2011年06月15日

ギムレットの誘惑 -scene:final-




         誘惑 .....

         それは心を迷わせ、戸惑い、誘い込まれること ...
         そして、心がおびき出されること ...

         時として人は、それによって悲しみ ...
          それによって喜びに浸る ...

         その誘惑に魅せられた彼女の...
         その罪と罰とは-----



マスター(Na)それは当たり前と言えば、当たり前の ... 意外と言えば意外な結末で
      幕を閉じた、ある女性のお客様の出来事でした ...
      何故なら... 彼女はその電話の相手と会話を交わす間もなく、受話器を
      そっと置いたのですから -----

      それからの彼女は ...
      グラスに少し残った、尚も誘惑の色合いに輝くギムレットを
      只々じっと見つめたままでした ...
      そしてその表情には、淋しさや悲しみ、怒りというような喜怒哀楽の表情は
      なく、静かで穏やかな雰囲気を漂わせる面持ちでした-----

      やがて ...
      何人かのお客様がお見えになり、わたくしもそのオーダーに手を取られ
      声をお掛けする間もなく、時間だけが過ぎて行きました .....
   
      それから半時間程経った頃でしょうか -----


女    「マスター ... ごちそうさまでした ... とても美味しいギムレットでした」

マスター 「ありがとうございます ... そう云って頂けて、光栄です... 」

女    「誘惑は誘惑 ... それ以外の何ものでもなかったようです ... 」

マスター 「はい...?」

女    「私も罪を犯した分だけの、罰を受けたようです ... 」

マスター 「罰ですか... 」

女    「そう罰です ... ウフフ ... それも正真正銘、ぺけ印のバツでした ... 」

マスター 「でも、何もお話をされてないのでは... 」

女    「いいえ ... 私には充分でした、あれだけで ...
      そう ... たったあれだけのひと言で ... 」

マスター 「まさか ... 」

女    「多分、マスターのそのまさかは ... 正解じゃないかと ... 」

マスター 「 ... そうでしたか ... 」

女    「私って、ホントにお馬鹿さんだな ...
      3年という時の流れを無視しちゃうんだから... 」

マスター 「時の審判と言うべきものでしょうか... 」

女    「私は ... 終着駅にたどり着いたはずだったのに ... 」

マスター 「お客様は、ご存知でしょうか ... 」

女    「 ...え ...?」

マスター 「人は、旅路の果てにたどり着いた場所を終着駅と呼びますが...
      その一方では、その場所は新しい旅立ちへの始発駅になるということを... 」

女    「 ... 終着駅は、始発駅 ... 」

マスター 「 ... はい ... 」

女    「確かにそうかも知れませんね ... マスター ...
      素敵なセリフをありがとう... 」


マスター(Na) そう云って彼女は、ほんの少し潤んだ瞳を輝かせて、ドアの向こうへ消えて
      行かれました ...
      3杯目のギムレットを、グラスに残したまま -----

      そのギムレットには、こんなお話が人々に知られています ...
      かのレイモンド・チャンドラーが生んだハードボイルド小説の主人公である
      フィリップ・マローが好んだカクテルであり、「ギムレットには早すぎる」と
      いう名セリフが有名であると ...

      差し詰め ... 今宵の彼女の場合には...
      ギムレットは少し、遅すぎたのかも知れません -----




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posted by マスターの知人 at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | ストーリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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