2011年06月13日

ギムレットの誘惑 -scene:3-




         誘惑 .....

         それは心を迷わせ、戸惑い、誘い込まれること...
         そして、心がおびき出されること...

         時として人は、それによって悲しみ...
         それによって喜びに浸る...

         彼女にとっての誘惑とは-----



女    「先輩の顔で、それなりに仕事をやり始めた頃は必死だった...
      何もかもに夢中で、あっという間に色んな時間を消化していた...
      今思うと、確かにあの頃は毎日が新鮮だったし、とても充実してたように
      思うな... 」

マスター 「輝いておられたんですね... そのグラスのように毎日が... 」

女    「そうかな... こんな風に輝いてたのかな... 」

マスター 「否定されるとウソになります... このお話が... 」

女    「そうですね ... 本当にそう云えるような毎日だったかもしれない...
      そんな時に彼とも出会ったたんだから... 」

マスター 「新しい出会いがあったのですね... 」

女    「仕事先で知り合って、最初の頃は軽い挨拶程度だったのに、それが会話になり
      食事になり... いつの間にか気がつくと、同じ時間の所有者になってた... 」

マスター 「男と女のセオリーですね... 」

女    「彼はやさしかった... どんな時でも私を大事にしてくれた....
      仮に自分の仕事が手一杯な時でも、たとえ友達との約束を断ってでも
      いつでも彼は私のことを一番に考えてくれてたし、心配もしてくれた... 」

マスター 「かけがえのない存在だったんですね... その方にとってお客様は」

女    「それは肌で感じてましたね... 私のような女でも、ひしひしと...
      逆に、こんなにやさしくしてもらっていいのかなって... 恐くなる程でしたね」

マスター 「でも、幸せだった... 」

女    「確かにそう... 幸せだった...
      自分でも夢見てるんじゃないかって思うほどに。
      ... もしこれが夢だったとしたら、覚めないようにとも思ってた...
      そう思いながらも1年という、彼との時間が現実に過ぎていった... 」

マスター 「やはり、夢ではなかったと ... 」
  
女    「... いいえ。それがやっぱり夢だったんですよね、彼とのことは... 」
  
マスター 「どうして、そう...?」
  
女    「いつの頃からか... 彼のやさしさが苦痛になりはじめたんです... 」
  
マスター 「やさしさが苦痛に、その姿を変えた,,, 」
  
女    「彼にとっての私に対するやさしさは、そのまま私から彼に対するやさしさで
      なければいけなかった... 」
  
マスター 「彼自身が自分と同じやさしさを、相手に求めていた... 」
  
女    「彼が仕事よりも私を優先すれば、私にも同じ判断を... 
      彼が友達との約束より私を選べば私にも同じ結果を... 彼は私に求めていた... 」
  
マスター 「やさしさの代償というべきなんでしょうか... この場合は」
  
女    「やさしさに代償が必要なんでしょうか... 」
  
マスター 「そう思われたときに、夢が醒めたと... 」
  
女    「脆かったですね... いいえ... 儚くて空しかったような... 」
  
マスター 「人の夢と書いて儚いと読みますが... 本当にそうなんでしょうか...
      少なくとも私は、そう思ってはおりませんが... 」
  
女    「いいえ... そんなものだと思いますね... 現に私の3年間という時間は、
      そんなものでしたから... 」


         彼女はゆっくりとカクテルを口にした-----


マスター 「お客様にとってその3年間という月日は、短かったのでしょうか... 」

女    「そうかも知れないし、そうでないのかも知れない...
      よくわからないな、自分でも... でもこれだけは云えそう...
      私にはこのギムレットというカクテルがお似合いだと... 」

マスター 「お久しぶりに口にされて、そう自覚された ... 」

女    「少し違う .. 再認識したんです ... 」

マスター 「再認識 ...?」

女    「そう... 3年経った今、やっと自分で素直に認められたみたい...
      このギムレットをはじめて私に教えてくれたあの人が、やはり私には一番
      お似合いなんだと... 」


posted by マスターの知人 at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | ストーリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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