2011年07月12日

止まり木 / 第二夜 -scene:2-




静かに流れていく時間(とき)の中で...
人は様々な思いに馳せる-----

時にそれは...
セピア色に包まれた出会いであったり...
涙色に染まる別れであったり...
そしてまたそれは...
約束された再会であったり...

すべては記憶という名の眩い欠片-----

今宵、この店に集りし鳥たちは
止まり木の下、どんな時間(とき)を刻むのか-----



男    「随分とご無沙汰だったね、マスター」   

マスター 「本当にお久しぶりです... お変わりございませんでしたか?

男    「ああ、そうだね... 別にこれといって変わったところはないんだが...
      強いて言えば、頭の白いものが増えたことぐらいかな... 」

マスター 「そういえば... あれからもう5年程になりますでしょうか... 」

男    「そうだな... そんなもんだろうね... 」

マスター 「早いものですね... 時間の流れというものは... 」

男    「そうかも知れんな... それよりマスター」

マスター 「はい...?」

男    「私の注文を聞いてくれるかな?」

マスター 「これは申し訳ございません... お久しぶりにお顔を拝見したものですから...
       失礼致しました... 」

男    「(少し笑い)いやいや、一向に構わんよ... むしろ私にすれば嬉しかったぐらいだ。
      よく覚えててくれたもんだ、この私を... 」

マスター 「先生... 」

男    「それじゃ早速だが、久しぶりにアレをもらおうかな... 」

マスター 「はい... かしこまりました... 」


氷の入ったオールド・ファッショングラスに
それが注がれ、軽くステアされる-----


男    「そうか... もう5年か... 」

マスター 「お待たせ致しました... そうぞ」


男の前に、そっとグラスが置かれる-----


男    「どうもありがとう... 
      (一口飲み、ゆっくりと味わい)ああ... この味、久しぶりだな... こいつとも
      ご無沙汰だったからな... 」

マスター 「口にされてなかったんですか... ドランブイを... 」

男    「そう... 何故だかきっぱりとね... 」

マスター 「そうでしたか... 」

男    「それにしてもなんだな... 場所は変わっても、店の雰囲気は同じなんだな...
      前と同じように時間を過ごせる... 」

マスター 「それにしましても、よくこの場所がお分りになられましたね」

男    「いや、私も最初は戸惑ったよ。だがよくよく考えれば無理もない事だ...
      5年という歳月の中では色んなことがあったからね... 
      でも、なぁーに... 昔の知り合いに頼んで調べてもらえば、造作もないことだったよ」

マスター 「痛み入ります... わざわざお越し頂き、ありがとうございます... 」

男    「いやいや... そうまでして来たのには、他にもそれなりの理由があったからな... 」

マスター 「それなりの理由...?」

男    「実は今夜ここで、人と会う約束になってるんだ... そう... ちょうどその彼とも
      あれ以来だから、5年ぶりになるんだ... 」

マスター 「5年ぶりの再会ですか... 」

男    「そうなんだ... それでここを、その再会の場所にさせてもらったんだ... 」

マスター 「それは光栄です... それでしたら今夜はごゆっくりとお過ごしください... 先生」

男    「... 悪いんだがマスター、その先生っていうのは止してくれないか...
      私はもうそんな風に呼ばれる立場でも何でもない、ただの男なんだから... 」

マスター 「左様でございましたね... 失礼致しました... 楠木様... 」

女    「楠木...?」

男    「そう... それでお願いしたいな... 」

女    「楠木って... まさか... ひょっとして... (男に)あのう... 失礼ですが... 」

男    「ン? 何でしょう...?」

女    「もしかしてその昔、鬼検事と呼ばれたあの楠木真吾さんでしょうか...?」

男    「... だとしたら、何か...?」

女    「やっぱりそうでしたか... お顔は幾度かお見かけしたことがあったもので... 」

男    「そうでしたか... それはどうも... で、その私に何か?」

女    「失礼ながら... 過酷なまでの求刑を唱えられていた検事が、どうしてあの汚職事件の
      公判中に突如としてその立場から退かれたのか... それをお伺いたく思いまして... 」

マスター 「お客様... この方は今、この店の一お客様でいらっしゃいます...
       個人的な中傷や詮索は、どうかお止めください... 」

女    「ごめんなさい... でも私は... 」

男    「いいや、一向に構わんよ... そのとおりなんだからな。
      確かに私は当時、鬼検事とよばれた楠木だ... 」

マスター 「先生... 」






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タグ:ドランブイ
posted by マスターの知人 at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | ストーリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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