2011年06月04日

呪 文 -scene:final-




     呪文...

     たとえば...
     本当にこの想いを伝えられるのなら...
     もしこの願いが叶うのなら...
     あなたはこの呪文とやらを唱えるだろか...

     「アブダ、カタブラ... 」

     今夜はその結末の話しをしよう -----



マスター 「ソルシエール... それは以前、フランスの知人から教わったもので... 」


     私が初めて聞くカクテルの名前だった...


マスター 「奇跡を起こすカクテルとも、呼ばれていたそうです... 」


     ミラクルカクテル ...?!


マスター 「いかがでしょうか... この際、お試しになられてみては... 」

ナツコ  「それってホントに効果あるんですか? マスター」

マスター 「必ずとは申し上げられませんが... 少なくとも、希望はあるかと... 」

チアキ  「ソルシエールか... 」

マスター 「今宵はちょうど上弦の月...
      そのカクテルが充分に力になってくれるのが、今夜のような月の夜だと
      云われています... 」

ナツコ  「どうして上弦の月の夜なんだろう...?」

マスター 「フランスのとある地方では、月の入りの時、弓の弦が天に向かっている形に
      見えることから、天界にその願いが届けられる夜だと伝えられているそう
      です ... 」


     弓張り月... ここ日本でも、そんな意味合いがあるんだろうか...
     私はふとそう思った...


チアキ  「天界に届けられる想い願いか...」

ナツコ  「ね、チアキ... 試してみれば?」

チアキ  「え? どうして? ナツコ... 」

ナツコ  「なんだかマスターの話聞いてると、満更でもなさそうな気がするの... だから」

チアキ  「ウン ... 」

ナツコ  「今更、駄目もとでしょ... 」

チアキ  「... そうよね... 駄目でもともとだもんね... 」

ナツコ  「そうそう」

チアキ  「お願いしよかな、そのカクテル... マスター、いいですか?」

マスター 「かしこまりました... では...」


     マスターはそう応えると...
     オールドファッショングラスにクラッドアイスを入れ、手際よくそのカクテルを
     作り始めた...

     私はそのレシピを見て、このカクテルが持つ不思議な力というものを、それなり
     に理解出来た...

     その秘密は... ベースとなるリキュールに隠されていた---

     マスターはきっと、そのリキュールの性質を知った上で、このカクテルを彼女に
     勧めたのだった...

     でも何故?....
     その時の私にはまだ、その根拠を知る由もなかった...
     そしてそのことだけが...
     私の中でもうひとつのレシピとして、謎のままだった...
  

マスター 「お待たせいたしました... どうぞ」

チアキ  「これがソルシエール... 」

ナツコ  「黄緑色したカクテルなんだ... 」

チアキ  「これをどうすれば、その魔力が与えられるんですか? マスター」

マスター 「そうですね... 正確に云えば、魔力が与えられるというより、願いが叶うという
      ニュアンスですね... 」

ナツコ  「願いが叶う、か... 」

マスター 「手順は簡単です... チェリーの刺さったそのカクテルピンでカクテルをかき混ぜ
      ながら、ある呪文を三度唱えます... 」

チアキ  「呪文を三度...」

マスター 「それから目を閉じて、今度は心の中でその願いを心行くまで唱え続けます...
      何度も何度でも... 一心に... 」

チアキ  「願いを唱える... 」

マスター 「そして願い終わった時に目を開けてカクテルの色が変わっていれば...
      その願いが叶うと云われています... 」

ナツコ  「カクテルの色が変わる...?」

マスター 「さあ、どうぞ... 氷が解けないうちに... 」

チアキ  「...私... やってみるね、ナツコ」

ナツコ  「うん... ガンバだよ、チアキ...!」

マスター 「呪文は... アブダ、カタブラ... 」

チアキ  「...アブダ、カタブラ... 」


     やがて彼女は、おもむろに呪文を唱え始めた...
     それはまるで... 厳かな儀式の幕開けのようだった...

     マスター曰く-----


マスター(Na)お話しておかなければならないことがあります...
      それは...
      彼女たちがこの店へ来られた時、ちょうど一本の電話がございました...
      ご記憶でしょうか...?

      その電話の内容は、こうでした...

      『綺麗な髪をした女性が一人で、12時ちょうどに来ませんでしたか?』と...

      そしてその電話の主である男性は...
      この店の場所を確認されていたということを -----


     やがて彼女がゆっくりと、目を開けた -----


チアキ  「あ... カクテルの色が」

ナツコ  「変わった... 」
  

     その時... ドアの開く音がした---

     ソルシエール...

     それは紛れもなくその夜、願いを叶えたカクテルだった -----







- recipe -
posted by マスターの知人 at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | ストーリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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