2011年08月23日

止まり木 / 第三夜 -scene:3-






マスター(Na)止まり木とは.....
     それは流離い飛ぶ鳥の、翼休めし静寂の場-----

     また止まり木とは.....
     それはつかの間の微睡みに、刹那の夢見し安逸の場-----

     そして止まり木とは.....
     それは夜の帳に覆われた街に、ひっそりと佇む静穏の酒場-----

     さて.....  今宵、その止まり木に訪れし方は-----


         :サンドリオンの店内 -----


男    「時を刻めないか ... 説得力のある言葉ですね ... 」

マスター 「そう思われますか ...?」

男    「現に今 ...
      いつも隣りにいるはずの彼女がいないってことに、自分自身戸惑ってますから ...
      待っていて当たり前、言うことをきいて当たり前、気が利いて当たり前 ...
      彼女の在り方、存在自体が自分にとって当然のことだと思ってた ... 」

マスター 「ちょうどそれが、時計の針のように ... 」

男    「そうですね ... 時計の針は長針と短針、2本あって当たり前か ... 」


         :間 -----


マスター 「今度は ... ペースが少し、落ちましたね ... 」

男    「 ... なかなかチェックが厳しいですね、マスターは」


         :男、グラスのカクテルをゆっくりと一口 -----


男    「 ... にしても ... 今夜のカクテルのジンは、いつもより少しスィートな感じですね」

マスター 「いいえ ... 同じジンベースですが ... 」

男    「ということは、ジン・ライムの味がこうなのかな ... 」

マスター 「そうですね ... ジンベースのカクテルの中でも、どちらかといえば甘口のカクテル
      ですから」

男    「それにしても光栄だな ... いつもビーフィーターをジンベースにしてもらってるん
      だから」

マスター 「と、申されますと ...?」

男    「もともとこのジンはロンドン生まれのブリティッシュ・ジンの代表格 ...
      このビーフィーターを出されたら、それは本当に歓迎された証拠だという、ジン党での
      語り草ですからね ... ジン愛好家としては嬉しい限りですよ」

マスター 「よくご存知なんですね ... 」

男    「こと、ジンには拘りがあるんです」

マスター 「 ... やはりそういうお客様ではないかとお見受けし ... ビーフィーターを使わせて
      頂いておりました ... 」

男    「やっぱりマスターにはかなわないな ...」


         :男、グラスのカクテルをゆっくりと一口 -----

        SE:グラスの氷が揺れる -----


男    「(微かな溜め息)フー ... 」

マスター 「やはり今夜は、不自然でしょうか ...?」

男    「 ... どうもいけませんね ... 」

マスター 「失礼ですが ... いらっしゃらないんでしょうか? 今夜は」

男    「そうですね ... 多分、来ないでしょうね ...
      いや、ひょっとしたらもう二度と会えないかもしれない ... 」

マスター 「はい ...?」


         :男、左手の小指から指輪を外してカウンターへ -----

         :小さな円を描いて転がる指輪 ----- やがて止まる -----


マスター 「綺麗な銀の指輪ですね」

男    「ボクの小指のサイズだけど ... 彼女に渡すつもりだったんです ... 」

マスター 「それは ... もしかして ... 」

男    「 ... 彼女の薬指への、プレゼントです ... 」





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2011年08月22日

止まり木 / 第三夜 -scene:2-






マスター(Na)止まり木とは.....
     それは流離い飛ぶ鳥の、翼休めし静寂の場-----

     また止まり木とは.....
     それはつかの間の微睡みに、刹那の夢見し安逸の場-----

     そして止まり木とは.....
     それは夜の帳に覆われた街に、ひっそりと佇む静穏の酒場-----

     さて.....  今宵、その止まり木に訪れし方は-----


         :サンドリオンの店内 -----


男    「そういえば初めてだな ... 一人でここへ来るのは ... 」

マスター 「確か、そのように記憶しております」

男    「 ... 実はね、彼女が見つけたんですよ、ここは」

マスター 「そうでしたか ... 」

男    「知り合って間もない頃、二人の中間地点がちょうどこの辺りになるんで、どこか
      いい雰囲気の店がないかって探し始めた矢先に、彼女がここを最初に見つけて
      ボクを連れて来たってわけで ... 」

マスター 「それで気に入って頂けたと?」

男    「気に入るもなにも ... 小粋なジャズが流れてて、物静かで綺麗なマスターがいる ...
      その上カクテルの味も逸品となれば、誰だって気に入るでしょ、普通」

マスター 「恐れ入ります ... それは彼女も同じご意見だったのでしょうか ...?」


男    「それはもう ... 特に彼女の場合は、マスターが気に入ったようです。
      ... 女が惚れる女 ... マスターはハンサムウーマンだって」

マスター 「ありがとうございます ... 光栄ですね ... 」

男    「ボクも同感ですよ、その意見には。すばらしい女性だと思いますね、マスターは」

マスター 「それは少し、問題発言ですね」

男    「(少し笑って)そうなるかな ... 」


         :男、おもむろにタバコをくわえて火を点ける -----
         :ライターの音 -----
         :ゆっくりと、一口吸う -----


男    「 ... マスター。ボクがこうしてここに一人でいると、やっぱり不自然ですかね ... 」

マスター 「 ... と、おっしゃいますと?」

男    「自分でもよくわからないんだけど、何かこうぎこちなくて ...
      正直言って落ち着かないんですよね ... せっかくマスターともこうして話が出来たのに
      何だか話題も乏しくって ... 」

マスター 「そうは感じませんが ... 」

男    「今の自分を例えれば、そうだな ... 短針のない時計みたいなものかな ... 」

マスター 「短針のない時計?」

男    「(少し笑って)フフ ... 結局、不自然ってことなんですよね ... 」

マスター 「理解しやすい例えですね」

男    「何か今のオレ、支離滅裂だなァ ... 」

マスター 「仕方のないことかも知れませんね ... 今の例えでおっしゃるのなら ... 」

男    「エ ...?」

マスター 「長針だけでは、今を知る術がないのですから ... 」

男    「今を知る術 ... ?」

マスター 「 ... 時を刻めない、ということですから ... 」





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2011年08月21日

止まり木 / 第三夜 -scene:1-






マスター(Na)止まり木とは.....
     それは流離い飛ぶ鳥の、翼休めし静寂の場-----

     また止まり木とは.....
     それはつかの間の微睡みに、刹那の夢見し安逸の場-----

     そして止まり木とは.....
     それは夜の帳に覆われた街に、ひっそりと佇む静穏の酒場-----

     さて.....  今宵、その止まり木に訪れし方は-----


         :サンドリオンの店内 -----

        SE:グラスに氷が入れられる -----
         :カクテルベースが注がれステアされる音 -----
         :ライムが添えられてグラスが置かれる -----


マスター 「お待たせいたしました ... どうぞ」

男    「どうも ... 」


         :男は少し溜め息をつき、ゆっくりと飲み干す -----

        SE:グラスに響く氷の音 -----


男    「(再び溜め息)フゥーッ ... すいません、もう一杯ください ... 」


         :グラスを置く -----


マスター 「今夜はやけに、ペースがお早いんですね ... 」

男    「エッ?」

マスター 「いつもですと一口目は、ゆっくりと味わっていらっしゃったので ... 」

男    「ええ、まあ ... でもよく知ってますね、そんなこと」

マスター 「決まってジン・ベースのカクテルをオーダーされますので ... 」

男    「 ... 週に一度、来るか来ないかのペースなのに ... すごいですね。 でも、他にも
      いるでしょ? そういう人 ... 」

マスター 「確かにそうですね ... でも ... 」

男    「でも、何です?」

マスター 「お二人でお見えになり、しかもいつも同じオーダーをされる方というのは ...
      そういらっしゃるものではございません ... 」

男    「なるほどね ...(微かに笑って)フッ ... そうかもしれないな ... 」


        SE:グラスに氷が入れられる -----
         :カクテルベースが注がれステアされる音 -----
         :ライムが添えられてグラスが置かれる -----


マスター 「どうぞ ... 」

男    「確かに ... いつもと違うよな ... 」


         :男、グラスを持ちながら少し揺らす -----


男    「 ... それじゃ、マスター ... リクエストにお応えして、今度はいつもの感じで
      ゆっくりと味わってみますよ ... 」


        SE:男、ゆっくりと、一口 -----


マスター 「 ... そうですね ... いつもなら、そんな感じでしょうか ... 」

男    「いつもなら ...?」

マスター 「 ... でもやはり ... 少し違いますね、今夜は」

男    「エ ...?」

マスター 「 ... 何と言いましても ... グラスがお一つですから ... 」





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2011年08月20日

canari 〜 カナリア 〜 -final-





マスター  今宵も「バール サンドリオン」へお越しいただき、誠にありがとう
      ございました...

      ではここで... 今回登場致しましたカクテルを、改めてご紹介させて
      頂きます...

      まず始めに、ホワイト・ラムをベースにした、カクテルの古典的名作と
      言われる「ダイキリ/Daiquiri」.....
      無数のレシピが存在し、それに関する議論も尽きることなく、歴史上の
      逸話も数多いカクテルとして有名です。

      そしてその「ダイキリ」のバリエーションカクテルして名高い「バカルディ/
      Bacard」、「ダイキリ」と同じくホワイト・ラムをベースにしたカクテルで
      ありながら、バカルディ社のホワイト・ラムとグレナデン・シロップを
      使うことによって、その存在が認められるカクテルで、その昔 ...
      ライト・ラム流行の波に乗り、世界中でその人気を獲得したと云われており
      ます。
      その味は限りなく「ダイキリ」でありながらも、グラスを赤く染めることで
      「バカルディ」と呼ばれる、拘りのカクテルなのです -----

      さてそのレシピは .....
      「ダイキリ」の場合、ホワイト・ラム(3/4)とライム・ジュース(1/4)
      砂糖(1tsp)をシェークすれば出来上がりです。

      また「バカルディ」の場合は「ダイキリ」と同じ比率の内容でバカルディ社の
      ホワイト・ラムを使用し、砂糖の代わりにグレナデン・シロップ(1tsp)を
      入れてシェークすれば完成です ...

      いずれもアルコール度の強いカクテルでありながら、ミディアムな甘さの
      味わいを持ち、ラムを使ったカクテルの傑作と呼べるものです ...

      「ダイキリ」はあくまでも「ダイキリ」であり、その「ダイキリ」を
      バカルディ社のラムと赤いグレナデン・シロップをしようすることによって
      「バカルディ」と呼ばせる -----
      このカクテルの拘りに、皆様は何を感じられますでしょうか ...?
      是非一度、この拘りを味わられてみてください .....
      

      それでは ...
      またのお越しを心よりお待ちしております .....

      ありがとうございました -----





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2011年08月19日

canari 〜 カナリア 〜 -scene:4-






         :サンドリオンの店内 -----



女    「何となくだけど ... マスターの云ってたナイン・ハーフの意味がわかるような気が
      する ... 」

マスター 「マリさん ... 」

女    「カウント・テンまでいっちゃうと、ノック・アウトだもんね ... そこで全部終わり
      だもの ... 」

マスター 「本当にこれでいいんですか ...?」

女    「あ、そうだ、マスター。さっき言いかけて途中になっちゃったことだけど ... 」

マスター 「 ... エッ?」

女    「ほら、ミタさんが入ってくる前に ... 私、マスターに何か言おうとしてたじゃない」

マスター 「そういえば、確か ... 」

女    「それが私 ... 忘れちゃったのよ ... ごめんなさい」

マスター 「マリさん ... 」

女    「何言おうとしてたのか、思い出せないのよ ... 私、もう駄目ね ... 今夜は」

バーテン 「マスター、終わりました ... 」

マスター 「ありがとう ... 」

女    「ご苦労様、バーテンさん ... さっきはごめんなさいね ... 」

バーテン 「いいえ、とんでもありません ... 私こそ、失礼しました ... 」

女    「今度きた時は、可愛いカナリアでいるから ... 今夜のことは許してね」

バーテン 「かしこまりました ... その時をお待ちしております」

女    「それじゃ私、今夜はこれで帰ります、マスター ... おやすみなさい ... 」

バーテン 「ありがとうございました ... 」


         :女、店を出ようとする -----


マスター 「マリさん ... 」

女    「エッ?」

マスター 「さっきのお話の返事は ... 本当にあれでよかったんですか ...?」

女    「 ... エエ ... あれでいいのよ、あれで ... 」

マスター 「そうなんですか ... 」

女    「マスター ... 」

マスター 「 ... はい」

女    「他の人から見ればつまらない感傷でも ... その人にとっては大事なことかも
      知れないじゃない ... そう思わない? マスター ... 」

マスター 「 ... そうですね ... 確かにそうです」

女    「 ... そういうことよ ... それじゃ、おやすみなさい ... 」

マスター 「ありがとうございました ... おやすみなさい ... 」


        SE:女、店を出て行く -----

          :ドアの閉まる音 -----


バーテン 「少し変わったシンガーですね ... マリさんって人は ... 」

マスター 「どうしてそう?」

バーテン 「せっかくのチャンスだったのに ... 」

マスター 「それは ... 彼女がシンガーである前に、一人の女性だからでしょう ... 」

バーテン 「一人の、女性 ... 」

マスター 「ちょうど ... バカルディがバカルディ・ラムに拘ることで、ダイキリではない
       ことを主張したように ... 」

バーテン 「バカルディがバカルディであるための主張 ... 」

マスター 「彼女もまた ... 自分が女であることを主張したのよ ... 」


        SE:辺りに響く、ヒールの音にまぎれて -----


          :回想 -----


マリ   「今度あなたが私の目の前に現れるまで ... 私、歌を忘れるわ ...
      (少し笑って)そう ... 私は、歌を忘れたカナリアになるのよ ... 」

男    「お前 ... 」


女(Na)  あの日から ... 愛しい人のために歌うカナリアは、歌を忘れた -----
       あれからちょうど1年 ... 彼はまだ、帰って来ない -----




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