2011年06月14日

ギムレットの誘惑 -scene:4-




         誘惑 .....

         それは心を迷わせ、戸惑い、誘い込まれること ...
         そして、心がおびき出されること ...

         時として人は、それによって悲しみ ...
         それによって喜びに浸る ...

         本来そうあってはならないものへのいざない ...
         その罪と罰とは -----


         キューブアイスの入れられたシェイカーの音が響き
         やがてグラス注がれる ...


マスター 「お待たせいたしました ... どうぞ」

女    「どうも ... (軽く口をつけ) ...マスター ... 」

マスター 「はい ... 何か ...?」

女    「このギムレットには、もう嫉妬させませんから ... 」

マスター 「と、おっしゃいますと...?」

女    「今の私には、ギムレットの嫉妬と言うより、誘惑と言った方がしっくりくると
      そう思うんですよ ... 」

マスター 「そうですね ... お客様の場合はそうなるかもしれませんね ... 」

女    「ギムレットの誘惑、か ... 」


         彼女はカクテルをゆっくりと一口-----


マスター 「確かに今夜は ... カクテルグラスを通してそのギムレットが、誘惑の色合いに
      輝いて見えますね ... 」

女    「でも ...
      誘惑という言葉の響きには、少しばかり罪の匂いが漂ってるような ... 」

マスター 「罪の匂い ...」

女    「そう ...
      本来、そうあってはならないものへのいざない ... 戒めに対する煽ぎたて ...
      そしてその戒めから、知らず知らずのうちに解き放たれようとする自分に
      気づいた時、もう一人の自分が罪の意識に目覚める ...
      どうやら安っぽい女のハートは ...
      振り子みたいに揺れ動いてるのかもしれない ... 」

マスター 「今もそうして揺れ動いているのでしょうか ... その女性のハートは」

女    「それはないと思う ...
      何故なら、その誘惑をこうして飲み干してるんですもの ... 」


         そう言って、彼女はカクテルを口にした-----


女    「でも馬鹿ね ... 私って ...
      そのために償いきれないような罪を犯したんだから ... 」

マスター 「罪を、ですか?」

女    「この世で一番私を大切にしてくれる彼を傷つけたんですから ... 」

マスター 「それが ... 誘惑の陰に漂う罪の匂いですか ... 」

女    「こんな女にでもあれほどやさしくしてくれたのに、私が彼に残してきたものは
      たったひと言『さよなら』と書いた手紙だけ ...
      そんな幕引きを罪と云わないのなら、他になんて呼べるの ... 」

マスター 「その方にも ... そんな罰を受ける、罪があったのかもしれません ... 」

女    「エッ...?」

マスター 「私もお客様と同じく... 女ですから... 」

女    「マスター ... 」

マスター 「それより ... そのギムレットの誘惑には、どう対処なさるんですか ...?」

女    「それはもう、決めてます ... マスター、電話をお借りしますね ... 」


         そう言って彼女は席を立ち、店の電話がある一角へ....
         そして受話器を取り、ダイヤルをする-----


女(Na) やっぱりここが、私の終着駅だと思う .....


         受話器から聞こえる呼び出し音...
         2回、3回とコールが続き...

         やがて-----


女    「ア、もしもし ... 」




posted by マスターの知人 at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | ストーリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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