2011年07月11日

止まり木 / 第二夜 -scene:1-




この話は、マスターの...
こんなメッセージから始まった-----



マスター(Na)止まり木とは.....
     それは流離い飛ぶ鳥の、翼休めし静寂の場-----

     また止まり木とは.....
     それはつかの間の微睡みに、刹那の夢見し安逸の場-----

     そして止まり木とは.....
     それは夜の帳に覆われた街に、ひっそりと佇む静穏の酒場-----

     さて.....  今宵、その止まり木に訪れし方は-----



氷を入れたロック・グラスが、軽くステアされる音.....
やがて-----


マスター 「お待たせ致しました... どうぞ」

女    「どうもありがとう...(ゆっくりと一口)... 美味しい...
      ここで飲むお酒って、何だか少し違う... 」

マスター 「ありがとうございます... ですが、そのお酒はどちらで口にされても、同じ味だと
      思いますが... ]

女    「それが違うんですよ... 微妙に」

マスター 「と、申されますと...?」

女    「このドランブイ... 確かにどこのバーでも同じボトルで同じ味がするはずなんだけど
      少しだけ違うことがあるような気がする... 」

マスター 「少しだけ違うこと...?」

女    「それはきっと... このお店の雰囲気のせいかな... 」

マスター 「雰囲気... 」

女    「こうしてカウンター越しに女が一人でグラスを傾けてても、ちっともおかしくなくて...
      それでいてゆっくりとお酒が飲めるこの店の雰囲気が、どこでも同じはずのお酒の味を
      より一層引き立ててるような... そんな気がするんです」

マスター 「そうでしたか... お褒めに与り光栄でございます... 」

女    「これはやっぱりマスターのせいでしょうね、きっと」

マスター 「わたくしの、ですか...?」

女    「そう... 普通、お店の雰囲気なんてそこで働く人の色合いで決まるものだと思うの... 」

マスター 「少なからず、仰るとおりかもしれませんね... 」

女    「だからこの店の雰囲気イコールそれは、マスターのカラーってことになるんじゃないかと
      そう思うんです... 」

マスター 「そうですか... 何かしら説得力がおありですね... お客様のお話には」

女    「すみません... 仕事柄、ついつい思ったこと口にしちゃう癖がついちゃって... 
      聞き流して下さい、マスター... 」

マスター 「いいえ、お気になさらないでください... お客様の貴重な声を聞かせて頂いているの
      ですから... 」

女    「そう云って頂くと助かります... 実は私、ルポライターやってまして... 」

マスター 「ルポライター... そうでしたか... 」

女    「それでって訳でもじゃないんですけど、物事に対して正確にかつ忠実に判断して
      事実を広く知らしめる... そんな思考回路が身についちゃってるんですよね... 」

マスター 「それで... それなりの見識と含蓄を持ち合わせていらっしゃるというわけですね... 」

女    「いいえ... そんな大したものは持ち合わせてはいませんよ... ただ... 嘘やお世辞
      なんかで、ものは云わないことだけは確かですけどね」

マスター 「失礼ながら... お客様はきっと... 真っ直ぐな方なんですね... 」

女    「?... それはどういう意味でしょう?」

マスター 「何事にも囚われることなく、素直な気持ちで物事を見れる... お客様はそんな方では
      ないかと思いまして... 」

女    「この場合は、お世辞として聞くべきなんでしょうか...?」

マスター 「及ばずながらわたくしも、嘘とお世辞とは、うまく付き合えない方でして... 」

女    「(少し笑って)さすがですね... マスターは」

マスター 「恐れ入ります... 」


女、ふと腕時計に目をやり-----


女    「(呟くように)...にしても、遅いな... 」

マスター 「お待ち合わせでしょうか...?」

女    「エエ... そうなんですけど... 」


店のドアが開く-----


マスター 「いらっしゃいませ... 」

男    「今晩は、マスター... 」

マスター 「...先生...?!」





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2011年07月10日

ミセス マティーニ -scene:final-




その夜...
グラスのカクテルにも似た可憐な女性は ...
タロットの絵札たちに一夜の運命(さだめ)を委ねていた -----

その女性の手元には ...
少し危険な香りを漂わせた妖しげに輝くカクテル ...
それは、マティーニ -----



   女 「ちょっとしたことで知り合った人なの... でも意識したのは二度目に会った時で
      今夜が三度目の正直ってところ... 
      さっきのタロット通り... 曖昧な精神状態が恋のはじまりで、その傾向が真実を
      見失うってわけね... 
      本音を云えば迷ってるの、今... 」

マスター 「タロットでは、答えがだせなかったんでしょうか... 」

   女 「解決のカードが誤算と出た時にこれだと思ったけれど、最後のカードで意味が
      分からなくなったの... 」

マスター 「死神の逆位置... 好転する運命... 」

   女 「でも彼は来ない... 」


沈黙を覆うようにジャズが流れている -----


マスター 「お作りいたしましょうか...?」

   女 「ええ... お願いするわ... 今度は思いっきりドライにしてくださる?」

マスター 「かしこまりました... 」


グラスでステアされる音 -----
やがてカクテル・グラスに注がれ、女性の前に置かれる -----


マスター 「お待たせいたしました... どうぞ」

   女 「どうも... 」


女性は少しだけ口にすると -----


   女 「マスター、これは...?!」

マスター 「はい... ただのジンです」

   女 「私は... 」

マスター 「でも... 飲まれる方によっては、最高のドライ・マティーニかと... 」

   女 「最高のマティーニ... 」

マスター 「この棚にあるヴェルモットのラベルを見ながら、そのドライ・ジンを口にされる...
      これに勝るマティーニはどこのもございません... 」

   女 「ハート・イン・ザ・カクテル... 」

マスター 「そんなところでしょうか... 」

   女 「ただのドライ・ジン... でも飲む人によっては最高のマティーニか... 」

マスター 「ご納得頂けましたでしょうか... 」

   女 「... ええ... とても素敵なマティーニをありがとう... 」

マスター 「恐れ入ります... 」


女性は時計に目をやり -----


   女 「そろそろいい時間ね...  私、行くわ... 」

マスター 「よろしいんですか? お待ち合わせは... 」

   女 「これが運命(さだめ)... 最後のカードの結果かもしれない... 」

マスター 「このまま会われない方がいいと... 」

   女 「それが好転の証しなのかも... 」

マスター 「死神のカードの逆位置... 」

   女 「今夜はありがとう... マスター 」

マスター 「いいえとんでもございません... こちらこそありがとうございました... 」

   女 「じゃ... 」

マスター 「マティーニにはじまり、マティーニに終わる... ですね... 」

   女 「そうね... そんなところね... 」


その時、店のドアが開く -----


マスター 「いらっしゃいませ、ようこそ.... 」

   女 「...エ... ?! 」




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2011年07月09日

ミセス マティーニ -scene:4-




その時...
22枚の絵札たちを携えて
タロットが静かに語り始めた -----

まずは月を、次に恋人を...
やがて審判を伴い、運命の輪を連れて -----

そして最後には死神を...

果たしてこの暗示に導かれし運命(さだめ)とは -----



   女 「(少し笑い... )ウフフフ... ごめんなさいね、驚いた?」

マスター 「あまりいい言葉の響きではありませんね... 」

   女 「そうよね... でもこの場合は逆位置だから、意味もまったく逆になるの」

マスター 「ではどうなるんでしょうか... この場合は」

   女 「本来、正位置だとそのままのイメージで、死や不慮の事故を暗示するけど
      これが逆さまだと、好転する運命... つまり立ち直りを意味するようになるの」

マスター 「少しまぎらわしいですね... タロットの絵札の意味は... 」

   女 「確かにそうかも知れないわね。私もよく最初の頃はどぎまぎさせられたもの」

マスター 「... これで5枚のカードが出揃いましたが... 答えは出ましたでしょうか...?」

   女 「そうね... 大体は... 」


女性はゆっくりと時計に目をやり -----


   女 「(軽いため息)そっか... もうこんな時間か... 」

マスター 「待ち人来たらず、でしょうか...?」

   女 「そんなところね... マスターにはかなわないな... すべてお見通しって感じで」

マスター 「相すみません... これも仕事柄でしょうか... 毎夜こうしてカウンター越しに
      色んな方とお会いしますので... それとなく感じてしまいます... お客様の事を... 」

   女 「そうなんだ... なら、ひとつ質問してもいいかしら?」

マスター 「仰せのままに... 」

   女 「私は既婚者だと思う?」

マスター 「はい... ?」

   女 「人妻かな?」

マスター 「... 難しい質問ですね... でも... 」

   女 「でも?」

マスター 「なさってますね... きっと」

   女 「どうして? 第一、こんな時間にこんな場所で、人妻が一人でいるわけないでしょ?
      それに薬指に指輪もないし... どうみても独身じゃなくて?」

マスター 「ですから... 結婚されているのではないかと... 」

   女 「エッ?」

マスター 「どこから見ても一見独身風の女性が、わざわざそのような質問はされないかと... 」

   女 「(軽い笑い)ウフッ... 確かにいわれて見ればそうよね。私の負けだわ... ウフフフ... 」

マスター 「いつの間にか勝ってしまいましたね... わたくしが... 」

   女 「でもマスター... 私がここに来た理由はわからないでしょうね... 」

マスター 「それは... 神のみぞ知るというものでしょうか... 」

   女 「そうね... そうかもね...
      私、実はここで、ある男の人を待ってるの... それも夫以外の男性を... 」

マスター 「ご主人以外の...?」

   女 「そう... 俗にいう、不倫ってやつね... 」

マスター 「不倫... 」




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2011年07月08日

ミセス マティーニ -scene:3-




その瞬間から...
タロットという名のステージが
時間を支配した -----

それは...
大アルカナと呼ばれる22枚の絵札によって
すべてが解き明かされていく -----

その導きとは -----



   女 「まず、何枚目から始めるかを決める ... ちなみに今日は7日だから7枚目からに
      するわ... 枚数が決まったらこうして絵札の方を下にして、上から同じ枚数を
      上から取り真ん中へ置く。そしてまた次のカードも7枚目をここへ ...
      こうして7枚目ごとをあらかじめ決められた順序に従って5枚並べていくの ... 」

マスター 「十字に並べるんですね ... 」

   女 「そう... これはギリシャ十字法というやり方で、5枚のカードを使って単純な
      十字型に並べて占う方法...
      他にもケルト十字法なんてやり方もあるんだけど、今知りたいことはこれで充分
      答えが出せるわ... 」

マスター 「そうなんですか... ちなみに... 並べた順序にも意味が...?」

   女 「そう... この絵札同様にね」

マスター 「不思議なデザインの絵札ですね... 」

   女 「これもまた神秘的よね... 」

マスター 「並べられた絵札が、上下逆になっているカードもありますが... 」

   女 「これが大きな意味を持つの... たとえば最初に置いたこのカード...
      ここに置かれたカードは現在の状況を表すもので、月のカードの正位置... つまり
      上下逆になってないことで、今は私が曖昧な精神状態だということを表現してるの」

マスター 「月のカードにそんな意味が... 」


   女 「そして次の障害の位置にあるのが恋人のカードの正位置... これは恋の始まりを意味
      している... 」

マスター 「少し、穏やかじゃありませんね... 」

   女 「そのようね... 」

マスター 「三番目のカードはどうなんでしょうか...?」

   女 「これは傾向を占う位置で、審判のカードの逆位置... 」

マスター 「逆位置... ということは... 」

   女 「真実を見失うってことを表してようね... 」

マスター 「いかがなんでしょうか... ここまでの答えは... 」

   女 「当たらずとも遠からず... そんな感じね... 」

マスター 「...まだあと... 2枚のカードが残されてますが... 」

   女 「そうね...
      まずここは解決を意味する場所で、カードは運命の輪の逆位置...
      この場合だと誤算を意味の解釈になるわ... 」

マスター 「見込み違い... 思い違いと言うことでしょうか... 」

   女 「そうなるわね...
      つまりここまでの答えをまとめればこうなる...
      曖昧な精神状態の障害が恋のはじまりで、その傾向が真実を見失う...
      そしてその結果が... 誤算、と... 」

マスター 「少し、複雑ですね... 」

   女 「かもしれない... でも、さすがだわ... 」

マスター 「納得されているようですね... 」

   女 「別の意味でね」

マスター 「別の意味...?」

   女 「...それより... いよいよ最後のカードね... 」

マスター 「何を意味してるのでしょうか... その位置のカードは... 」

   女 「ここは予想... つまり未来を意味する場所で... 」

マスター 「いかがでしょう... そのカードは... 」

   女 「このカードは... 逆位置の死神... 」

マスター 「死神...?!」






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2011年07月07日

ミセス マティーニ -scene:2-




その夜...
静かに流れるジャズの旋律は...
ゆっくりと時間を刻んでいた...
早くもなく遅くもなく-----

そしてその傍ら...
女性の手元にあるグラスは...
いつになく輝いていた...
無色透明な眩い色合いに染められて...

そのカクテルの名は、マティーニ-----



   女 「... 以前にも、どこかのお店でそんなことを言われたことがあったわ... 」

マスター 「そうでしたか... 生憎の二番煎じになりましたね... 」

   女 「いいえ... その時はお世辞程度にしか聞こえなかったし... 私自身、今ほど
      マティーニを意識してなかった頃だったから、何も響いてこなかった... 」

マスター 「では... 今は...?」

   女 「マスターの台詞には響いたわ... 素直に嬉しかった...
      カクテルの中でも今だ人気があり、しかも奥深いマティーニ... それがお似合い
      だと言われて悪い気になんかなれない... 」

マスター 「それは幸いです... 」

   女 「飲む人によって色んなレシピがあるのよね... このマティーニは... 」

マスター 「そうですね... スタンダードなレシピはあるものの、それぞれの嗜好でバリエーションが
      存在するカクテルといえますね... 」

   女 「神秘的だわ... 」


次の瞬間 ...
女性は手元の時計に目をやった ...
微かにその瞳が翳りを表現した -----


   女 「おかしな客ね、私も... たった2杯のカクテルで、小一時間もここにこうしてるんです
      もの... それもよりによってこんな日に一人で... 」

マスター 「それは... 今夜が七夕ということでしょうか...?」

   女 「偶然ね... 」

マスター 「お待ち合わせでしたか... 」

   女 「一応、ね... 」


束の間...
会話は途切れ、 流れるジャズの旋律だけが時間を刻んだ -----


   女 「そうだ... ここ少しいい? マスター」

マスター 「はい...?」

   女 「実は私、タロットに凝ってて... 」

マスター 「占い、でしょうか...?」

   女 「そう」


女性はバッグから一束のカードを取り出す -----


   女 「こうなると、ますます変な客ね... いきなりタロットカードなんかバッグから
      取り出すんだから... でも、これって結構バカにならないものなのよね... 」

マスター 「カード占い... 」

   女 「他にも占星術とか九星気学だとか色々あるでしょ... 」

マスター 「血液型もですね... 」

   女 「そう... でも大概の占いは、大体同じ年の同じ日に生まれてたり、同じ血液だったり
      すると、ほとんど同じ結果になってしまう傾向にあるの... だから本当の意味での
      個人の占いにはなりにくい...
      それに、その場その場で占いたいことの結果が得られなくて、ほとんどがあらかじめ
      用意された答えだけ...」

マスター 「そうなんですか... 」

   女 「自分のことを自分で占えない... ある意味、他力本願かも... 」

マスター 「他力本願... ?」

   女 「でもこのタロットはそんなことはない... 自分の知りたいことを知りたい時に
      自分の手で知ることが出来るから... 」


その女性は、カウンターに22枚のカードを広げ、崩すように混ぜる -----
やがてカードを一組にまとめ、カウンターの中央に置き -----


   女 「これでいいわ...」

マスター 「それで一体、何を占うのでしょうか...?」

   女 「7月7日... 今夜の私の、運命かな... 」

マスター 「...エ...?」






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