    「マリ ... 」

女    「ね、いいでしょ? 一人より二人、旅は道連れって言うじゃない、だから」

男    「駄目だ ... 一緒には行けない」

女    「どうして ... 」

男    「どうしてもだ ... 悪いが邪魔をしないでほしいんだ ... 」

女    「邪魔? 邪魔ってどいういこと? それって少し酷いんじゃなくて?」

男    「気に障ったのなら謝る ... だけどこれは俺の夢だったんだ ... 
      他に何の欲もない男の、たった一つの大事な夢だったんだ ... だから俺一人で
      行きたいんだ ... 俺一人で」

女    「(ポツリと)... だったら ... 私の夢はどうなるの ... 」

男    「お前の夢 ...?」

女    「ううん ... 何でもない ...(溜め息をつき)わかった ... 邪魔しないわ。
      男の夢に女がのこのこ、しゃしゃり出てもしかたないものね ... 」

男    「 ... 聞き分けのいい女は、きっと幸せになれるよ ... 」

女    「そうかな ... 聞き分けのいい女は、損するだけだと思うわ ... 」

男    「 ... 1年経ったら、帰ってくるよ ... 」

女    「1年 ... ホントに1年?」

男    「ああ、ホントだ ... 約束するよ」

女    「 ... なら、私も ... その間、旅に出るわ ... 」

男    「旅に ... ?」

女    「そうよ ... 私なりの、心の旅にね ... 」

男    「マリ ... 」


        SE:飛行機の離陸音 -----


女(Na)  それから間もなく ... 彼はニューヨークへと旅立っていった -----





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2011年08月15日

クリスタル ナイト -final-





マスター  今宵も「バール サンドリオン」へお越しいただき、誠にありがとうございました...

      ではここで... 今回登場致しましたワインを、改めてご紹介させて頂きます...

      ワインの名前は、「ダム・ロゼ・ダンジュ/Dame Rose d'Anjou」.....
      その名のごとく「ダム」とは貴婦人という意味を持ち、格調と気高さを持ち合わせた
      気品のあるロゼであることを表わし、嫌味のないラズベリーや、黒スグリの香りに似た
      後味さわやかなフルーツが、全体を飲みやすくまとめております ...

      そもそも「ロゼ」とはフランス語で「バラ色」という意味で、少しオレンジがかった
      濃いピンクを指し、ロゼワインには「玉ねぎの皮のような」と表現される明るい色から
      「洗い朱」、紫がかった濃いピンクなど、様々な色合いのものがございます ...

      この「ダム・ロゼ・ダンジュ」場合は、貴婦人を意味するサーモン色にその身を染め
      ロワール地方でも代表格のワインとされておりますが、この他にも「ロゼ・ダンジュー
      (アンジュー・ロゼ)」は、明るいピンクでほんのりと甘く、カベルネ・フラン種で
      作られる辛口のカベルネ・ダンジューや、コード・デュ・ローヌのタヴェル(Tavel)
      と呼ばれる濃いオレンジがかったピンクの辛口のものがあり、ロゼ・ワインの中では
      コクがあるという銘柄もございます ....

      最後に ...
      今夜の出来事でキーワードとなった「ワインの涙」...
      これは熟成の行き届いたワインをグラスに注いで傾けてみると、グラスの内壁を伝わる
      ワインが綺麗なラインとなって流れ落ちます ...
      これは「ワインの涙」もしくは「ワインの脚」と呼ばれる現象で、ワインが涙を流して
      いれば、それは熟成が行き届いてる良質の証しといわれております ...

      つまり ...
      そのワインが涙を流せば流すほど、それは熟成していて良質のものと判断されるのです...

      それは ... 例えるなら人も ...
      涙を流せば流すほどに、憂い深く生きていける証しになるのではないかと ...
      そんな風に感じるのは、わたくしだけでしょうか ----

      それでは ...
      またのお越しを心よりお待ちしております .....

      ありがとうございました -----





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2011年08月14日

クリスタル ナイト -scene:4-






マスター(Na) 彼女のその表情に、曇りはありませんでした ... そして迷いも ...
      むしろ彼の方が、戸惑っておられたようで ...
      それは ... 彼女から聞かされたたった一言のセリフのせいで -----



        SE:雨の音 -----


         :男、おもむろにタバコを加え、火を点け -----
         :ゆっくりと、一口喫う -----


男(Na)  私がオーダーしたグラスのワインが空になる前に ...
      彼女はこの店から去って行った ...
      想い出のグラスと、少しばかりの笑顔を残して ...

      テーブルに置かれたグラスケース ...
      私は何気なしに中からグラスを取り出し ... 静かに見つめていた -----


マスター 「ウォーターフォードクリスタル ... アイルランドで開花した、芸術品とも謳われる
      ワイングラスですね ... 」

男    「 ... 確かに綺麗なグラスだ ... 」

マスター 「透明度の極めて高いクリスタルの質感と素材感 ...
      その卓越されたカッティング技術は、すべてハンドメイドで行なわれ、1つのグラスを
      完成するまでに、20人ものクラフトマンと呼ばれる人達が関わるものだと聞いております」

男    「そうか ... ガラス特有の冷たさや、無機質な表情がないのはそのせいかもしれないな ... 」

マスター 「そうですね ... 無数の光が満ちていて、その光の束は多彩な表情を持っています ...
      このグラスはそうした光のすべてを手にするために、デザインされたグラスだと云われて
      おります ... 」

男    「 ... 光を手にするか ... 」


         :男、手元のグラスを一気に飲み干す -----


マスター 「いかがいたしましょう ...?」

男    「エ ...?」

マスター 「グラスが少し淋しいと、私に囁いておりますが ... 」

男    「マスターも ... 相変わらずだね」

マスター 「恐れ入ります ... 」

男    「それじゃこの際、お言葉に甘えて ... 」

マスター 「かしこまりました ... 」


男(Na)  彼女が残していった「ウォーターフォードクリスタル」.....

      それは ... 緻密なダイヤカットに直線的なカットを組み合わせた、優美な中にもしなやかな
      強さを感じさせるデザインだった ...
      そしてそのクリスタルは云うまでもなくガラス製品でありながらも、その感触は不思議な
      までになめらかで、しっくりと馴染む肌触りだった .....

      だが ... よく見ればそれには、微かながらヒビが入っていた .....


女(Na) ----- 一度ヒビ割れたグラスは、元には戻らないのよね -----


男(Na)  一瞬、そんな彼女のセリフが胸をよぎった ..... 
      果たして彼女は、この事に気付いてたんだろうか -----

マスター 「お待たせいたしました ... どうぞ」

男    「どうも ... ン...? マスター、このワインは ... 」

マスター 「お帰りになられてから、お出しするようにと ... 」

男    「律子 ... 」



マスター(Na) 今宵 ... 彼女が口にされていた「ダム・ロゼ・ダンジュ」.....
      それは貴婦人という意味を持つロゼ・ワインでした -----

      そして ... そのワインを煽るお客様のグラスには ...
      うっすらとワインの涙が広がっておりました -----





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