2011年06月11日

ギムレットの誘惑 -scene:1-




         誘惑 .....

         それは心を迷わせ、戸惑い、誘い込まれること...
         そして、心がおびき出されること...

         時として人は、それによって悲しみ...
         それによって喜びに浸る...

         さて、今宵の彼女は果たして-----



女(Na)  ここではない、どこか遠くへ... そう思いながらたどり着いたのが
      この街だった---

      当たり前のように横たわる青い地平線は私の心をやさしく包み込み
      微かに潮の香りを含ませた風は私の耳元で静かに囁く...

      やはりここが、私の終着駅なのだと....


         そう物思いに耽る彼女の手元でグラスが倒れた -----

         グラスの割れる音-----


女    「アッ、ごめんなさい...」

マスター 「いいえ、お気になさらずに ... それよりお召し物は大丈夫でしょうか?」

女    「ええ ... 私の方は何とも ... 」

マスター 「お飲み物はいかがいたしましょう ... 同じものでよろしいでしょうか?」

女    「そうね ... すみません ... そうしていただけますか」

マスター 「かしこまりました」


         マスターは手際よくカクテルを作り出した -----


女(Na)  3年前の夏... 
      確かに終りを告げたはずのあの人への想いは、私の胸の中で今日まで色褪せる
      ことはなかった...

      そう...
      彼と言う名の別の男性がいつもそばにいてくれていたにもかかわらず-----

     「所詮、私には無理たっだんだ... あの人を忘れれてしまうことなんて... 」

      そんな台詞を自分で口にした瞬間から、私は彼との距離を感じはじめ
      日に日にその距離は広がっていった。

      そして私は、彼の元から旅立った...
      自分に素直に生きるため-----


         グラスにカクテルが注がれ、差し出された---


マスター 「お待たせいたしました... どうぞ」

女    「ありがとう ... 」


         彼女はゆっくりと一口飲み...
         それから、微かなため息をついた...


マスター 「 ... お疲れのご様子ですね ... 」

女    「エ ...? そんな風に見えます?」

マスター 「失礼ながら ... お元気がないようにうかがえますので... 」

女    「そうかもしれませんね...
      大事なカクテルグラス、割っちゃったんですものね...
      疲れてるのかな、やっぱり... 」

マスター 「物思いにふけられる方にはよくあることです。それに.... 」

女    「それに?」

マスター 「そんな時には、決まってグラスのカクテルは嫉妬しています... 」

女    「嫉妬...?」

マスター 「本当の自分を、知ってほしいと ... 」

女    「本当の自分?」

マスター 「カクテル一つ一つにも名前があり、それぞれに色んな味わいがある ...
      その中からわざわざ自分をオーダーしたのなら、その味わいをしっかり
      嗜んでほしいと ... カクテルが嫉妬するんです... 」

女    「それって... おもしろくて、それでいて説得力のあるお話ですね、マスター」

マスター 「そうおっしゃって頂くと、幸いです... 」

女    「それじゃ差し詰め私の場合は、ギムレットの嫉妬かな... 」

マスター 「アルコールの強いカクテルですから、嫉妬深いかもしれませんね... 」

女    「ギムレットは嫉妬深いか... あの人も、やっぱりそうなのかな... 」

マスター 「 ... エ ...?」



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2011年06月10日

時 間 -scene:final-




         時間に目を背けたとき...
         そこから先はただ流されるだけ...
         時間という流れの中にさ迷うように...

         彼もまたこのまま目を背けたまま
         時間に流されるのだろうか.....


         カクテルグラスにデコレートされたチェリーを見つめながら...
         彼は自分を反芻していた -----


男(Na)  今までのオレは、いつもあいつを待っていた...
      どんなにケンカをしても、それでしばらく会わなくても、表面上は
      気取って偉そうにしていながらも、心の中ではあいつのことを
      それなりにずっと待ってた...
      それもこれも... 結局オレの元へ帰ってくるという、変な自信があったから...

      束の間、他の男と一緒にいたとしても...
      たとえ別の男と楽しそうに遊んでたとしても...
      それはそれで確かに頭にはくるけど、あいつはそれでもオレの所へ戻って
      きた... 何もなかったような顔をして、ニッコリ笑いながら...

      最初はホントになんて女だと、呆れもし疑いもした...
      こんな奴といても仕方ない... 別れた方がいいと、何度かそう思ったりもした...
      けれど気がつくと...
      結局いつもあいつがそばにいて、楽しくワイワイ過ごしてた.....

      多分オレの場合... 女運のない、根っからの馬鹿なんだとそう思う...
      だから逆に... あいつみたいな女がちょうどいいのかもしれない...

      オレは ... オレは ...


         その瞬間、彼は静かに席を立ち...
         マスターに一言告げた -----


男    「賭けてみます... 」


         彼は店を出た.....


男(Na)  オレは海岸沿いを走りぬけ、タクシーを止めようとしていた...
      少し荒い息遣いと、通り過ぎて行く車の音 -----

      海岸通りまで出て、やっとタクシーに乗り込み、息急き切ってたオレが
      行き先を告げ、車は一路神戸モスクへ...

      辺りは静かな夜の風景...
      街灯がリズム良くオレの目の前を通過する...

      オレはポツリと呟いた...

     「... いてくれ... 」

      それから程なくして、車が止まった...
      ドアが開き、走り出す車...

      そしてそこにあいつは...



         店の電話が鳴った...

         マスターが受話器を取り、応対をする -----


マスター 「はい、バールサンドリオンでございます...
      ..... 左様でございますか... それではお待ちしております... 」


         マスターはそう言って、ゆっくりと受話器置いた...
         そしておもむろに話しはじめた -----


マスター 「先程のお客様からお電話があり、受話器の向こうでこうおっしゃって
      おられました... 」

         何と... ?

マスター 「はい... ハートのA(エース)で賭けに勝ったと..... 」


         その夜... 彼は賭けに勝った -----


[ recipe ]
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2011年06月09日

時 間 -scene:5-




         シェーカーに、レシピ通りの手順が施された.....

         ウオッカとテキーラ、そしてホワイトキュラソーが注がれ...
         そこへブルーキュラソーとレモンジュースが入れられて
         シェイクされる-----

         やがて間もなくグラスに注がれ、チェリーがデコレートされる-----


マスター 「失礼いたします... どうぞ..... 」


         彼の前に、そっとグラスが置かれた -----


男    「このカクテルの名前のような... 今のオレにとっての賭け... 」

マスター 「お客様の答えは、今この店には存在しないのではないかと... 」

男    「答えはここにはないと... 」

マスター 「このままここで飲み明かされたとしても、何ひとつとして答えはでない...
      そのように思います... 」

男    「 ..... 」

マスター 「それならば... ご自身でその答えを出されるようにするしか、手立てはない
      ように思うのですが... 」

男    「ここにいても意味がないってことなのかな... 」

マスター 「今夜は彼女の方から... 会いたいとおっしゃられたんですから... 尚更です... 」


         彼は少し汗をかいたグラスを、ゆっくりと口にした.....

         沈黙 -----


男    「でもね、マスター... 」

マスター 「はい...?」

男    「遅すぎるよ... 今更... 」


         そう言いながら、彼はカウンターに置いていた腕時計を手にした----


男    「もう2時間... 2時間近く経ったんだよ、約束の時間から...
      賭けにはならないよ、こんなのは... 」

マスター 「かと言って、ここにいらしたとしても...
      何の勝負にもならいのではないでしょうか...
      なら、せっかくそうしてバカラというカクテルを口にされているのですから...
      賭けてみてはいかがでしょう... 彼女という切り札に」

男    「... あいつと言う、切り札... 」

マスター 「お客様はご存知でしょうか... 」

男    「...?」

マスター 「このバカラというカクテルのグラスの淵にデコレートされている
      チェリーの意味を... 」

男    「このチェリーの意味...?」

マスター 「それは... ハートのA(エース)を表しているものだと云いうことを... 」




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2011年06月08日

時 間 -scene:4-




         時間と共にはじまるものがある.....

         またそれとは逆に...
         時間と共に終わりを告げるものがある.....

         それが出逢いであったり、別れであったり...

         人はすべて、時の流れの中で喜び、悲しみ...
         そして戸惑う...

         そう...
         ちょうどこの店のカウンターで今夜...
         グラスを傾ける彼も、その一人...


         灰皿に置かれたタバコの煙がゆっくりとくゆれている...
         それはまるで...
         彼の気持ちのように緩いカーブを描いて-----


男    「...あいつの心が今、揺れている... まさか...」

マスター 「いつでも、どんな時でも、そばにいてくれる彼と...
      自分のことを意外にも真剣に考えてくれていた顔染みの男友達...
      その狭間に立って彼女は今、本気で悩んでおられるのでは... 」

男    「あいつがそんな... 」

マスター 「ご自分でもどこかでそうそう思われてたからこそ、その時間を
      気にされていたのではないでしょうか... 」

男    「...それは... 」

マスター 「目をやってしまうから、腕時計を外して裏返しにされ... それでも気になって
      この店の時計に驚かれた... 」
  
男    「...確かにそうですよね... でも...」

マスター 「でも...?」

男    「いつだって待ってたのは、結局オレの方なんですよ...」

マスター 「.....」

男    「最初の時も、二度目の時だって... 結局オレがいつもあいつを待ってた...
      待たされてたんですよね... 」

マスター 「だから今度は、別の意味で彼女を待たせようと...?」

男    「いいんじゃないかと思ってますよ、一度ぐらい... 」

マスター 「本当によろしんでしょうか... このままで」

男    「...いいんですよ、これで... 」


         彼がゆっくりと、タバコをくわえた....


マスター 「今夜は最初から、行かれるつもりはなかったんでしょうか...
      お待ち合わせには」

男    「そういう分でもなかったんですよ... でも仕事がつかえちゃって
      会社を出る時にはもう時間が過ぎてたし、だから... 」

マスター 「そのまま行かずにいたと... お電話は... ?」

男    「何度かかけたけど、つながらなかった... 」

マスター 「そうですか... 」

男    「大体、そんな時間に行ったて、あいつが待ってるわけないし...」

マスター 「失礼ですが... お約束はどちらで... ?」

男    「神戸モスクで、8時に... 」

マスター 「8時ですか... 」

男    「もうかれこれ2時間近く経てるし... 」

マスター 「いいえ.. 正確には1時間半ぐらいですね... 」

男    「どっちにせよ、あいつはもういない... 待ってなんかいないですよ...
      普段から、たとえ10分でも待つことが嫌いな女でしたからね... 」


         そう云って、カクテルを一口飲んだ彼は...
         小さなため息をついた...


マスター 「そうでしょうか... 本当に... 」

男    「え?... 」

マスター 「彼女は本当に、待っておられないんでしょうか... 」

男    「100%、いや... 99%いませんよ、あいつはもう」

マスター 「ご自分で今言われた数字の、残りの1%の意味は... 」

男    「それは... 」

マスター 「期待でしょうか... それとも...?」 

男    「... 」

マスター 「たとえ1%でも可能性があると思われるのなら...
      その確率に賭けてみるというのはいかかでしょうか... 」

男    「残りの1%に賭ける...?」

マスター 「そうです...
      ちょうどその手元にある、バカラというカクテルの名前のように... 」

男    「バカラ... 」



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2011年06月07日

Live




マスター  今宵も、ここ「バールサンドリオン」へようこそ.....

      ここでお越しいただいた皆様にお知らせがございます....
      それは...

      今夜より、あの懐かしき「 barcendriillon 」のナレーションを聴いて
      頂けるようになりました...
      ar:k様からのご好意によるものです... 改めて心より感謝致します.....

      お客様におかれましては、どうぞあちらの【opening】のお席にて
      お楽しみ下さいませ。

      それでは...
      今宵もどうぞ、ごゆっくりと -----


posted by マスターの知人 at 21:30 | Comment(0) | TrackBack(0) | ア‐ラ‐カルト | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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