2011年06月16日

止まり木 / 第一夜 -scene:1-


この話は、マスターの...
こんなメッセージから始まった-----



   --- 止まり木とは.....
     それは流離い飛ぶ鳥の、翼休めし静寂の場-----

     また止まり木とは.....
     それはつかの間の微睡みに、刹那の夢見し安逸の場-----

     そして止まり木とは.....
     それは夜の帳に覆われた街に、ひっそりと佇む静穏の酒場-----

     さて.....  今宵、その止まり木に訪れし方は-----


辺りに響く、ヒールの音.....
その夜、一人の女性が想いを馳せていた-----


回想-----


   男 「どうやら俺は、お前を不幸にする男だったな... 」

   女 「どうして...?」

   男 「一緒になって15年... 何ひとつ、まともなことしてやれなかったからな... 」

   女 「何言ってるのよ、今更... そんな柄にもないこと云って」

   男 「そうかな... おかしいか? 俺がこんなこと云うと」

   女 「少なくとも、額面どおりには聞こえないわ」

   男 「(少し笑い)それじゃ一体、どういう風に聞こえるんだ?」

   女 「そうね... 何か下心ありって感じのセリフに聞こえる」

   男 「おいおい... そういう解釈はないだろう... 」

   女 「でも、そう聞こえてよ。何しろいきなりそんなこと云いだすんだから」

   男 「そりゃ確かにそうかも知れないけが... でも本心なんだ... 絶対嘘じゃない」

   女 「またそんなこと云ってる... 何だかあの頃、想いだすな... 」

   男 「あの頃... ?」

   女 「あなたが私にプロポーズした時のこと」

   男 「え? どうしてまたそんなこと... 」

   女 「だってあの時もあなたは今みたいに、柄でもない気障なセリフを淡々と、私に
      云ってたんだもの... 」

   男 「そうだったかな... 」

   女 「俺はお前と出会った時から、こいつしかないと思ってたんだ... 本心なんだ
      嘘じゃない... だから一緒になってくれって... そう云ったのよ、あなたは」
 
   男 「よく覚えてるな... そんなこと」
 
   女 「当然でしょ... 自分の人生を捧げた人の言葉なんですからね... 」

   男 「人生を捧げた人か... 」

   女 「そうよ...
      だから私はどんなことがあっても、決して不幸じゃないのよ... 」

   男 「こんなウダツの上がらない男と暮らしててもか...?」

   女 「それが全てじゃないでしょ... 男と女って... だって夫婦だもの... 」

   男 「..... 」

   女 「でもひとつだけ、不幸なことがあるかもね... 」

   男 「... 何だ?」

   女 「あなたと一緒にお酒が飲めないこと... それだけかな、あえて云うなら不幸って」

   男 「そうか... 確かにそうかもな... お前はホントに呑めないからな... それだけが
      玉にキズだな... 」

   女 「本人目の前にしてよく云うわね... まったく... 」

   男 「でも... そんなお前と酒を呑むことが、今の俺の夢かもしれないからな... 」

   女 「え...?」


不意に雨が降り出した...
辺りを覆い尽くすような、この季節のには少し珍しい冷たい雨...


   男 「いや、本当さ... 出来るならお前と一緒に飲んでみたいもんだ...
      そう... どうせならあの酒をあの店で、呑んでみたいな... 」


次の瞬間、彼女はその想いから解き放たれ.....

ヒールの音が止まった-----


   女 「バール、サンドリオン..... 」


彼女がそのドアを開いた.....


マスター 「いらっしゃいませ、ようこそ..... 」






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2011年06月15日

ギムレットの誘惑 -scene:final-




         誘惑 .....

         それは心を迷わせ、戸惑い、誘い込まれること ...
         そして、心がおびき出されること ...

         時として人は、それによって悲しみ ...
          それによって喜びに浸る ...

         その誘惑に魅せられた彼女の...
         その罪と罰とは-----



マスター(Na)それは当たり前と言えば、当たり前の ... 意外と言えば意外な結末で
      幕を閉じた、ある女性のお客様の出来事でした ...
      何故なら... 彼女はその電話の相手と会話を交わす間もなく、受話器を
      そっと置いたのですから -----

      それからの彼女は ...
      グラスに少し残った、尚も誘惑の色合いに輝くギムレットを
      只々じっと見つめたままでした ...
      そしてその表情には、淋しさや悲しみ、怒りというような喜怒哀楽の表情は
      なく、静かで穏やかな雰囲気を漂わせる面持ちでした-----

      やがて ...
      何人かのお客様がお見えになり、わたくしもそのオーダーに手を取られ
      声をお掛けする間もなく、時間だけが過ぎて行きました .....
   
      それから半時間程経った頃でしょうか -----


女    「マスター ... ごちそうさまでした ... とても美味しいギムレットでした」

マスター 「ありがとうございます ... そう云って頂けて、光栄です... 」

女    「誘惑は誘惑 ... それ以外の何ものでもなかったようです ... 」

マスター 「はい...?」

女    「私も罪を犯した分だけの、罰を受けたようです ... 」

マスター 「罰ですか... 」

女    「そう罰です ... ウフフ ... それも正真正銘、ぺけ印のバツでした ... 」

マスター 「でも、何もお話をされてないのでは... 」

女    「いいえ ... 私には充分でした、あれだけで ...
      そう ... たったあれだけのひと言で ... 」

マスター 「まさか ... 」

女    「多分、マスターのそのまさかは ... 正解じゃないかと ... 」

マスター 「 ... そうでしたか ... 」

女    「私って、ホントにお馬鹿さんだな ...
      3年という時の流れを無視しちゃうんだから... 」

マスター 「時の審判と言うべきものでしょうか... 」

女    「私は ... 終着駅にたどり着いたはずだったのに ... 」

マスター 「お客様は、ご存知でしょうか ... 」

女    「 ...え ...?」

マスター 「人は、旅路の果てにたどり着いた場所を終着駅と呼びますが...
      その一方では、その場所は新しい旅立ちへの始発駅になるということを... 」

女    「 ... 終着駅は、始発駅 ... 」

マスター 「 ... はい ... 」

女    「確かにそうかも知れませんね ... マスター ...
      素敵なセリフをありがとう... 」


マスター(Na) そう云って彼女は、ほんの少し潤んだ瞳を輝かせて、ドアの向こうへ消えて
      行かれました ...
      3杯目のギムレットを、グラスに残したまま -----

      そのギムレットには、こんなお話が人々に知られています ...
      かのレイモンド・チャンドラーが生んだハードボイルド小説の主人公である
      フィリップ・マローが好んだカクテルであり、「ギムレットには早すぎる」と
      いう名セリフが有名であると ...

      差し詰め ... 今宵の彼女の場合には...
      ギムレットは少し、遅すぎたのかも知れません -----




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2011年06月14日

ギムレットの誘惑 -scene:4-




         誘惑 .....

         それは心を迷わせ、戸惑い、誘い込まれること ...
         そして、心がおびき出されること ...

         時として人は、それによって悲しみ ...
         それによって喜びに浸る ...

         本来そうあってはならないものへのいざない ...
         その罪と罰とは -----


         キューブアイスの入れられたシェイカーの音が響き
         やがてグラス注がれる ...


マスター 「お待たせいたしました ... どうぞ」

女    「どうも ... (軽く口をつけ) ...マスター ... 」

マスター 「はい ... 何か ...?」

女    「このギムレットには、もう嫉妬させませんから ... 」

マスター 「と、おっしゃいますと...?」

女    「今の私には、ギムレットの嫉妬と言うより、誘惑と言った方がしっくりくると
      そう思うんですよ ... 」

マスター 「そうですね ... お客様の場合はそうなるかもしれませんね ... 」

女    「ギムレットの誘惑、か ... 」


         彼女はカクテルをゆっくりと一口-----


マスター 「確かに今夜は ... カクテルグラスを通してそのギムレットが、誘惑の色合いに
      輝いて見えますね ... 」

女    「でも ...
      誘惑という言葉の響きには、少しばかり罪の匂いが漂ってるような ... 」

マスター 「罪の匂い ...」

女    「そう ...
      本来、そうあってはならないものへのいざない ... 戒めに対する煽ぎたて ...
      そしてその戒めから、知らず知らずのうちに解き放たれようとする自分に
      気づいた時、もう一人の自分が罪の意識に目覚める ...
      どうやら安っぽい女のハートは ...
      振り子みたいに揺れ動いてるのかもしれない ... 」

マスター 「今もそうして揺れ動いているのでしょうか ... その女性のハートは」

女    「それはないと思う ...
      何故なら、その誘惑をこうして飲み干してるんですもの ... 」


         そう言って、彼女はカクテルを口にした-----


女    「でも馬鹿ね ... 私って ...
      そのために償いきれないような罪を犯したんだから ... 」

マスター 「罪を、ですか?」

女    「この世で一番私を大切にしてくれる彼を傷つけたんですから ... 」

マスター 「それが ... 誘惑の陰に漂う罪の匂いですか ... 」

女    「こんな女にでもあれほどやさしくしてくれたのに、私が彼に残してきたものは
      たったひと言『さよなら』と書いた手紙だけ ...
      そんな幕引きを罪と云わないのなら、他になんて呼べるの ... 」

マスター 「その方にも ... そんな罰を受ける、罪があったのかもしれません ... 」

女    「エッ...?」

マスター 「私もお客様と同じく... 女ですから... 」

女    「マスター ... 」

マスター 「それより ... そのギムレットの誘惑には、どう対処なさるんですか ...?」

女    「それはもう、決めてます ... マスター、電話をお借りしますね ... 」


         そう言って彼女は席を立ち、店の電話がある一角へ....
         そして受話器を取り、ダイヤルをする-----


女(Na) やっぱりここが、私の終着駅だと思う .....


         受話器から聞こえる呼び出し音...
         2回、3回とコールが続き...

         やがて-----


女    「ア、もしもし ... 」




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2011年06月13日

ギムレットの誘惑 -scene:3-




         誘惑 .....

         それは心を迷わせ、戸惑い、誘い込まれること...
         そして、心がおびき出されること...

         時として人は、それによって悲しみ...
         それによって喜びに浸る...

         彼女にとっての誘惑とは-----



女    「先輩の顔で、それなりに仕事をやり始めた頃は必死だった...
      何もかもに夢中で、あっという間に色んな時間を消化していた...
      今思うと、確かにあの頃は毎日が新鮮だったし、とても充実してたように
      思うな... 」

マスター 「輝いておられたんですね... そのグラスのように毎日が... 」

女    「そうかな... こんな風に輝いてたのかな... 」

マスター 「否定されるとウソになります... このお話が... 」

女    「そうですね ... 本当にそう云えるような毎日だったかもしれない...
      そんな時に彼とも出会ったたんだから... 」

マスター 「新しい出会いがあったのですね... 」

女    「仕事先で知り合って、最初の頃は軽い挨拶程度だったのに、それが会話になり
      食事になり... いつの間にか気がつくと、同じ時間の所有者になってた... 」

マスター 「男と女のセオリーですね... 」

女    「彼はやさしかった... どんな時でも私を大事にしてくれた....
      仮に自分の仕事が手一杯な時でも、たとえ友達との約束を断ってでも
      いつでも彼は私のことを一番に考えてくれてたし、心配もしてくれた... 」

マスター 「かけがえのない存在だったんですね... その方にとってお客様は」

女    「それは肌で感じてましたね... 私のような女でも、ひしひしと...
      逆に、こんなにやさしくしてもらっていいのかなって... 恐くなる程でしたね」

マスター 「でも、幸せだった... 」

女    「確かにそう... 幸せだった...
      自分でも夢見てるんじゃないかって思うほどに。
      ... もしこれが夢だったとしたら、覚めないようにとも思ってた...
      そう思いながらも1年という、彼との時間が現実に過ぎていった... 」

マスター 「やはり、夢ではなかったと ... 」
  
女    「... いいえ。それがやっぱり夢だったんですよね、彼とのことは... 」
  
マスター 「どうして、そう...?」
  
女    「いつの頃からか... 彼のやさしさが苦痛になりはじめたんです... 」
  
マスター 「やさしさが苦痛に、その姿を変えた,,, 」
  
女    「彼にとっての私に対するやさしさは、そのまま私から彼に対するやさしさで
      なければいけなかった... 」
  
マスター 「彼自身が自分と同じやさしさを、相手に求めていた... 」
  
女    「彼が仕事よりも私を優先すれば、私にも同じ判断を... 
      彼が友達との約束より私を選べば私にも同じ結果を... 彼は私に求めていた... 」
  
マスター 「やさしさの代償というべきなんでしょうか... この場合は」
  
女    「やさしさに代償が必要なんでしょうか... 」
  
マスター 「そう思われたときに、夢が醒めたと... 」
  
女    「脆かったですね... いいえ... 儚くて空しかったような... 」
  
マスター 「人の夢と書いて儚いと読みますが... 本当にそうなんでしょうか...
      少なくとも私は、そう思ってはおりませんが... 」
  
女    「いいえ... そんなものだと思いますね... 現に私の3年間という時間は、
      そんなものでしたから... 」


         彼女はゆっくりとカクテルを口にした-----


マスター 「お客様にとってその3年間という月日は、短かったのでしょうか... 」

女    「そうかも知れないし、そうでないのかも知れない...
      よくわからないな、自分でも... でもこれだけは云えそう...
      私にはこのギムレットというカクテルがお似合いだと... 」

マスター 「お久しぶりに口にされて、そう自覚された ... 」

女    「少し違う .. 再認識したんです ... 」

マスター 「再認識 ...?」

女    「そう... 3年経った今、やっと自分で素直に認められたみたい...
      このギムレットをはじめて私に教えてくれたあの人が、やはり私には一番
      お似合いなんだと... 」


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2011年06月12日

ギムレットの誘惑 -scene:2-




         誘惑 .....

         それは心を迷わせ、戸惑い、誘い込まれること ...
         そして、心がおびき出されること ...

         時として人は、それによって悲しみ ...
         それによって喜びに浸る ...

         さて、彼女とってその誘惑とは-----



女    「実を云うと ... このカクテルをこうして口にするのは、3年振りのこと
      なんです ... 」

マスター 「3年振りのギムレットですか ... 」

女    「この街に来て海の青さと潮風にこの頬をなでられたら、急にこのギムレットが
      飲みたくなって、それで ... 」

マスター 「それではこちらも3年振りに ... ?」

女    「そうなりますね。 ... あれからもう3年か ... 」


         彼女は感慨深く、カクテルをゆっくりと口にした-----


マスター 「何か想い出深いことでもあったご様子ですね ... 」

女    「そうですね ... ありましたね、3年前のちょうど今頃 ...
      馴染みのショットバーで、こうして同じようにこのギムレットを飲みながら
      あの人を待っていた ... いつまでも来ないあの人を ... 」

マスター 「いつまでも来ない ...?」

女    「そう... いつまでもいつまでも来なかった... 30分経っても1時間経っても...
      私の隣りの席は空いたままだった... 」

マスター 「結局、いらっしゃらなかったのでしょうか... その方は。」

女    「ええ ... その店にはとうとう現れなかった ... 途中、色々と思いあたる場所に
      連絡したりもしたけど、あの人の声はやっぱり聞けなかった ... 」

マスター 「そうでしたか ... 」

女    「流石に ... 私はあきらめて帰ろうと思い店を出て、タクシーを拾うつもりで
      辺りを見回してたその時、私の視界に彼の姿が飛び込んできた ... 
      とっさに嬉しいやら腹立たしいやら、複雑な心境で思わず声をかけようとした
      次の瞬間、私 ... 声が出なかった ... 」

マスター 「声が出なかった ...?」

女    「ううん ... 正確には出せなかったのよね ...
      だって彼の左隣りには、女性がいたんですもの ... 」
 

         マスターのグラスを拭く手が、一瞬止まった-----


女    「あの時の私は ... 怒りとか悲しみとか、そんな感情の起伏よりも先に ...
      ただ愕然って感じだった ... 」
 
マスター 「 ..... 」

女    「楽しそうだったわ ... 2人とも。少しお酒も入ってるようだったし ...
      それを見た途端、こっちも急に酔いがまわってきて... 後はお決まりの
      ヤケ酒コース ... 何だか馬鹿馬鹿しくって、涙も出なかったな、あの時は。
      ... 確か誰かが云ってた...
       --- 人は悲しみを通り過ぎると、涙も出ない --- って。
      まんざら嘘でもないなって、その時感じた ... 」

マスター 「確かに... そうかもしれませんね... 」

女    「それから色々あったけど、結局あの人のもとへは戻らず、私はこの街を出た...
      そして以前から行きたかった、東京へと旅立った... 」
 
マスター 「東京へ ...?」

女    「... それまでに何度か行こうと思ってたんですけど、どうしても
      自信がなくて、なかなか決心もつかないまま ... 結局行かず仕舞いだったんで」
   
マスター 「そうでしたか...  でもよく決心なさいましたね... 東京へ行こうと」

女    「とんでもない ... 勢いで行っただけですよ ...
      それも半分はヤケで、残りは逃避という勢いだけでね ... 」
   
マスター 「それは... 彼からの、それとも現実からの逃避だったのでしょうか...?」

女    「そうね ... 多分 ... 想い出からの逃避だったかな ... 」

マスター 「想い出からの逃避 ... 」

女    「あの人と過ごした、たった1年 ...
      その1年間の想い出だけを消してしまいたくて私はこの街を出た ...
      3年前に ... 」

マスター 「それでもこうして、この街に戻ってこられた... 」

女    「いいえ、マスター ...  戻って来たんじゃありません ... 」

マスター 「と、申されますと ... 」

女    「結局この街が ... 私の終着駅だったようで ... 」

マスター 「終着駅 ... 」





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