2011年07月26日

千夜一夜 / ハートカラー -scene:1- 




埠頭の風景 .....
静かな波の音 .....
遠くに聞こえる海猫の声 ...

そこに一人の女性が佇んでいた -----


涼子(Na) そのお店は以前、メリケン波止場にあったそうです .....

      いいえ... 生憎と私はその頃、行ったことはないんですが ...

      ただ... お店の小窓から時々潮風がやってきては、お酒の香りと戯れたり ...
      埠頭に響く波音が、静かにカウンターを漂ったりする、お洒落なバーだった
      そうです -----

      ... ええ、そうですね... 海猫たちはきっと思ってたでしょね ...
      自分たちにも、そんな止まり木が欲しいって ...

      そうなんです... 酒場はもそもそも、彷徨い飛ぶ鳥たちの止まり木 ...
      だからそのお店はちょうど、人の心が翼を休める、港の止まり木のような
      そんな場所だったんですよね .....

      その頃の私はまだ見習いのバーテンだーで、いろんなお店のことは耳にしてた
      んでが... このお店の話を聞いた時に、ふと思ったんです ...
      その店のマスターに逢ってみたいって... 何だか無性にそう思ったんですよ。

      同じ女性として、港の止まり木といわれるバーでシェイカーを振り、その店に
      訪れる人たちに、どんなエスコートをしながら迎えていたのかが知りたくて ...
      この目で確かめてみたかったんですよ ...

      でも .....
      私がメリケン波止場へ行った時には、そのお店はもうなかったんです ...
      そう... それは仕方のないことでした ...
      どうしようもない現実が、そこにはあったんですから -----

      それは確かにショックでしたね... その頃、すべての出来事に愕然としていた
      私には、もう何もかも失ってしまったような気がしましたね、あの時は ...


        :辺りに響くヒールの音 -----


      けれど、それから二年後 .....
      私はやっと巡り合えました ... 生まれ変わったそのお店と ...

      ... いいえ。残念ながらマスターとはまだお会いしてないんですが ...
      そのうちにお目にかかれるものと思って、時折こうして足を運んでます ...

      ...え? 私ですか? 私は「ヴランシュ・ネージュ」というバーで
      シェイカーを振っている... 涼子と申します -----

      さあ... 今夜はマスターに逢えるかな .....


        :店のドアが開く-----


     「いらっしゃいませ、ようこそ ... 」 





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2011年07月25日

ソムリエ [ Vintage.U] -final-





         :サンドリオンの店内 -----


マスター 「タクヤさんは、こんなことを云っておられました ...
      あの程度のことで、人を愛する権利を決められるはずがない、と ... 」

ヒトミ  「 ..... 」

マスター 「タクヤさんは立派なソムリエだと、私は思います ... そして少なくとも ...
      この2年間を無駄に過ごされたのではないと思います ... 」

ヒトミ  「マスター ... 私 ... 」

マスター 「いかかでしょう? このワイン ... お飲みになりませんか ...?」

ヒトミ  「 ... はい ... 頂きます ... 」


        SE:ワイン・グラスに、ワインが注がれる -----


マスター 「どうぞ ...(グラスを置く)」

ヒトミ  「ありがとうございます ... 」

マスター 「ここから先は ... ご自分でお決めになることですね ... 」

ヒトミ  「 ... そうね ... そうですよね ... 」


         :ヒトミ、ゆっくりとワインを一口飲む -----


ヒトミ  「 ... 美味しいな ... このワイン ... 」

マスター 「不思議なものです ... 同じワインでありながら、こんなにも違いがあるなんて... 」

ヒトミ  「 ... マスター ... 」

マスター 「はい ... ?」

ヒトミ  「私、決めました ... 」

マスター 「 ...? 」


        :ヒトミ、おもむろにチケットを手にし、破りだす -----

ヒトミ  「私にはこのエアーチケット ... 必要ないみたいです ... 」

マスター 「ヒトミさん ... 」

ヒトミ  「マスター... ちょっとここで失礼しますね ... 」

マスター 「どうぞ ... 」


       SE:ヒトミ、携帯電話を取り出しダイヤルする ...
        :呼び出し音の後、電話がつながる ----


ヒトミ  「あ ... もしもし、タクヤ ...?」


マスター(Na)ボトル・バリエーション ...
      それは本来、ワインを取り巻く様々な環境や要因によって、同じワインでありながらも
      微妙な味わいや色調の違いが生じることをそう呼ぶのですが ...

      それはワインが人と同じく ... 長い歳月の中を、静かに生き抜いている証だとも
      いえるのであって ...

      ここバール・サンドリオンでも、そんな息づくワインたちのように ...
      このボトル・バリエーションによって今 ...
      一人の女性が微妙な変化を遂げたようです -----






[ recipe & episode ]
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2011年07月24日

ソムリエ [ Vintage.U] -scene:4-





        :二日後 ... サンドリオンの店内 -----


ヒトミ  「この間はすみませんでした、マスター ... 」

マスター 「いいえ、とんでもございません ... それよりどうなさるおつもりなんですか...?」


        :ヒトミ、バッグからエアーチケットを取り出す -----


マスター 「それは ... 」

ヒトミ  「イブキさんから渡された、エアーチケットです ... 」

マスター 「それじゃ、フランスへ行かれるのですか? あの方と ... 」

ヒトミ  「... 私 ... 」

マスター 「... 迷っておられるご様子ですね ... 」

ヒトミ  「自分でもよく判らないんです ... どうしていいのか ... 」

マスター 「そうなんですか ... 」

ヒトミ  「マスター ... 私、どうすれば ... 」

マスター 「実はあの次の日の夜 ... タクヤさんがお見えになって ... 」

ヒトミ  「タクヤが ...?!」

マスター 「昨夜はお騒がせして申し訳なかったと ... これを ... 」


        :カウンターに置かれるワイン・ボトル -----


ヒトミ  「このワインは確か ... 」

マスター 「そう ... あの時のワインと同じものです ... 」

ヒトミ  「でも何故、これを ...?」

マスター 「ところが ... このワインもボトル・バリエーションで、あの時の2本とはまた違う
      味わいなんです ... 」

ヒトミ  「違う味 ...?」

マスター 「つまり ... タクヤさんはあの時、答えを知っておられた ... 」

ヒトミ  「タクヤが答えを知ってた?! ならどうして白紙で ...?」

マスター 「それが答えだったんです ... 」

ヒトミ  「白紙が答え ...?」

マスター 「同じ銘柄、同じヴィンテージであるなら、答えは一つ ... 」

ヒトミ  「そんな ... 」

マスター 「あの時タクヤさんは、確かにこう云われました ... 」

タクヤの声 書く必要がない ... それが答えです、マスター...

マスター 「やはりそれなりの意味があったんですね ... あの白紙の答えには ... 」

ヒトミ  「タクヤ ... 」

マスター 「それに ... ヒトミさんはお気づきになりませんでしたか ...?」

ヒトミ  「え ...?」

マスター 「あの日 ... タクヤさんは風邪をひいて、鼻が利かなかったことを ... 」

ヒトミ  「!... そういえば、しきりに鼻をすすってた ... 」

マスター 「香りが嗅げない常態でも ... 彼はテイスティングに挑んで答えた ...
      おそらくフランスで、かなりの勉強をされたのに違いありませんね ... 」

ヒトミ  「タクヤ ... 」







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2011年07月23日

ソムリエ [ Vintage.U] -scene:3-





         :サンドリオンの店内 -----


マスター 「それでは ... お二人の答えを申し上げます ...
      まずは最初のワインですが ... イブキ様の方は『カベルネ・ソーヴィニョン
      "ナパ・ヴァレー" [2007] 』とあります」

男    「タンニンが豊かだがやや酸味に欠け、アルコールの高さから甘みさえ感じる程の
      濃縮度 ... その答えに間違いはない ... 」

マスター 「確かにご正解です ... そして、タクヤさんも同じ答えでした ... 」

男    「ほう ... なかなかやるんだね... 」

マスター 「そして次のワインですが ... タクヤさん、答えが白紙ですが ... 」

男    「エッ? 白紙だって?(少し笑い)... それじゃ結果は出たね」

マスター 「タクヤさん ... これは ...?」

タクヤ  「書く必要がない ... それが答えです、マスター ... 」

バーテン 「書く必要のない答え ...?」

ヒトミ  「タクヤ ... 」

男    「ここまでだな ... フランス帰りのソムリエ君 ... 」

マスター 「しかしイブキ様 ... 残念ですが、お答えになった2本目の銘柄は合っておりますが
      ヴィンテージが違っております ... 」

男    「何だって?! そんなはずは ... 」

マスター 「2本目にお出ししたワイン ... 確かに同じ銘柄のワインですが、ヴィンテージも
      同じワインなのです ... 」

男    「そ、そんな馬鹿な ... 」

マスター 「これがその2本のワインです ... 」


        :カウンターに置かれる同じ2本のワイン -----


ヒトミ  「ホントだわ ... まったく同じヴィンテージのワイン ... 」

男    「でもどうして...」

マスター 「それはボトル・バリエーションのせいです ... 」

バーテン 「ボトル・バリエーション ...?」

男    「まさかそんな ... 」

マスター 「同じ生産者、同じヴィンテージ、同じ原産地呼称、同じボトルサイズの、まったく
      同一のワインでありながらも、ボトルによって色調や香り、味わいに微妙な差が
      生じる ... そのことをワイン研究家の間では、ボトル・バリエーションと呼んで
      います ... 」
タクヤ  「つまり ... 同じワインでも、様々な要因で微妙な違いが生まれるということ ... 」

ヒトミ  「様々な要因って ...?」

タクヤ  「例えば輸入経路 ... 同じ船便でもリーファと呼ばれる低温コンテナで輸入された
      ものと、温度調整のないドライコンテで輸入されたものとでは、明らかにその差が
      ワインに出る ... 」

バーテン 「つまり ... その違いがこの2本のワインだと ... 」

男    「なるほどわかった ... 講釈はそのぐらいでいいでしょう ... で、結果はどう判断
      するべきなんだろうか?」

マスター 「それは ... 」

男    「こう云っては何だが、僕はこう判断するね ... たとえ違うヴィンテージで答えたに
      せよ、白紙よりはマシじゃないだろうか ... 」

ヒトミ  「マスター ... 」

タクヤ  「好きに解釈すればいいさ ... 」

ヒトミ  「タクヤ ... 」


        :タクヤ、店を出て行く -----


ヒトミ  「あ、タクヤ ...!」


        :ドアの閉まる音 -----


マスター 「タクヤさん ... 」

男    「これで決まったな ... 」

バーテン 「マスター ... 」

マスター 「白紙の、答え ... 」





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2011年07月22日

ソムリエ [ Vintage.U] -scene:2-





         :サンドリオンの店内 -----


マスター 「それじゃ ... ついでください」

バーテン 「はい ... 」


        SE:バーテン、2つのワイン・グラスにワインをそれぞれ注ぐ -----


マスター 「では、ご説明いたします ... 今ここに2本のワインをご用意させて頂きました。
      いずれもカリフォルニア産の赤ワインです ... 」

男    「なるほど ... フランス産だと、僕がハンディを背負うことになるからな」

マスター 「同じ条件下の方が、よろしいかと思いまして ... 」

男    「ありがたいようで ... 少し悲しいですけどね ... 」

マスター 「あとはお決まりの手順です ... ブラインドで銘柄を当てて頂ければ結構ですが
      ... いががでしょうか?」

男    「いいだろう... 」

タクヤ  「わかりました ... 」

マスター 「それではまず、1本目の方から ... 」

バーテン 「どうぞ ... 」


         :バーテン、それぞれの前にグラスを置く -----


男    「(グラスを持ち)... 色は明るい紫で、濃密な果実の香りがするな ... 」

タクヤ  「!... (小声で)しまった ... 」

バーテン 「どうかなさいましたか ...?」

タクヤ  「いや ... 別に ... 」

男    「凝縮感が素晴らしくて、バランスもいい ... ブドウは ... 」

タクヤ  「少し黙って出来ないのかな ... 」

男    「おっと、そうだな ... わざわざ君にヒントを与える必要もないな」

タクヤ  「口数の減らない男だな ... 」

マスター 「いかがでしょう ... お判りになりましたでしょうか... 」

男    「僕の方はいいですよ」

マスター 「タクヤさんはいかがですか ...?」

タクヤ  「エエ ... 」

マスター 「それでは、それぞれにこれだと思われる銘柄とビンテージを、このメモにお書き下さい」

男    「これは賢明だな ... たとえ答えが判らなかったとしても、相手と同じことを云えば
      それで引き分けになるからね」

タクヤ  「それはあんたにも云えることだろうが ... 」

男    「なにィ ...!」

マスター 「さあ、どうぞ ... 」


         :それぞれ、小さなメモに答えを書く -----


マスター 「では、次のワインに参ります ...(バーテンに)お願い ... 」

バーテン 「はい ... 」


         :バーテン、先程と同じく二つのワイン・グラスに
          ワインをそれぞれ注ぐ -----


男    「僕には少し、簡単な気もするが ... どうなんだろうかな、その辺は」

タクヤ  「終わればわかるだろう ... その答えは」

男    「なるほど ... もっともな意見だな、それは」

バーテン 「失礼いたします ... 」


         :バーテン、それぞれの前にグラスを置く -----


マスター 「それでは ... どうぞ... 」


         :二人、グラスを手にする -----


男    「ン ... こっちは少し色が濃いな ... それにかなり熟成してる ... 」

タクヤ  「!... これは ... 」







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