2011年06月05日

時 間 -scene:1-




         その夜.....

         若い男性が一人、カウンターにいた.....
         タバコをくゆらせ、手元の時計をじっと見つめながら
         時折グラスを口元へ.....

         マスター曰く.....

         かれこれ店に来て2時間程になるとか.....

         早いペースで立て続けに2杯のグラスを空け.....
         ちょうど3杯目のカクテルが、差し出される時だった.....


マスター 「お待たせいたしました..... どうぞ」

男    「どうも..... 」


         そう云って、何気にカクテルを口にした彼の視線上に、この店の時計が
         あった.....


男    「え...?」

マスター 「どうかなさいましたか?」

男    「いや.....
      あの時計、あんな時間なんで、少しびっくりしちゃって... 」

マスター 「... それはどうも失礼致しました.....
      実はあの時計は..... この店が始まって以来、ずっとあの時間で止まったまま
      でして ... 」

男    「止まったまま ...?」

マスター 「正確に申しますと、止めたままと云うべきかも知れません ... 」

男    「それは ... どうしてなんですか? マスター」

マスター 「はい... これと云って深い意味はございませんが... ただ... 」

男    「ただ...?」

マスター 「ここへお見えになるお客様には、ほんの束の間でも、時間を忘れて過ごして
      頂ければと、そう思いまして... 」

男    「 ... 時間を忘れて ... か ... 」

マスター 「それでも、すべてのお客様にそういう訳にもいかないようでして...
      例えばお客様の様な場合ですと、無理なお話なようで... 」

男    「え?」

マスター 「ここへお見えになってから、それなりに時間を気にされてるご様子なので... 」

男    「あ ... ええ ... まあ、それなりにね... 」

マスター 「お待ち合わせでしょうか...?」

男    「 ... そうですね... そんな感じですかね... 確かに待ち合わせには違いないん
      だけど...
      待ち合わせの場所はここじゃなかったりして... 」

マスター 「ここじゃない...?」

男    「おまけに、その待ち合わせの時間も、もうとっくに過ぎてるし... だから... 」

マスター 「だから...?」

男    「今夜はオレ... 飲んで飲んで、飲み明かしたい気分なんですよね... 」

マスター 「飲み明かしたい、ですか... 」

男    「今のオレには...
      この手元の時計は時間を知るものではなく、単なるオブジェなんですよね... 」


         そう云って彼は...

         静かに腕時計を裏返しにカウンターへ置いた...




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posted by マスターの知人 at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | ストーリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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